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アルル城攻略戦2 執事の仲裁

 しばらくすると、ジャンとギュンターが島の出口まで辿り着くところまで来ていた。ギュンターだけでなく、ジャンもオーラを展開して矢を一切寄せ付けない辺り、かなりの手練れなのだろう。彼らが出口付近まで来ると、城門からふたりの部隊長と思われる人間がジャンとギュンター目掛けて突っ込んだ。そこで激しい戦闘が始まった。


 敵の部隊長と思われるふたりは、うまく狭い地形を利用して連携を図りながら、攻め立てる。一方でジャンとギュンターは、その辺りの連携は全くない。ないどころか、狭い地形が災いしてふたり分の戦うスペースが取れないため武器を存分に振るうことが出来ない。


「おいっ!さっき俺は仕事の邪魔はすんなって言ったよな?」


「おまえが俺の邪魔をしてるんだ!バカでかい薙刀をこんな狭い所で振るなっ!」


「おい、いい加減にしろよ若造っ。温厚な俺も戦い方まで文句言われるのは勘弁ならねぇ!」


 遂にふたりとも、城門の兵を無視して今にも取っ組み合いが始まりそうな雰囲気になってしまった。


「このたわけがぁぁっ!!!どっち向いて戦っとるんじゃ!」


 ミラの怒りが爆発してる横で、アルスは手で顔を覆って深いため息をついた。城門から出て来た部隊長たちは、ふたりの険悪な雰囲気に気付いたようで距離を取っている。戦う相手がいなくなったふたりの矛先はお互いに向いてしまった。


 お互いに向き合いピリピリとした雰囲気のなか、ギュンターとジャンが同時に動き出した瞬間だった。超高速で動いた影が、一瞬でふたりの間に割って入る。


「ハイ、そこまでです」


 両の手に握られたナイフの先は、ふたりの喉元に突き付けられていた。


「うっ、シャル!邪魔すんなっ、俺は——」


 ジャンがそこまで言いかけたとき、シャルからどす黒いオーラが一気に噴出する。威圧するようなオーラを出しながらも、シャルは笑顔でジャンに伝える。


「ジャン、ミラさまがお呼びです。私が言いたいこと、わかりますね?」


「・・・・・・チッ、わーったよ」


 ジャンは仕方ないという手振りをして構えを解く。


「ギュンターさん、あなたもです」


「わ、わかりました・・・・・・」


 ギュンターは喉元に剣先を突きつけられて、一気に血の気を抜かれたような気がした。それほどにシャルの動きとオーラは他を圧倒していた。シャルの仲裁、というよりは、オーラに気圧されてジャンとギュンターは互いに矛を収めて兵を退くに至る。

 

 ジャンが散々ミラに説教されてる間に、アルスもギュンターと話をした。


「ギュンター、いつも冷静な君が戦場であんな失態を犯すなんて・・・・・・」


「申し訳ございません。私は・・・・・・いえ、なんでもありません」


 アルスとギュンターのやり取りを聞いていたパトスが、アルスに声を掛けた。


「アルスさま、私にはギュンター殿の気持ちもわかります。部下としては、自分が仕える主君が軽んじられる扱いを受けたら怒りを覚えるのは当然のことかと思います。今回は、ギュンター殿の生真面目さが裏目に出てしまったのでしょう」


 パトスがジャン将軍の言動のことについて言及していることはすぐにわかった。アルスとしては、ジャンの言動は特に気にならなかったが、それを侮辱と受け取る者もいるのは確かだ。


 長らく「魔素無し王子」と揶揄されて久しい。その辺の感覚が僕には欠如しているのかもしれない。そういえば、フランツの奴も以前言ってたな、その汚名を早く返上しろって。なるほど、そういうことか・・・・・・。アルスはパトスの言葉に深く頷いてギュンターに向き直った。


「なるほど、ギュンターの気持ちはわかったよ。僕のためにすまない。ただ——」


「アルス王子、ちょっと良いじゃろうか?」


 アルスが話しているとミラから声が掛かり、ふたりでしばらく話していた。そして、ミラはジャンを引き連れギュンターと同じ場所に座らせる。ジャンがギュンターの隣に座ると、ミラはふたりに刑の執行を伝えた。


「良いか、ふたりとも。どんな理由があるにせよ戦場での規律は規律じゃ。規律を乱す者はどんな者であっても許されることではない。従って罰は受けてもらう、棒打ちの刑じゃ」


 ジャンとギュンターは下を俯いたままだった。


 刑の執行後、ジャンとギュンターは痛みに耐えながら同じ場所で転がっていると、ジャンが気まずそうにぼそぼそと話し始めた。


「若いの。その、悪かったな。あの後散々お嬢に叱られちまった」


 ギュンターは、黙って背中越しに聞いていた。


「俺はな、元々ヤバイ仕事専門に請け負う殺し屋みたいな稼業をやっててよ。ある時、仕事に失敗して逃げ回っていたら、お嬢とあの執事に助けられた。助ける代わりに仲間になれって、な。あんときゃ、助かりたい一心でふたつ返事で了承した。だが、本心ではどっかで利用して逃げてやるって思ってたんだ。だがな、こんな俺でもお嬢はいつでも真正面からぶつかって来やがる。それが、いつの間にか心地良くなっちまってな。つまり、何が言いたいかっていうと・・・・・・」


「いや、いい。おまえの言いたいことはわかった」


「そうかよ・・・・・・」


 それからふたりの間に沈黙が流れたが、しばらくしてギュンターが口を開いた。


「・・・・・・俺もすまなかった。ついカッとなって子供じみた振る舞いをしてしまった。戦場ではあるまじき行為だ」


「・・・・・・お互い、良い主君を持ったな」


「・・・・・・ああ」


 次の日、彼らが目覚めると朝から何やら騒がしい。ギュンターが身体の痛みにしかめっ面をしながら歩いていると、ベルトルトと話しているアルスに会った。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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