アルスの秘策とエルザの智謀
「おおよそ10万の大軍・・・・・・。対してこちらはかき集めて3万といったところだね」
アルスが考え込んでいると、横から覗いていたフランツが地図を指でなぞりながら話し出した。
「なぁ、俺らとしてはとりあえず食料の足りないレバッハに輸送するのが最優先じゃないか?シャルミールには、そこの嬢ちゃんに行ってもらってレバッハを囲んでる敵の背後を突いてもらう隙に運び込むってのはどうだ?」
「いや、それだと何の解決にもならないんだ。確かにレバッハの籠城期間は長く出来るけど、それだけだ。もちろん、ミラ侯爵と挟撃出来るというメリットはありがたいのだけど。今回はヴァール城のことも考えないといけない・・・・・・」
アルスは地図を睨みながらまた考え込む。今回の戦はローレンツにとって圧倒的に不利な戦いだ。レーヘはローレンツの国土より遥かに大きく、徴兵出来る兵の数も段違いに多い。
そして、ローレンツ軍はベルンハルトとの戦いの直後で疲弊していた。さらにいえば、アルス自身を含め、フランツやジュリ、ドルフなどの戦力も万全とは程遠い状態である。加えて言えば、レバッハは二週間しか籠城が出来ない。
逆に利点は何か?それは、シャルミールの魔女「ミラ侯爵」を引き入れることに成功したことだろう。さらに、このことはまだラザール国王側は知らないはず。この点は圧倒的な利点だ。
このカードをどう切るかで勝負の行方は大きく変わって来る。戦略的にレバッハを救うことも可能だろう。シャルミールの州都、オー・ド・ジュヴェルーヌ城を経由して北東にあるロアール砦を通る。そして、一気にレバッハの南から敵の背後を突く。こうすれば城内のリヒャルトたちと挟撃することも出来る。
悪くないけど、出来れば敵全体に影響を与えたいな。となると、やっぱりここしかないか。アルスの視線はレーヘの戦略上の要衝であるアルル城に向けられていた。レーヘ国内では不落と呼ばれている城だ。
アルスは長い沈黙のあと、仲間に戦略を説明し始めた。
「僕らは全軍でシャルミールに行こう。それから、今回は建築士のベルトルトにも手伝ってもらう」
全てを説明したあと、今回の戦からは回復していないフランツ、ドルフ、エルンスト、ジュリを置いていくことを決めた。
その日の夕方ノルディッヒから青い狼煙が上がる。ミラが青い狼煙が上がっている報告を受けると、すぐに軍議を開いた。
「ローレンツから青い狼煙が上がった。これはつまり、フリードリヒ王が儂の案を飲んだということじゃ」
「確か、青い狼煙は『許可』(YES)という合図でしたね」
黒髪執事のシャルが頷きながら呟く。
「でも、狼煙だけではどこまで信用して良いのかがわかりませんよ?」
「ポニャ、そもそもそれがどちらであっても我々はどう動くべきかが問題なんです」
「シャルさん!・・・・・・誰ですかポニャって!?私はエルザですっ!」
ミラはそれを見てやれやれという表情をして、話を続けた。
「儂らはいずれにせよ、ローレンツからの連絡を待つしかないようじゃな。あのブタは儂らの連携を知らん。下手に儂らが動けばせっかくの連携を損ねることにもなりかねん」
「ミラさま、ラザール王と各諸侯はヴァールとレバッハを攻めてますよね。私としては、ロアール経由でレバッハの南に出ることをオススメします」
「確かにな。じゃが、ラザールが儂らの監視を完全に解くというのは考えられん。ロアールの北西にはイヴニールの街がある。ここにも軍は駐留しておるはずじゃ」
エルザは地図を見ながら「うーん」と唸る。盤上にある駒を動かしながら考えるエルザの横で、シャルはゆっくりと紅茶を飲んでいる。
何を考えてるんだか・・・・・・。エルザは心の中で溜め息をつきながら、頭を切り替えてミラに説明をした。
「確かにそうなんですが、中央のグラン・セッコと連携すればいけると思います。グラン・セッコの兵を州境に集結させて、イヴニールの目をそちらに向けさせるんです。その状態なら敵は迂闊に動くことは出来ませんから」
「なるほどの、確かに一理ありじゃな。向こうに提案してみるとするかの」
オー・ド・ジュヴェルーヌ城にアルスたちが到着したのは、ミラが軍議をした次の日の夕方だった。アルスは作戦が決まると、すぐに軍を起こしノルディッヒに向けて出発する。そして、ノルディッヒに軍を駐留させると、少数を引き連れてミラの居城を訪れていた。
「ミラさま!」
「ソフィアか!戦の最中にこんな所まで来るとは思っておらんかったぞ」
「いえ、国を想えばこそですわ。それよりミラさま。お連れいたしましたわ!アルトゥース殿下ですわ」
アルスはミラと目が合うと、お辞儀をした。
「ミラ侯爵、お初にお目にかかります。アルトゥース・フォン・アルノー・ド・ラ・ローレンツです」
「ミラ・バティストじゃ。まさか、アルトゥース王子自らここまで来られるとは思っておらんかった」
「アルスで構いませんよ。まぁ、ソフィアだけにこんな重大事を任せきりには出来ませんからね」
アルスはそう言われて苦笑いした。アチャズが帯同したとしても、よくミラ侯爵はソフィアをここまで信用してくれたと思う。ソフィアの能力の高さを買ってくれたのだとは思うけど、この決断力は凄い。
とはいえ、さすがにソフィアにこれ以上は任せられない。信憑性の問題もあるが、ここからは純軍事的な話になる。もはや政治や調略のステージを超えたのだ。悠長に会談などやっている場合ではない。
ミラは早速軍議に入った。
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