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ローレンツ王国の危機

「怪物化・・・・・・それって、最後にベルハルト兄さんの腕がおかしくなったのがそうなんだろうか・・・・・・?」


「俺は直接見ちゃいないが、戦った連中の話によれば戦闘の途中に何か飲んだ後に化け物になったらしいな」


「でも、ベルンハルト兄さんは何も飲んでいなかったし、最初から怪物だったわけでもなかったよ」


「妙なのはそこなんだ。俺が戦ったのはクルトって奴だったが、そいつが小瓶で何か飲んだ後はやたら強くなったけど怪物化はしてない。変化っていったら、オーラが黒くなってたぐらいだな」


「黒いオーラ!?」


 アルスが思わず叫んだのでフランツはびっくりした表情で、問い返した。


「それがどうかしたのか?」


「いや、ベルンハルト兄さんのオーラも黒かったんだ。となると、小瓶の中身を飲むと、怪物になるケースとそうじゃないケースがあるってことかもしれない」


 それを聞いていたマリアが不安そうに呟く。


「もしそれが大量に出回るようなことになれば、世界がおかしくなっちゃう・・・・・・」


「・・・・・・たぶんだけど、それはないと思う。その小瓶を作った人間の思惑が、ベルンハルト兄さんを勝たせることだったとしたら、もっと大量に渡しているはず。それをしなかったのは、単純に大量生産出来るようなものじゃないんじゃないかな」


 マリアたちが話していると、小さい足音がパタパタと走って来る音がする。息せき切って現れたのはソフィアだった。


「アルスさま!!!」


 彼女はそこまで言いかけると、大粒の涙を流しながらアルスに駆け寄った。


「アルスさま!すみません!こんなことになったのは私のせいですわ!」


 泣きながら、ソフィアは今までの経緯をアルスに話して聞かせた。シャルミールのミラ侯爵はソフィアとの約束通り、ベルハルトとの戦いの間にレーヘ軍を引き付けてくれていた。


 その後、ローレンツ軍の内乱収束の報を受けると、ソフィアはミラとの約束を果たすため黄色の狼煙を上げる。そのとき、ソフィア自身はその時のアルスの状態を知らない。アルスが無事であれば、早急に対策を打つことも可能だった。


 しかし、ソフィアはローレンツ軍の準備が整う前に狼煙を上げてしまった。そのため、レーヘからの急な同盟破棄と宣戦布告に対応しきれてないというのだ。


 アルスは一通りソフィアの話を聞くと笑った。


「ソフィアのせいじゃないよ。僕が倒れた時も想定して、そこまで詰めてなかった僕が悪かったんだ。ソフィアはよくやってくれたよ、ありがとう」


「うわーん、アルスさまぁぁ・・・・・・」


「大丈夫、きっと手はあるよ」


 シャルミールの魔女にはもっと頑張ってもらいたかったけど、こうなったら別の手を考えるしかないな・・・・・・。


「今の状況はどうなってるの?」


 ソフィアは泣きじゃくっていたので、隣にいるマリアが代わりに説明する。


「敵はレバッハ、ヴァール城を目指して進軍中です」


「王都を狙うなら、そのふたつは欲しいだろうね。こちらの陣容はどうなってるの?」


「こちらからは、オットー将軍と陛下がヴァール城に1万5000。レバッハにはリヒャルト将軍、フリッツ将軍、それにリース将軍合わせて1万4000という感じです。でも問題があって」


「問題?」


「はい。陛下がレバッハの糧食庫を焼き払ってしまったのが災いして、長期間の籠城が出来ないんです。ヴァレンシュタットやノルディッヒからある程度輸送は出来たんですが、時間が足りなくて・・・・・・」


 それを聞いていたソフィアが、またしくしくと泣き出している。それを見て、アルスがぽんぽんと頭を撫でた。


「ソフィアはソフィアの出来ることをやってくれたんだ。それで十分だよ」


「ううぅ、め“、め”んもぐないでずわ“。アルズざば・・・・・・」


 アルスはソフィアの様子を苦笑いしながら見て、再度マリアに尋ねた。


「どれくらいの期間なら籠城できるの?」


「ヴァール城は長期間に渡り籠城は出来ます。ただ、レバッハ城はもって二週間ほどと・・・・・・」


「二週間・・・・・・。思ったより時間が無いね」


 アルスは少し考えて、思いついたように今度はソフィアに尋ねる。


「そういえば、フリードリヒ兄さんにはミラ侯爵のことは伝わってるのかな?」


「その辺は抜かりないですわ。事前にミラさまからお手紙を預かってありましたので、宣戦布告があった直後に伯父から陛下に向けて早馬を飛ばしてあります。陛下はすぐに了承しましたわ」


「フリードリヒ兄さんからの手紙はもらってるかい?」


「はい、届いてますわ!あとはこれを持ってミラさまに伝えるだけですわ」


「よし、そこは僕らの思惑通りになりそうだね。その前に・・・・・・」


 アルスは、ベッドから起きて立ち上がる。マリアたちが心配そうな顔をして身体を支えてくれたが、動こうと思えば動ける、痛いだけ。アルスは部屋を出て、ドルフの寝ているベッドに行く。ドルフはベッドで寝ながら、無くなった左手をぼーっと眺めていた。


「アルスさま・・・・・・」


 ドルフはアルスに気が付くと、少しだけ顔を傾けて呟いた。


「すまない。僕がもう少し早く来れていれば・・・・・・」


 アルスは、ベルンハルトに吹き飛ばされた左手を見つめながらドルフに謝罪した。ドルフは、視線を自分の無くなった左腕に戻す。


「アジルは・・・・・・俺たち兄弟は、ずっとガキの頃から助け合ってきたっすよ」


 アルスは黙って頷いた。


「あいつは、役に立ちましたか・・・・・・?」


 ドルフの絞り出すような声に、アルスは胸が詰まるような思いだった。しばしの間をおいて、アルスは答える。


「レフェルト兄弟がベルンハルト兄さんを止めてくれなかったら、フリードリヒ陛下が先に討たれていたかもしれない。そうしたら、もっと大勢の人が死んでいたと思う」


「へっ、そうっすか・・・・・・」


「・・・・・・ドルフ」


「俺は、俺の弱さが憎らしい。兄として、あいつを守れなかった・・・・・・」


 天井を見上げたドルフの目には、涙が浮かんでいた。勝っても負けても業は積み重なっていく。どんな想いであれ戦って負ければ仲間たちは傷つき、勝っても相手や相手の家族は傷ついていく。


 ふと、アルスの視界に部屋のドアの傍で心配そうにしているマリアが映った。


『かくすれば かくするものと 知りながら 已むに已まれぬ 大和魂・・・・・・』


 どうせ選ばなければいけないなら、僕は愛する人や仲間を守る選択をする。その道がたとえ地獄だろうと・・・・・・。




 ドルフとの会話を終えたアルスは、沈痛な表情で部屋を出た。これ以上、じっとしている時間は無い。


 戦略図が置いてある執務室へと移動すると、地図を睨みつけた。


「レーヘ軍の情報があればいいんだけど。マリアは何か知らない?」


「ごめんなさい。詳細までは、わからなくて・・・・・・。ただ、ざっくりとした数は聞いてます。ヴァール城に迫ってる敵の数は5万、レバッハ城にも5万だそうです」


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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