表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

168/242

グラン・セッコ砦の攻防

 中央のグラン・セッコを攻略するポッツォ将軍は、部隊編制を終えると重装歩兵団を前面に押し出して再度進軍を開始する。重装歩兵が盾を持って列を組んで進軍するのを、サシャはニヤニヤしながら待ち構えていた。


「なぁるほどねぇ!そうきたかぁ。もうちょっと粘ってみるけど、あとはリザさんにお任せしたほうがいいかな?」


 サシャは独り言ちながら、後ろを振り返る。高台の上からは黄色い煙が上がっていた。


「距離500ってとこか。んじゃ、もうちょっとだけ楽しんで頂こうかなん♪」


 サシャの身体からオーラがぶわっと立ち昇る。巨大な弓を引き絞ると、ギ、ギ、ギ、ギ、ギと弦と弓が軋む音が響く。狙いを定めると、空気を切り裂く風切り音を奏でながら巨大な矢が先頭の重装歩兵を捉えた。矢が放たれると同時に、先頭の歩兵は一斉に盾を構えて身を守る。  


 ズドンッッ!!!!!という音が響くと先頭の歩兵が盾ごと身体を貫かれた。それを見て部隊長が叫ぶ。


「怯むなっ、走って進んで距離を詰めろ!」


 それを聞いて、重装歩兵団は走り出した。装備が重いため、速度は出ないが確実にサシャとの距離は詰まっていく。


「さすがに硬いなぁ~。でも、なんのなんの。もう一撃いっちゃうよぉ♪」


 第二撃によって、今度は歩兵団の二人が貫かれる。その衝撃に巻き込まれて三人目も倒れた。


「距離200。ここまでくりゃ身体強化に全振りしなくてもいいよね。最後に見せちゃうよ~」


 サシャは矢をつがえて、弓を引き絞っていく。その際、矢にもオーラを集中させる。ギリギリと張力の限界まで引いた弓を一気に放す。至近距離から撃たれた矢は、重装歩兵を次々と貫いていく。


 巨大な矢じりが盾と鎧を貫くたびに激しい衝撃音が響く。それが連続で五回。周囲の兵も巻き込まれ、十人以上がバタバタと倒れた。それを見てサシャはガッツポーズをする。


「よっしゃ!あとは、リザさんにお任せして逃げよう!」


 サシャは背を向けると悠々と走り去る。敵側から見るとサシャは崖に沿って道を右手に去っていくので、姿は森に隠れてしまった。


 重量級の重装歩兵団は、そのまま走り続けるわけにもいかない。部隊長の指示で、サシャの姿が消えると通常の進軍速度に戻った。


 部隊がある程度崖下を通り過ぎたところで、高台にいる弓部隊が動く。縄に付けた壺を投げ縄の要領で先頭部隊にぶつけたのだ。ぶつかった衝撃で割れた壺の中からは特有の匂いが立ち込める。


「この匂い・・・・・・油だっ!」


「退けっ、退けぇ!」


 先遣部隊が戻ろうとして押し合いへし合いしているところに、火矢が注がれた。油をもろに被った歩兵は焼かれ、炎によって前後に分断されたところを襲われた。


 リザは歩兵300を引き連れ、炎によって取り残された先頭部隊を次々と屠っていく。リザは固定の武器を持たない。剣も槍も弓も、使えるものはその場に応じて何でも使う。


 今回は短剣を二本両手で持ち、重装歩兵の間をすり抜けながら素早く鎧の継ぎ目を狙って倒していく。引き連れた歩兵も、うまく継ぎ目を狙いながらリザの後につづく。


 ミラが集めた精鋭の中の精鋭である。通常の歩兵部隊では到底真似の出来ない動きで、瞬く間に敵の先遣部隊を殲滅してしまった。


「待ってよ~、せっかくここまで来たんだからさぁ。お土産いるっしょ~?欲しいよね?ねっ?あげるぞぉ~!遠慮するな~!」


 加えて、炎の壁を盾にしてサシャが追い打ちを仕掛ける。これで、さらに被害が拡大したポッツォ軍は再度後退を余儀なくされてしまった。


「サシャ、よくやった」


 サシャが振り返ると、リザがいつの間にか後ろに立っていた。


「へへへ、照れるなぁ。あたしゃ、言われた通りやっただけですよ」


「だが、これでさらに時間稼ぎが出来たわけだ」


「本格的な戦闘はしないんでしたっけ?」


「ミラさまにそう言われてる」


「なんで?」


「ローレンツの奴らに敵を残してやらんと、奴ら暇でしょうがないじゃろ?とか思ってるんじゃないか?」


 リザのモノマネにサシャは思わず噴き出した。


「アッハッハッハ!確かに言ってそう。てか、リザさんモノマネうまいですね」


「フフ、さて我らも一旦退いて休もう」


 こうして、グラン・セッコを攻めるドミニク・マクシミリアン両軍は機先を制され、停滞している間にリザたちは砦に籠ってしまう。その後は険しい地形を背景にした要害に立て籠もり、サシャを中心にひたすら護りに徹した。




 次の日の昼過ぎ、ノルディッヒ州から黄色の狼煙が上がった。そこから次々と狼煙は上がり、シャルミール領周辺の狼煙が上がる。しばらくすると、シャルミール領、最東端の狼煙台からも黄色の煙が上がり始めた。


 次の狼煙台から次の狼煙台へ、次々と黄色い煙が上がり僅かな時間でオー・ド・ジュヴェルーヌ城にいるミラとシャルの視界にも入る。狼煙を上げる許可は、ノルディッヒの領主リヒャルトから得たと言っていた。ソフィアからだろう。


「どうやら決着がついたようじゃな。しかし、妙に早いな・・・・・・」


「黄色、ということはローレンツの勝利ですか。ミラさまの言った通りの展開になりましたね」


「黒は敗北、黄色は勝利。そろそろ、儂の部下も動き出しておるじゃろうな」




 オー・ド・ジュヴェルーヌを経由して、狼煙台の煙は北上していき、やがてモーラボートの州境からも確認出来る位置まで上がった。


 モーラボートの州境でじっと黄色い煙が上がるのを見ていた男がひとり、州内へと消えていく。男はモーラボートを馬で一気に北上し、王都ミラン・キャスティアーヌに入った。


 そこで、メモを見ながらある酒場に入る。酒場に入ると、奥の方にひとりで酒を飲んでいる男がいた。褐色の肌に鋭い眼光、それとわかる武器は持ってないが近寄りがたい雰囲気がある。


 彼の名前はアシュ・アズィールといった。ミラのソルシエール・シュヴァリエのひとりだが、この国出身ではない。


 ジェルモと同じゴドア出身であるが、あるきっかけを理由にミラに仕えることとなった。男はその褐色の肌の持主のところにゆっくりと近づいて、さりげなくテーブルの上に革袋を置きながら、反対の席に座った。


「どっちだ?」


 置かれた革袋を見つめながら、アシュが低い声で後ろに座った男に尋ねる。


「黄色だ」


「順当といったところだな。まぁ、どっちにせよ俺としてはやることに変わりはない」


「いつやる?」


「今夜だ。早い方がいいだろう」

いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ