混戦
怪物が腕を振りかぶると、爪から複数の衝撃波が放たれる。動きは大雑把で狙いは不正確だったが、その威力は戦場を切り裂く。ガルダはオーラで衝撃波を相殺し、冷静に対処する。
まだ身体が馴染んでないようですな。ならば、短期決戦で!
怪物の口から再び衝撃波が放たれる。ガルダは笑みを浮かべた。
「一度見てしまえば、なんてことない! 今度はこっちの番ですぞ!」
衝撃波の軌道を戦斧で弾き、オーラを全解放。筋肉がエネルギーを蓄えるように膨張し、はち切れんばかりの腕で戦斧を振り上げる。
「はぁぁぁぁ!!! グランドクラッシャー!!!」
戦斧が大地に叩き込まれると、地面が海のうねりのように波打つ。 放射状に地割れが広がり、怪物は足場を失いよろめく。ガルダを見据え、怪物は咆哮を上げて上空へ跳ぶ。空中から直接襲いかかるつもりだ。
ガルダはその瞬間を見逃さなかった。戦斧を握り直し、前方へ疾走。怪物の跳躍に合わせ、自身も跳ぶ。オーラを身体中に巡らせ、戦斧に全力を込める。怪物が咆哮し、口から衝撃波を放つ。ガルダはそれを真正面から弾き、振り上げた戦斧に魂を宿す。
「これで終わりにする! 鬼斧神撃ぃぃぃ!!!」
戦斧が振り下ろされると、巨大なオーラの斬撃が現れる。それはまるで天を裂く巨斧の幻影。
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォン!
斬撃は怪物の身体を縦に両断し、天地を震わせた。
怪物の身体は二つに分かれ、緑色の血が戦場に降り注ぐ。無数の目が一瞬、ガルダを見つめ、静かに閉じた。バーバラの最後の意識が、闇に沈んだ。
ガルダは戦斧を地面に突き立て、荒々しく息をつく。戦場の土煙が晴れ、フリッツの兵が勝利の雄叫びを上げた。彼の視線が、怪物の残骸に落ちる。そこには、砕けた小瓶の破片が血に塗れていた。
ベルンハルトの野望が、どれほどの犠牲を求めるのか、ガルダは戦慄を覚える。
「ガルダ殿、よくやった!」
フリッツが駆け寄り、肩を叩く。ガルダは苦笑し、戦斧を担いだ。
「まだ終わっちゃいませんぞ。ベルンハルトが動いてる以上、こんな化け物がまた出てくるやもしれません」
フリッツの顔が曇る。
「そうだな・・・・・・。だが、今はこの勝利を糧に、次に備えるしかあるまい」
ガルダは頷き、戦場を見渡す。ティッツ村の空は血のように赤く染まり、遠くで新たな戦いの地響きが聞こえていた。
トーレイの山道は、血と衝撃波に塗れていた。フランツとクルトの戦いは、熾烈を極めていた。ベルンハルトから渡された小瓶の赤黒い液体は、クルトの身体を侵食し、彼の戦闘力を人間の限界を超えた領域へと押し上げていた。漆黒のオーラは蛇行剣に絡みつき、戦場を闇で塗り潰す。だが、フランツは戦いのなかで進化していた。
突き、弾き、薙ぎ、袈裟斬り、打ち下ろし、打ち上げ——クルトの蛇行剣は無限の軌道を生み出し、予測不能な角度で襲いかかる。フランツは剣先にオーラを集中させ、受けきれない攻撃を爆発的に弾き返す荒業で対抗する。最初はクルトの神速に翻弄されたが、限界を超えるたびに適応し、剣筋を読み始めた。
打ち合いは三百合を超え、戦場は火花と地響きに支配される。フランツの身体は無数の傷で血に染まり、意識がぼやける瞬間が増えていた。致命傷を避け続けられたのは、彼の類まれなる戦いのセンス——本能的な剣の才に他ならない。
クルトは内心、衝撃を受けていた。ベルンハルト以外に、ここまで互角に打ち合える相手を知らない。彼は無口で感情を表さず、十傑第一席の称号は彼を孤立させた。だが、フランツの剣には、どこか魂の共鳴を感じる。初めて、戦いに「楽しさ」を覚えた。
「これほど戦いが面白いと感じたことはなかった。君、やっぱり強いよ」
「あ? てめえの感想なんざ聞いてねえよ!」
「君が隊で最強なのか? 残念だな、アルトゥース王子を助けに行けなくて」
「何言ってんだ、お前? そもそも心配なんかしちゃいねえ。あいつは俺と同じくらい強え。つまり、アルスはお前より強えんだよ」
「どうかな? 少なくともベルンハルトさまは俺より強い。アルトゥース王子が討たれりゃ、君の部隊も終わりだろ?」
「俺の仕事はてめえを倒すことだ。あいつはあいつの仕事をすりゃいい。それ以上でも以下でもねえ。無駄話してねえで、とっとと続けようぜ!」
「ふふふ。随分フラフラしてるな。そろそろ決着をつけるか。ベルンハルトさまの補佐に戻らないと」
フランツの視界は歪み、意識が薄れつつあった。傷口からの出血と長時間の激闘が、彼の身体を限界に追い込んでいた。このまま時間をかければ、敗北は確実だ。
「余計なお世話だ。アルスの元には行かせねえ。あいつの邪魔は、誰にもさせねえ!」
フランツは初めてオーラを全解放。眩い光が戦場を照らし、クルトは目を見開く。彼もまた漆黒のオーラを全解放し、両者のオーラが激突。光と闇が弾け合い、大気がビリビリと震えた。
「これで終わりだ。スネークラッシュ!」
クルトの蛇行剣から、無数の黒いオーラが蛇のようにうねり、フランツを襲う。その軌道は予測不能で、戦場を闇の奔流で覆い尽くす。フランツは感覚を極限まで研ぎ澄まし、全集中力を剣に注ぐ。集中、集中、集中・・・・・・! 黒い軌道を視て、感じ、予測する。やがて、彼の意識は無の境地へ——。
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