イヴニール攻略戦 攪乱攻撃
「日暮れと共に敵の攻撃が止みましたね」
「ああ、東側と南側はさほどたいしたことも無かった。だが西側にはそれなりの被害も出ている。油断は出来ないと思え」
「スラスさま、なぜ敵軍は西から来たのでしょうか?」
部下の問いに対して、スラスは一瞬答えに詰まった。それについては、彼の方が知りたいぐらいである。包囲され、そんなことまで考える余裕はなかった。ふと冷静になって考え、いくつかの可能性に言及する。
「・・・・・・わからん。と言いたいところだが、ふたつ可能性はある。ひとつは、南から別動隊が出ていて大きく西に迂回していたケース。もうひとつは、サン・セ・ルーヌを落として西から攻めて来たケースだな」
「なるほど。しかし、もうひとつあるのではないでしょうか?」
部下が不安げに尋ねる。その質問を聞いた瞬間に、スラスは否定した。
「アルル城を落としたと言いたいのか?ハハハッ、バカバカしい。不落の城だぞ、あそこは?攻略できる者などおらん。あり得ないことだ」
「そ、そうですね。ハハハ、すみませんバカな質問でした」
笑い飛ばしたものの、スラスの心には一抹の不安が夜の闇のように広がっていた。
やがて朝日が昇り始め、覆っていた暗闇のヴェールを光が剥がしていく。周囲の景色がうっすらと陽の光に照らされると、スラスたち城兵は度肝を抜かれた。西側に配置してあるはずの攻城塔がふたつとも消えていたのだ。
「攻城塔が!スラスさまっ、攻城塔がありません!」
「バカな!よく探せっ、近くにあるはずだ」
部下の報告を聞いたスラスはそう部下に命令しながらも、確かに攻城塔の影も形も無いことを認めざるを得なかった。呆然と西側を見つめるスラスの耳に兵の驚きの声が聞こえてくる。
「なっ!?あ、あれを見ろ!」
その声を聞いてスラスが後ろを振り返ってみると、昨日まで西城壁を攻めていた攻城塔が反対側の東にある。
「あ、あり得ない!ふたつとも移動してるだとっ!?」
スラスは夜明けとともに、その衝撃の事実を目の当たりにする。昨日までは、城塞都市の西側に攻城塔がふたつ配置されていたのだ。今日も西を中心に総攻撃が来るだろうと予測していたので、当然兵力の大半を西の城壁に配置している。それが、夜明けとともに攻城塔を用いて敵は東側から総攻撃を始めたのだ。
「どうやった!?あんなバカでかい物を簡単に動かせるわけないだろう!!」
「わ、わかりません・・・・・・。それらしい動きは無かったので、我々も全く気づきませんでした」
「クソっ!西側は最小限でいい、落とされる前に東側の城壁を守るぞっ!急げっ!!」
スラスは慌てて指示を飛ばしながら自身も走った。しかし、城塞都市であるイヴニールは西の城壁からから東の城壁までは相当の距離がある。東側の城壁の向こうには、昨日まで見たものと同じ攻城塔がふたつ迫っていた。
その様子を見て南側の城門にいたミラは隣にいるエルザに話しかけた。
「勝ったな」
「はいっ!これで私の計略は完成です」
エルザはミラに褒められてニコニコしながら答える。エルザが考案した組み立て式の攻城塔はレーヘ国内でも知られていない。昨日、エルザがミラに提案したのは、組み立て式の攻城塔を夜の内にバラして東に移動させることだった。
攻城塔には、リザを始め、アルス、パトス、ギュンターと錚々たるメンバーが乗り込んでいた。昨日は東側に1000程度の兵しか配置していなかったので、城壁にいる兵数も極めて少ない。ここが攻め時とみたアルスは、回復しきっていないにも関わらず自身も乗り込んで参戦した。
「アルス王子、昨日は挨拶出来ず申し訳ない。リザ・ミランダだ、よろしくお願いする」
「こちらこそ。よろしく頼むよ、リザ将軍」
アルスは、リザに差し出された手を握って握手をする。アルスはリザの恰好に驚いた。片手にハルバートを持ち、背中には剣、腰の両側には短剣を二本という出で立ちだ。
「随分装備が多いんだね」
「ああ、これですか。これが私の戦い方なんです」
「武器を選ばず・・・・・・か。器用なもんだね」
「ははは、器用さで言ったらシャルの方が上かもしれません。あいつはフォークでもナイフでも戦える奴なんで」
「ハハ、なるほどね。彼は確かにやりそうかもしれない」
攻城塔の防御壁の隙間からアルスが覗くと、城壁はもう目と鼻の先に迫っていた。
「もうすぐだ」
「アルス王子、私は飛んで突っ込むので前面の敵をお願い出来ますか?」
「了解。じゃあ僕は正面突破といこう」
地上からは、サシャ率いる弓部隊が城兵を次々と射抜いてサポートをする。さらに歩兵部隊が各所から梯子を掛けて登って攪乱する。東側に集結した兵士はその数1万。
昨日とは完全に様相が違い、十倍の兵力による攻めの勢いに城兵は対処が出来なくなっていた。その隙に迫った攻城塔が遂に城壁に辿り着く。防御壁を城壁に下ろすと、アルス・ミラ連合軍は一気に城壁に雪崩れ込んだ。
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