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アルル城攻略戦5

「北の島、水没しました」


「南の島、水没です」


「西もダメです」


 水位はみるみるうちに上がっていく。城門前の島はもちろん、ギュンターやジャンが渡った橋も水没していく。やがて、慌ただしく階段を登って来た兵士の報告がリュシアンの戦意を砕いた。


「リュ、リュシアンさま!一階が水没しました。兵糧は全てダメです。兵糧を慌てて二階に運ぼうとした兵士も何人か巻き添えになりました」


「くっ・・・・・・」


 しばらくしてもうひとりの兵士が上がってくる。


「リュシアンさま、ダメです!二階にもかなり水が上がってます!」


「リュシアンさま・・・・・・」


 リュシアンは拳を固く握りしめたまま物見の部隊長のサンドルに尋ねる。


「援軍は見えないんだな?」


「残念ながら・・・・・・」


 力なく答えたサンドルの答えを聞いて、固く握りしめていた拳は力を失った。大きく溜め息を吐いて、窓の下に目をやる。眼下には大量の水に押し流された物資と人、そしてその向こうにはローレンツとミラの軍がひしめき合っていた。




「ここでの戦闘は終わった。流されて来る者は助けるんだ!無抵抗の者は殺してはダメだ」


 アルスは軍にこれを徹底し、水に押し流された兵士たちを接収した舟で救助していった。物資を守ろうとして一緒に流された者や、逃げ遅れた者たちである。彼らは水との格闘で疲れ果て、もう抵抗する気力すらなかった。


「アルスさま!アルル城の城壁を見てください」


 マリアが叫んで指を差した方向を見ると、アルル城の城壁には白旗が上がっていた。それを見て、アルスはホッと息を吐く。今回の一番の難所は、アルル城を如何に短期間で落とせるかにかかっていた。時間を掛け過ぎればレバッハが落ちてしまう。そうなれば最悪、挟撃されるのはこちら側になっていたからだ。


「よし、これでアルル城は落ちた」


 こうして、リュシアンは降伏し城を明け渡した。



 その日のうちに早速、両軍は会談の場を設ける。アルスとミラが城を制圧後、リュシアンのいる天幕に赴くと、両腕を後ろ手にして椅子に縛り付けられていた。


「縄を解いてやってくれないかな?」


 アルスの言葉で兵がリュシアンの縄を解く。リュシアンは縄の跡が付いた手首をさすりながらも、不思議な感覚に襲われていた。ローレンツの王子と名乗る自分より遥かに年下の少年に、この不落の城が落とされたことに実感が湧かない。


「ひとつ、聞きたい。俺は敵の将だ。なぜ縄を解いた?」


「それは、あなたに敬意を抱いたからです」


「なぜだ?」


「水攻めの計画を立案し実行したのは僕です。実行すれば、相応の被害が出ることはわかっていた。あの時点で戦闘の続行は不可能だったけど、それを決めるのはあなたの意志だ。もし兵の被害も無視して籠城すれば、被害は甚大なものになっていたはず」


 リュシアンは、アルスの言葉によってようやく城が落とされ敗けたという実感が湧いた。自国が攻められているさなかにも関わらず、ここを狙う大胆な戦略眼。加えてこの不落の城を短期間で落とす機略。シャルミールの魔女と、このアルスと名乗る少年の軍略に今のレーヘは太刀打ち出来ないだろう・・・・・・。


「あなたは領地と領民への被害を抑えようとした、違いますか?」


「・・・・・・そうだ。領主は、領民と領地を守るのが第一義だ。狼煙台も抑えられ、援軍の当てもないまま戦い続けるのは愚かだ。と言っても私は領主代理に過ぎないが」


「どうじゃ?貴様、ここにおるアルス王子と儂に協力せんか?」


 リュシアンは、ミラの突拍子もない提案に目を見開いた。殺されるのを覚悟していたのに、協力しろという。リュシアンの反応を待たずにアルスがさらに重ねて質問をした。


「リュシアン殿、あなたは今のラザール王の治世をどう思いますか?」


「どう・・・・・・とは?」


「あなたは、先ほど領主は領民と領地を守るのが大切だと述べた。現在のラザール王は領民、領地、そして臣下を守る王ですか?」


 そう質問されてリュシアンの脳裏に浮かんだのは、ラザール王の臣下に対する数々の非道だった。王のために兵を率いた将は、敗戦のたびに殺された。明らかに責任がなくとも殺された将もいる。また複数の臣下の妻が、ラザールの一夜の慰み者となった。そして、ここにいるシャルミールの魔女も、華々しい功績を上げながら一度たりとも論功行賞に呼ばれていない。リュシアンは頭を黙って振った。


「貴様もラザールの横暴をよう知っておるはずじゃ。貴様にとって何が大義じゃ?クソみたいな王に対する忠誠か?それとも国を想って行動することか?」


 ミラの問いにアルスがまた重ねる。


「あなたは領民のためを思って無条件降伏を選んだ。あなたが今協力を拒否しても、僕はあなたの命を奪うつもりはない」


「なっ!?」


「だそうじゃ。アルス王子は面白い男じゃろ?」


「最後に聞かせて欲しい、変な質問かもしれないが。あなたがたは、いったい何のために戦っているんだ?」


 アルスは、少し考えて答える。


「僕は、大切な仲間を守りたい。それが原点かな。その仲間が今はどんどん増えてるんだけどね」


「儂は嫌なことはやりたくないからじゃ!」


 ふたりの答えを聞いてリュシアンは笑った。


「ぷっ、はーっはっはっはっ・・・・・・!」


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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