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秘密同盟

「待て、何を根拠に儂に叛意があると言える?」


「失礼ですが、ミラさまと、ラザール国王始め王族の方々との確執は衆知のものですわ。それに、先日ラザール国王からの出兵要請を拒否なさったことは、こちらのほうにまで伝わってきておりますわ」


 ミラはパンッと右手でグーを作って左の掌に打ち込んで怒りを顕わにする。


「フリードリヒという男、食えん男じゃな!」


「お言葉ですがミラさま、フリードリヒ陛下がそうされずともいずれこうなっていたと思いますわ」


「というと?」


「宗教を例に取りますが。例えば、ガーネット教は異教徒に対する扱いが酷いのはご存知かと思います。ですが、異端者に対する仕打ちは想像を絶するものだと聞いております。この違いは賢明なミラさまならお分かりになるかと思いますわ」


 ミラはソフィアの言っている意味を正確に理解した。ガーネット教は信者でない者には、布教するために慈悲も垂れるだろう。


 だが、既に信者だった者が裏切ったら?どちらに憎しみが湧くだろうかという簡単な話だ。ラザールにしてみれば、息子を殺したローレンツは憎いが、その仇討ちを断った身内はもっと憎いということになる。とはいえ、フリードリヒのやってることは、ついた火に風を送って焚きつけてることに変わりはない。


「なるほど、貴様の言っておることは理解した。じゃが、それは儂が今からでも出兵に応じれば問題はないのでは?」


「そうかもしれませんわ。でも、ミラさまは、そんなことなされないのでは?」


 ソフィアはニコっと笑いながら言う。アチャズはもう、ふたりの会話をただ聞いているしかなくなっていた。会話に入るには、想定外の上に想定外が積み重なり過ぎていた。


「なぜそう思う?」


「ミラさまは、自分の想いに真っすぐなお方だと伺ってますわ」


「ふん。もうひとつ聞く。ソフィアよ、推測とはいえ貴様はなぜ儂にフリードリヒの工作内容を教えるのじゃ?裏切り行為じゃぞ?」


 ミラの言葉にソフィアはゆっくりと首を振った。


「ミラさま、私がお仕えしてるのはアルスさま。アルトゥース殿下であって、フリードリヒ国王ではありません。また、ミラさまの今までの領内政治を見てますと3大ギルドやガーネット教の危険性を十分にご承知のようですわ。そうした方と手を取り合うのはローレンツにとっても国益にかなうことと思っておりますわ」


「なるほど、敵は共通していると言いたいんじゃな。じゃが、貴様らに手を貸したとして儂になんの得があるのじゃ?損得だけ考えたら、儂が招集に応じれば良いだけの話じゃぞ」


「ひとつは経済的利益ですわ。3大ギルドと対立なさってから、経済活動を妨害されていらっしゃるのでは?」


 ソフィアの言は的を射ていた。3大ギルドとガーネットを領内改革と称して追い出したまでは良かった。しかし、遠隔地商業を担っている交易商人たちが商業ギルドの圧力を受けて取引が出来なくなるなどの妨害を受けているのだ。


 そのため、陶器や塩を主な交易品として輸出していたシャルミールとしては経営難に陥っていた。そこでミラが目を付けたのが珪砂だ。海岸の砂浜からは大量の珪砂が採れるのだが、長年ガラスに加工する技術が無いため放置されてきた。


 そこで、なんとか希少なガラス職人を見つけて声を掛けるのだが、全て断られている。ミラから声が掛かると急に圧力が掛かったり、より高額な報酬で引き抜かれたりしていた。結局、産業化することすら出来ないのだ。


「確かに貴様の言う通りじゃ。具体的にはどうするのじゃ?」


「領地の南にはガラス海岸があると伺ってますわ。ガラス製品を産業化なさる気はありませんか?」


「それならとっくに取り組んでおる。じゃが、技術者がの・・・・・・」


「ノルディッヒには、鍛冶師が多くおりますわ。そのなかにはガラスの扱いが出来る者もいます。技術の提供も出来ると思いますわ。それから、我が領ではエリクサーを製造しております。その容器としてガラスを譲ってくださると嬉しいですわ」


 財政難のシャルミールに頭を抱えていたミラにとっては渡りに船のような話である。産業化の援助に加え、買い取り先までセットで得られるのであれば一石二鳥だ。ミラはニヤッと笑う。


「ソフィア、ちょっとあっちで女子会じゃ!」


 そう言って、向こうに見える小さい部屋に据えられたソファを指差す。ソフィアは笑顔で応じる。呆然としてるアチャズはそのままそこで待つことになった。


「・・・・・・私はいったいここへ何しに来たんでしょう・・・・・・?」


 アチャズは、ポツンと取り残された椅子の上でそう呟いた。



 小さい小部屋のソファの上にミラは胡坐をかいて座る。その後でソフィアが対面のソファに座って、話が続いた。長時間の話し合いの結果、ミラはソフィアの提案に乗ることになる。


 経済的な理由もあったが、何よりもミラ自身がラザールの下でウンザリしていたことが大きかった。また、ミラの頭の片隅には、ローレンツを戦に巻き込んでしまえばラザールを潰せるという計算もある。


 軍を州境に集結させ、ラザールから注意を引くことを約束した。ぶつかったとしても、レーヘ国最強を自負するミラには、ラザールを敵に回しても負けるとは毛頭思ってないが、長期に渡って分裂が長引けば、周辺国の侵略を招いてしまう。ミラはソフィアと話をするなかで、フリードリヒの思惑に気付き確認した。


「ソフィアよ。フリードリヒの狙いは三段構えじゃろ?」


「と、いいますと?」


「最善の結果はレーヘと戦にならない、これが一番じゃ。じゃが、それはもう無理だと思ってるじゃろ。よって、次善の策としてラザールと儂をぶつけて時間を稼ぎ、疲弊したところで残った方を討つ。今はこの段階じゃろうな。じゃが、これが失敗すれば、苦肉の策として儂と手を組もうとするじゃろう」


 ソフィアはミラが頭のなかできっちりと状況を整理出来ていることに感銘を覚えた。


「仰る通りですわ。そして、ミラさまと私が望んでいるのは三つ目の苦肉の策ですわ。これを如何に早い段階で陛下に選ばせるかです」


 そこで、ベルンハルトとの決着後にローレンツが巻き込まれ、且つ協力するように図ることをソフィアは提案した。これは、アルスとソフィアが密かに話し合った事である。


 レーヘの矛先をミラからローレンツに移すにはいくつか策があるが、これもミラの納得のいくものであった。勝利の暁には自領の自主独立の担保と、ラザール王の首を条件にミラはその提案を飲んだ。


 もちろん、ソフィアにその決定権はない。現段階では絵に描いた餅であり、フリードリヒにその条件を飲ませなければならない。ただし、フリードリヒにとっては二正面作戦を避けたいはず。あとはタイミングだけである。


 こうして話はまとまった。ベルンハルトとの会戦二日前のことである。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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