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アルル城攻略戦4(水攻め)

「こ、こいつらビクともしねぇ・・・・・・」


「ぶはぁぁっ!!」


「ま、まてっ!押すなっ!」


 跳ね返された兵たちは重装騎士の持つ槍で突き殺されていく。トビアス軍は前方と横はガストン率いる重装騎士団に、岩の間の逃げ道を塞がれていった。そんななか、エミールは大きな岩の突起を利用して頂上まで登り上から矢を撃ちまくる。


 青く光っている矢じりはトビアス軍のさらなる混乱を招いた。なにしろその矢は、接触しただけで爆発、氷結、雷撃など、さまざまな現象を引き起こすのだ。盾を掲げて防ごうとした兵士たちも、盾ごと吹き飛ばされていく。


 エミールの矢が、敵にとって恐怖の対象となるのに時間はかからなかった。そこへ、トビアス軍が獲物と思って追い掛けていたローレンツ軍が、いつの間にか背後から猛攻撃を始めたのだ。追う者から追われる者へ。完全に囲まれてしまったトビアス軍は、あっという間にその数を減らしていく。


 戦場に血の匂いが充満し始め、それを風が運んでいった。その中心にいるのが両の手に剣を持つ戦士だった。右へ左へ移動しながら、敵の集団をあっという間に風の塵へと変えていく。双剣の戦士の刃がトビアスに届くまで、二十分とかからなかった。


「伯爵、お逃げください!」


「あんな化け物相手にどこに逃げると言うのだ!?降伏だ、降伏するっ!」


 トビアス伯爵は、自分の命の危険が迫るとあっさりと降伏を申し出た。その直後に白旗が上がり、そこで戦闘は終了。この短い時間でトビアス軍は半数以上の兵を失った。


「き、貴殿がこの部隊の将か?」


 トビアスは両手を挙げながら、双剣を持っている男に話しかける。


「ああ」


「言った通りだ。降伏する、財産と命を保証してくれ」


 トビアス伯爵は、デュラフォートの領主だ。シャルミールから北西に当たる比較的小さな州である。ヴェルナーが彼の降伏を認めたのは、無血開城が出来ると思ったからだ。


「この期に及んで財産か。デュラフォートの開城が出来たら命は保障しよう」


「わ、わかった。せ、せめて財産の一部だけも保障してもらえないか?」


 ヴェルナーはため息をついた。降伏すると言ってから色々と条件を付けて来る、厚かましい奴だ。


「その辺りの話は、アルスさまやミラ侯爵とするんだな。俺に決定権はない」


「な、頼む!なんとか口利きしてくれないか?」


 ヴェルナーはその貴族の執着に気持ち悪さを感じた。部下がこれだけ周りで死んでいる戦場で、自分だけは降伏して命乞い、そのうえ財産まで補償しろという。


「これ以上ごちゃごちゃ言うなら、今この場で首を刎ねるぞ?」


 ヴェルナーが首元に剣を突きつけると、トビアスは押し黙った。



「将軍・・・・・・トビアス伯爵は降伏したそうです」

・・・・・・そうか」


 じっと、様子を見守っていたジョゼ将軍率いる左翼軍がその報告を受けたのは、トビアス軍が壊滅して随分経ってからのことだった。


「少なくとも、あの岩地には入ってはいけないだろうな。見通しが悪い地形だ。何があったかわからんが、伏兵でも仕込んでいたのだろう」


「『魔女の騎士団』・・・・・・敵に回すと、相当手強いですね」


「厄介な相手だよ、出来れば戦いたくない」


「我々はどうしますか?」


「何もしないというわけにもいかんだろうな。やる気がないと思われてもマズいだろ」


 ジョゼはそう言ったものの、罠を恐れた将軍は積極的な攻めは展開しなかった。翌日もその翌日も小競り合いが起こるだけで、ジョゼの軍とヴェルナー・ガストン連合軍は膠着状態になっていく。




 一方、西のアルル城を攻略中のアルス・ミラ連合軍は、突貫で進めた築堤工事がほぼ終了していた。これにはふたつの要因がある。ひとつはベルトルトの緻密な計算で必要最低限の工事で終われたこと、もうひとつは、当初予想されたより堤の高さが必要でなかったことだ。


 加えて部隊長たちの驚異的な身体能力もあった。エディエンヌ川を支える堤防に近づくと、ガルダは戦斧に込めたオーラで破壊する。決壊した堤防からは、川の水が勢いよくドッと入り込んで来た。先日から続いた雨で、川の水の流量は多い。水はすり鉢状に低くなっている地形にどんどんと流れ込み、あっという間にアルスたちが築いた堤が半分以上水の底に沈んでいった。


 それを苦々しい目で見ていたのは、マクシミリアン公爵の弟リュシアンである。ローレンツとシャルミールの兵たちが、堤を築くために工事をしていたのはもちろん知っていた。


 しかし、それを知りながらもリュシアンたちは妨害することが出来なかった。アルル城の最大の利点は弱点でもある。それは外部との往来が一カ所に絞られてしまっていること。これが災いした。城門前を塞がれてしまうことで、打って出ることも出来ない。小舟でひっそりと夜襲も仕掛けたが、数が足らずすべて返り討ちにされてしまった。リュシアンは拳をぐっと固く握る。


「逐一、被害を報告せよ」


 アルル城の周りには人工的に島が築かれている。通常はそこへ兵糧を保管しておくのだが、リュシアンは築堤が始まると兵糧を全て城内に運び込んでいた。だからといって安心というわけではない。


 この城は水自体が防壁の役割を果たしていたので、高く作られていない。兵糧を城内に入れておいたとしても、城ごと沈んでしまえば意味がない。そもそも水という障壁を逆手に取られて、水攻めをされるなど想定されていなかった。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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