レフェルト兄弟
ヴァレンシュタットを出立したフリードリヒ王の軍は、5000の兵でカッセルに猛攻を仕掛けた。迎え撃つのは十傑の第五席レオン・ザルムートと第七席ゴードン・ディルレヴァンガー、わずか1600の軍勢。3倍近い兵力差にもかかわらず、両者の武力はフリードリヒ軍を押し留めていた。だが、均衡を崩したのは「王の両腕」——ヴァルター・フォン・レッセドルフとアルベルト・フォン・ケーニッヒ。フリードリヒ麾下最強の両名は、レオンとゴードンの武力を抑え込み、戦局を数による押し合いに変えた。
フリードリヒ軍は次々とベルンハルト軍を撃破。包囲網がレオンとゴードンに迫る中、戦場の外縁で土煙が上がり、混乱が広がった。勝利の女神がフリードリヒから離れた瞬間だった。黒い甲冑に身を包んだ軍団が、包囲するフリードリヒ軍に突撃。率いるのは、ベルンハルトである。
ベルンハルトの周囲では、漆黒のオーラが暴風のように渦巻いた。彼が剣を振るうたび、濁流のような黒い波がフリードリヒ軍を飲み込み、血と断末魔の叫びが戦場を染める。一直線にレオンとゴードンへ向かうその姿は、まるで死神の行進である。兵は触れるだけで塵と化し、陣形は一瞬で崩壊した。
ベルンハルトはレオンを抑えていたアルベルトに襲いかかり、たった一閃で首を刎ねた。「王の両腕」の一人が、抵抗すら許されず地に伏す。レオンとゴードンが合流すると、ベルンハルトを中心にフリードリヒ軍を食い破る猛攻が始まった。
「ベルンハルトさま、お待ちしておりました!」
「待たせたな、レオン。フリードリヒの居場所さえ掴めば、こちらのものだ」
「ここで一気に決着をつけましょう!」
ベルンハルトの目的は明確だった。勝利条件はただ一つ——王を討つこと。フリードリヒを仕留めれば全てが終わる。彼は最精鋭3000を温存し、王を狙うシンプルな戦略を取った。兵数ではなく個の力を信じる。フリードリヒは、ベルンハルト軍を5カ所に分散させ、各個撃破を狙う策を講じた。だが、その策はフリードリヒ自身を危険に晒す結果となる。ベルンハルトの圧倒的な武力と3000の強兵が、包囲の外側から横撃を加えたのだ。
フリードリヒ軍の油断——勝利の確信が、彼らの目を曇らせていた。虚を突かれた軍は弓矢で牽制しつつ後退を強いられ、押し込まれる。パール付近のフリッツ将軍は、この状況を見てアルスに緊急の救援を要請したのだった。
アルスから派遣されたドルフとアジル——レフェルト兄弟が、100騎を率いて戦場に駆けつけた。彼らはベルンハルト軍の脇腹に南から突撃し、持ち前の武力で錐のように穴を開ける。ゴードンが守る右翼まで辿り着くと、兄弟の連携技が炸裂。ゴードンは翻弄され、ついに討ち取られた。
ベルンハルト軍の右翼が鈍り、フリードリヒ軍は息を吹き返す。だが、それは一瞬の希望に過ぎなかった。ゴードンの死を知ったベルンハルトは、烈火の如く怒りを爆発させた。その矛先は、レフェルト兄弟に向けられる。
「貴様らだな、ゴードンを討ったのは!? 消えろ!」
ベルンハルトの漆黒のオーラが渦を巻き、衝撃波が放たれる。ドルフは剣で受け止めるが、ドズンッ! という衝撃音と共に馬ごと押し流される。
「んぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
「あ、兄貴!!!」
アジルも咄嗟に剣にオーラを込め、衝撃波を受け止める。
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっしゃああああああああ!!!!!」
兄弟は全オーラを解放し、黒い衝撃波を辛うじて弾き返す。
「はぁはぁ・・・・・・兄貴、こいつヤバすぎるぜ」
「わぁってるよ、んなこたぁ。距離取りながらなんとかするしかねぇ」
「俺の一撃を弾いたのは褒めてやる」
ベルンハルトが剣を構える。ドルフは連続で衝撃波を放ち、アジルが近接攻撃を仕掛ける。悪鬼隊のレフェルト兄弟として名を馳せた彼らの連携は、バートラム大将軍とも渡り合った実力だ。だが、ベルンハルトはアジルが距離を詰める前に、第二の衝撃波を放つ。漆黒の波は触れるものを塵に変え、ドルフの衝撃波を飲み込んだ。
「くそっ、俺のじゃオーラの量が・・・・・・」
ドルフが軌道を逸らそうと剣で受ける中、アジルが斬りかかる。一合、二合、三合——そこで限界だった。ベルンハルトの剣が横に流れると、アジルの胸から血飛沫が上がる。
「ゴボッ・・・・・・!」
肺を裂かれたアジルは息を吸えず、意識が暗転する。い、息が吸えない・・・・・・。オーラが練れ、ない。兄貴、すま、ねぇ・・・・・・。 最期の力を振り絞り、剣を振り下ろす。だが、力ない一撃はベルンハルトの肩当てにコツンと当たるだけだった。衝撃波がアジルを吹き飛ばし、彼の身体は塵と化して消えた。
「あ、あ、あああああああああああああっっっっ!!!!」
ドルフは声にならない声で叫びながら、オーラを全解放してベルンハルトに突撃する。衝撃波を放ちながら一気に距離を詰めて斬りかかった。ベルンハルトは、ドルフの放つ衝撃波をことごとく弾き飛ばすと、ドルフの剣を受け流す。怒りと混乱状態のドルフの剣はベルンハルトには届かなかった。数合切り結ぶと、左腕に衝撃と痛みが走る。ドルフが苦痛に顔を歪めたときには、自分の左腕が宙を舞っていた。
勝てない・・・・・・すまない、アジル・・・・・・!
ドルフは振り下ろされる剣を、他人事のように見つめる。
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