イヴニール攻略戦 エルザの武器
同刻、アルスとミラは狼煙台から煙が上がっているのを認める。
「イヴニールの方じゃな。リザのやつ早速イヴニールの攻略を始めておるな、儂らも急ぐぞ!」
「アルスさま、狼煙台の煙が見えるということは、彼らからも私たちが見えてるってことですよね。イヴニールにバレてしまいませんか?」
マリアが狼煙台の煙をじっと見ながらアルスに尋ねた。夕闇が間近に迫る空に、風に流されていく煙が遠くたなびいていく。
「問題ないよ。リュシアンがくれた地図のおかげで、今までの狼煙台は全て特定して先遣部隊が先に潰して来ている。それにもうこの時間だからね、彼らが気が付いてもう一度狼煙を上げても夜だよ」
「あっ、そうですね!夜なら煙は見えないから・・・・・・」
「うん、だから今のうちに距離を稼いでおきたいんだ」
アルス・ミラ連合軍は進軍を速め、夜通しの強行をする。そして、次の日の朝にはイヴニールの城壁に辿り着いていた。ミラは昇る朝日の光に照らされたイヴニール城塞の主塔を、眩しそうに手をかざしながら見る。
「さて、どうやって落とそうかのう」
「ミラさま、私に案があります!」
「エルザか、何か良い案はあるか?」
「はい!私が考案した攻城兵器を使いましょう」
エルザの後ろには、輸送部隊が運んで来た攻城兵器が運ばれてきていた。攻城兵器は現地で組み立てるものであって、そこまでは部品のまま運ばれる。長期戦に渡る場合には、最悪現地で材料を調達してゼロから作ることもあった。
「どんな攻城兵器を使うというんじゃ?」
ミラに問われたエルザは運ばれた攻城兵器の部品が置かれた場所まで走って行き「これです!」と元気よくミラに紹介しようとした。
「あっ!」
またもやコケたエルザを見て、ミラの横で執事のシャルが笑い転げている。
「貴様、そんな短い距離でよく二度もコケることが出来るな?生まれる前に運動神経をどこに置いてきたんじゃ?」
「す、砂に足を取られただけです。シャ、シャルさん!笑うとこじゃないです!」
「まぁ良い。で、それをどう使うんじゃ?」
ミラが呆れながら聞くと、エルザは意気揚々と説明を始めた。
「よくぞ聞いてくれました!通常の攻城兵器であれば、一から組み立てる必要があるのですが、これはその必要がないんです。ある程度組みあがっているので、現場で簡単に組み立てることが出来るんですよ」
「つまり、時間が短縮出来るということじゃな?」
「そうです!これを利用するのです」
エルザは、考えていた細かい作戦内容をミラに伝える。作戦を聞き終わるとミラはニヤッと笑った。
「さすがは我が軍の軍師じゃの、アルス殿下とも共有して詰めるとしよう」
「はいっ!」
嬉しそうに返事をするエルザの後ろでシャルがぼそぼそと耳打ちする。
「さすがソルシエール・シュヴァリエのひとりです。ミラさまのお傍にポニャありですね!」
「はいっ!ポニャありです!って、私はエルザですっ!!」
その後、アルスとミラは現地で戦っていたリザ将軍とも合流し、イヴニール城塞都市を包囲した。リザ将軍はすぐにミラと会って状況を報告。ミラからもエルザの作戦案をアルスと共に共有すると、すぐに作戦実行となった。
イヴニールの東、南、西の半包囲網を作り、西に攻城塔をふたつ配置する。エルザの指揮の下、攻城塔は短時間で組み上げられた。そして攻城塔をカバーするように、兵士たちは盾を掲げながら城壁に向かって走る。
城壁に辿り着いた兵士たちは、梯子を立てかけて登っていく。城壁からは、無数の矢や投石が飛んでくる。なかにはグラグラと煮立った鍋から熱湯やタールを浴びせられて、梯子から落ちていく兵士もいた。一進一退の攻防が続いていく。
「アルスさま、二度ほど挑みましたが失敗でした。敵の守備も甘くはないですね」
ギュンターが面目無さそうに報告するのを見てアルスは苦笑した。
「そうだね、特にオーラ持ちは集中的に狙われるから。オーラを前面に展開しても、脇から弓で狙われると防ぎようがない」
「いっそ部隊長全員で一斉に登ったらどうでしょうか?」
「んー、それは最後の賭けかな。相手にオーラ持ちが複数いる場合や精度の高い射手がいる場合は、かなり被害が出る可能性もある。攻城戦は個人の力というより、総合力だと思うんだ。それに、エルザの策もある。様子を見ながらじっくりいこうよ」
一方、東側を担当しているリザの軍も、一進一退の攻防が続いている。
「ひゃっほーう!当ったりぃぃ!」
時折、サシャが超長距離射程の矢で城兵を射抜く活躍を見せては、異常なハイテンションで盛り上がっている。だが、それ以外は他のところとそれほど変わりはない。
そして南側を担当しているのは、ミラである。こちらには攻城塔は配置されていない。南側は城門に当たるため、本来なら破城槌ぐらいあって良さそうなものだ。だがそれすらないので、西の攻城塔の付近に梯子を掛けたりしてのらりくらりとやっている。こうして三者三様の戦いを展開しつつも、時間は一刻一刻と過ぎていった。
やがて、陽が沈むとアルス・ミラ連合軍は攻撃を停止した。スラス率いる守備軍は、わけもわからない状況で包囲軍に対応するしかなかった。グラン・セッコの砦経由から来ていた敵に対処していたはずが、いつの間にか西からも敵軍が来たのだ。
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