ソルシエール・シュヴァリエ
一方、レーヘ国内では商人たちを中心に、国内が内紛になるのではないかという噂が出始めていた。その噂の真相を確かめるべく、モーラボートの領主マクシミリアン・ルジェーヌ公爵は調査を開始した。
噂の内容はソフィアが推測した通り、ミラが反旗を翻すのではないか?というものだ。ここに噂を聞きつけた3大ギルドが乗っかった。早速、武器、鎧や糧食などの商いの話を各地の地方貴族に話を持ち掛け始める。マクシミリアンはシャルミール領の北側にある3つの砦に調査を向かわせた。帰って来た調査隊の報告は緊張をもたらすものだった。
「兵が集結しているだと!?」
「はっ、三つの砦全てに活発な動きがあります。正確な数はわかりませんが、かなりの数になるかと思われます」
「魔女め、このような時期にいったい何を考えているんだ・・・・・・?」
マクシミリアン公爵はしばらく、腕組みをして考えていたが埒が明かないと思ったのか、すぐにラザール王に報せるべく手紙を書いて送る。この手紙の内容は、即日ラザール王の知るところなり、王は激怒した。
「ふざっけるなよっ、あの小娘がぁぁ!父の嘆願で生かしておいてやった恩を仇で返す気か!?」
ラザール王はその場で手紙をビリビリと破り捨てて床に投げつけた。
「マクシミリアンと、ニコラに魔女の首をここに持って来いと伝えよ!」
「お待ちください陛下、まだあくまで噂の段階です。侯爵の真意を確かめてからでも遅くはないのではありませんか?」
「何を言ってる痴れ者がっ!病気と称して余の招集に応じないばかりか、兵を州境に集結させてるのだぞっ!余の可愛い息子が卑劣にも殺されたのだ!今こそ一致して余の怒りを示すのが臣下の務めだろうが!?」
ラザールは、諫めようとした政務官を蹴り飛ばした。
「父上!お待ちください。魔女の討伐に兵を出すのでしょう?私にも行かせてくれませんか?」
「おお、ドミニクよ!さすが我が息子じゃ。わかった、だが無理をするでないぞ?」
申し出たドミニクは、礼をすると勇んで出兵の準備に取り掛かった。こうして、シャルミール領は西のラ・エスカローナ州よりニコラ・ミュラ辺境伯、北のモーラボートよりマクシミリアン・ルジェーヌ公爵、そして王都ミラン・キャスティアーヌより王太子ドミニク・フィリップの三軍を相手にすることになる。ミラは、「魔女の騎士団」を三つの砦に分けて配置した。
ソルシエール・シュヴァリエ
「ミラさま~、配置表出来ましたっ!あっ」
エルザがミラに配置表を手渡そうとして何もない所でコケる。
「エルザ、貴様なんでいつも何もないところでコケるんじゃ?」
「はぁ、すみません・・・・・・。じゃなくて、ほんとにラザール陛下と戦をするのですか?」
「無論じゃ!と、言いたいところだが。ローレンツのためにわざわざ正面から戦って儂らが消耗するのは嫌じゃ」
元々、招集を断った時点で、紛争の火種はミラさまがつけてるんだけどなぁ・・・・・・。などとエルザは思いつつ、盤上に広げられた地図を見ながらミラに説明をした。
「中央の砦グラン・セッコを中心に、連携を図りながら遊撃隊を各所に配置するのがいいかと思います。守りに徹するなら難しくないと思いますよ」
「東のロアールに3000、北のグラン・セッコに5000、西のジヴェルーニに7000じゃな」
「はい、やはり西を流れるエディエンヌ川からの侵入が一番容易ですから」
「そうじゃな。大規模な輸送を舟で出来るというのは、何かと便利じゃからな。ふふ、とはいえ、あのブタがそこまで知恵が回るような気もせんがの」
エルザが地図に記されたエディエンヌ川に視線を落とす。ジヴェルーニの砦の西側を流れるこの川は、広く水深も深い。シャルミールは山が多い地形のため輸送部隊の移動にどうしても制限がかかる。もし川沿いに下るならば、部隊だけを先行して陣地を作り、そこに後から舟で輸送物資を送り届けることも可能だ。
「軍師ポニャ、そこの対策はどうするんですか?」
後ろから急に声がかかる。
「ヒッ!?」
エルザがびっくりして振り返ると、そこには執事のシャルが立っている。なんで、この人いっつも気配を消して近づくんだろ!?
「いきなり近づかないでください!あと、ポニャってなんですか!?私の名前はエルザ・ポニャトフスキです」
「はいはい。それで、ポニャト。もし万が一敵が川沿いに下って来たときの対策はあるのですか?」
「ひ、人をトマトみたいに呼ばないでください!」
エルザは真っ赤になって怒るが、それが余計に面白く感じるのかわからないが、シャルはニコニコしている。ミラはそれを見て呆れながら、はよ喋れと言わんばかりだ。エルザはそれを感じて慌てて説明を始めた。
「え、ええとですね。ジヴェルーニの砦に7000と言っても、西から侵入された場合は、北と南に部隊を分けて配置します。敵が川沿いに下って来るならほぼ確実に輸送を川に頼るはずなので、川の上流で輸送物資を襲撃してしまうのが効果的だと思います」
「そうじゃな。敵がどんなにアホゥでも輸送物資の警戒くらいはするじゃろうから、南に本隊の注意を向けておくための部隊と北の急襲部隊は分けたほうが良さそうじゃの」
「なるほど。さすがです、ミラさま」
シャルが顎に手を当てて感心しているのを横目で睨みながら、エルザはミラに気になっていたことを尋ねた。
「ミラさま、いつまでこの状態を維持すればいいんですかね?」
「どういうことじゃ?」
「えと、つまり、今回はローレンツの内乱が終わるまで私たちがラザール国王軍を引き付けるってことですよね?だいたいの期間は知っておきたいなと思ったのですが」
「ふむ、儂の知ってる限りじゃが。フリードリヒの弟は政治的にもう終わっておろうな。後ろ盾になっているブラインファルクがもう支えられんじゃろ。そういう意味では決着がついておる。そこを無視して武力行使に無理矢理出ても、兵の士気も上がらんじゃろうな」
「ということなら、短期で決着がつきますね」
ミラはエルザの言葉に少し考えていた。決着がついたらすぐに連絡が来るとは考えにくい。ある程度準備も必要だろう。
「ううむ、そうじゃな。勝つにせよ負けるにせよ、短期で決着がつく。そう長くはないじゃろうが・・・・・・。まぁ、よほどのことが無い限りローレンツの国王が敗けることは無い。というか、勝ってもらわなくては困るがの」
そして三日後。中央のジヴェルーニの砦に向けてニコラ・ミュラ辺境伯が一万、グラン・セッコの砦には王太子ドミニクとマクシミリアン・ルジェーヌ公爵が二万の軍を率いて進軍を開始した。
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