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エルン城 制圧戦2

丘陵地帯の陰に馬を待機させた後は徒歩で近づく。先行した斥候の報告によれば、城は北側の守りはしっかりしているが、南側が手薄ということだった。エルン城は大陸の最南端に位置しており、海がそばにある。南側は海が近いのでそこまで守りを重視していないのだろう。ヘヴェテの奇襲に駆り出されて、恐らく城内に残っている兵も少ないはずだ。


 アルスは兵たちに甲冑を脱ぐように命じた。アルスの直属部隊は一様に黒い衣服に身を包み、まるで忍者のような格好になる。こういう事態を想定してアルスが用意していたものだ。


「アルスさま、奇襲は理解できますが、それならいっそ兵の半数を正面に配置して城兵の気を逸らしたらいかがですか?」そう尋ねたのはヴェルナーだ。


「うん、それも考えたけど今の状況なら全軍で奇襲をするほうがいいんだ」


「それはなぜでしょう?」


「相手は我が国に対して、北と南から自分たちが奇襲攻撃を仕掛けたつもりになってる。こういう場合は、相手にそれが成功させたと思わせておいたほうが効率がいいんだよ。下手に正面から攻めて相手の警戒を引き上げることは今回の場合は避けたほうがいいからね」


 相手が攻めてくることがわかっているなら、戦術的な策として正面と背面に分けて攻めるほうが良い。だが今回、相手はこちらに気付いていない。攻めて来るとすら思っていない。それなら兵を一極集中して短時間で落としてしまったほうが良いというのがアルスの考えだった。


「それに今回は時間がない。僕らがここでぐずぐずしていれば、ルンデルの正規兵が後方から戻って来る可能性だってある。そうなれば今度は僕らが窮地に陥ることになる」


「むう、そこまで考えてるとは・・・・・・愚問でした」


「いやいや、まだ何も成功してないんだ。さあ、エルン城をぼくたちで取ろう!」


 エルン城を大きく迂回しながらアルス隊は城の南側に到着した。ここまで来ると潮の香りが漂ってくるほどに海が近い。城壁に八人、左右に監視塔が配置されている。城壁の東側は修繕の途中になっており、少し崩れている状態だった。


「よし、東側の端から登ろう。ヴェルナーと僕で行く。エミールは監視塔を頼む」


「わかりました」


 アルスとヴェルナーは城の城壁まで闇に紛れて近づいていく。そして、城壁に辿り着くとヴェルナーは小瓶を取り出して魔素水を飲む。まず、アルスが壁に張り付き体に何本も巻き付けたナイフを石垣の隙間に刺していく。それを足場にして器用にヴェルナーが登っていった。


 城壁の上にはかがり火が何本も設置してある。また、城壁より遥かに高い監視塔にも兵が詰めているため、そのまま気づかれずに城壁の上に上がるのは困難だ。そのため、ふたりは東側の城壁の崩れた窪みに身体を隠して機を待った。


 エミールはふたりが城壁を登っている間に自身も城壁に近づいていく。何があっても対応出来るように集中力を高めていく。ここでふたりが城壁に上がれば、間違いなく監視塔に気づかれてしまうだろう。


 背の高い監視塔の小窓から、ちらちらと見える兵士を確実に倒す必要があった。この作戦の成否は全てエミールにかかっている。責任は重大であった。距離はそれほど遠くはなかったが、監視塔の高さと海から吹く海風が邪魔をする。


 エミールは弓と矢と狙うべきターゲットだけに集中を深めた。やがて、指先の感覚は弦を引き絞って張り詰めた弓と一体となる。弓に当たる風で矢が向かう先を探る。この独特な感覚でエミールは今までどんなものでも外すことはなかった。


 エミールは元々ハンターの家の生まれだった。父親に連れられて野山を歩き回り、幼い頃から狩りに連れて行ってもらっていた。父親から教わったのは獲物の特性、罠の設置の仕方や弓の引き方から獲物の狙い方だ。しかし、名うてのハンターだった父親から教わった一番大切なことは獲物と感覚を共有することだった。感覚を研ぎ澄ますことで獲物が何を感じているのかを理解することで、どこへ向かうのかを予測して矢を放てというのだ。


 エミールは最初、父親が言わんとしていることがさっぱり理解出来なかった。そもそもやれと言われて出来るようなことではない。毎日山に籠り、何度も何度も感覚を研ぎ澄ますことを身体で刻み込むのだ。そして、この作業を延々とこなしていったある日、獲物との感覚をピタッと合わすことが出来た。最初は十回に一回、これが回数をこなしていくうちに数回に一回と精度を上げていった。やがて、エミールは気づいた。この感覚がピタッと当てはまったときは一度も矢を外したことがないことに。


 エミールは城兵と感覚を合わせることに神経を研ぎ澄ました。そして、この感覚がピタッと当てはまった瞬間、バシュッという音と共に矢は放たれる。矢は海風を受け僅かに軌道が逸れる。しかし、エミールはその海風の軌道も読んだ上で矢を放っていた。


 矢は僅かに軌道を右にずらしながら飛んでいき、監視塔にいた兵士の胸元を貫いた。小さな悲鳴とともに兵士の姿が崩れ落ちる。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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