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フランツ VS クルト

 トーレイの岩場にそびえる天然の要塞は、侵入者を拒む鉄壁の地形だった。リヒャルトは5000の兵で街を包囲したが、唯一の山道は十傑の第一席クルト・ガドリングと末席ブルーノ・シュトルムによって封鎖されていた。三度の突撃は全て撃退され、遠距離からの弓矢も盾に阻まれ効果なし。リヒャルトは苛立ちを隠せなかった。


「参ったな、あそこに陣取られちゃ・・・・・・どうにもならん」


 そこに、フランツとベルが現れる。リヒャルトは彼らを歓迎しつつ、苦々しく状況を説明した。


「打つ手なしとは言わんが、力押しじゃ被害が増えるばかりでな・・・・・・」


「まぁ、要するに俺がそのクルトって奴をぶっ倒せばいいんだろ?」


 フランツが話を遮り、ニカッと笑う。リヒャルトは苦笑した。


「フランツ殿は相変わらずだな」


「面倒くさく考えるの嫌いなんだよ。そいつ倒せば終わり! 簡単でいいだろ?」


 フランツは豪快に笑い、リヒャルトと自らの兵を率いて山道を登り始めた。ベルは無言でその背を追う。


 山道の頂で、ブルーノが敵の接近に気づく。


「クルトさん、また性懲りもなく来やがりましたぜ?」


「ああ」


「学習能力ねえんじゃねえですか?」


 ブルーノがせせら笑うが、クルトの反応はいつも通り薄い。まるで戦場に興味がないかのような冷淡さだ。


「あーーーっ! あいつ!!」


 ブルーノが叫び、指を差す。先頭で剣を担ぎ、ニヤニヤと笑う男——フランツが兵を率いて迫ってくる。


「あれがどうした?」


 クルトは無感情に尋ねる。


「王都でやり合った連中のひとりですよ! 気をつけてください、クルトさん。あいつ、かなりやりますぜ!」


「あー、そうなんだ」


 クルトの淡白な返答に、ブルーノは肩をすくめた。



 山道の頂で、フランツはクルトと対峙した。


「オーラで分かるぜ。お前がクルトって奴だな?」


「そうだよ」


「そっか。ベル、隣の奴はお前に任せた」


 ベルは無言で頷き、ブルーノと向き合う。クルトは背中の蛇行剣に手をかけ、ゆっくり構えた。刃は蛇の如くうねり、禍々しい輝きを放つ。


 クルトが一歩、二歩踏み出し、姿勢を沈める。刹那、雷鳴のような速さでフランツに突進。フランツも負けじと剣を振り上げ、突進する。二人がぶつかった瞬間、戦場は火花と衝撃波に包まれた。


 周囲の兵は息を呑み、両軍の命運を握る戦いを見守る。クルトの蛇行剣は、蛇が這うように軌道を変え、予測不能な角度でフランツを襲う。


 なんだ、このクネクネした剣筋!? 読めねえ・・・! 弾いても角度を変えてくる!

フランツが剣で弾いても、蛇行剣は軌道を曲げ、身体を掠める。鋭い痛みとともに、傷が刻まれる。蛇行剣の刃は、通常の剣とは異なる。抉るように傷口を広げ、わずかな切り傷でも出血を加速させる。フランツのオークルの剣とクルトの蛇行剣は、火花を散らし、互いを削り合う。


 十合、二十合、三十合……打ち合いは百合に及んだ。クルトは悟る。技のキレ、反応速度、身体強化の制御——全てにおいて、フランツが髪の毛一本の差で上回りつつある。蛇行剣の剣筋に対応し始めているのだ。


 まだ余力はある。だが、奴も同じだ・・・・・・!


 クルトは武人としての矜持より、勝利にこだわる男だった。俺が負ければ、ベルンハルトさまの策が崩れる。負けるわけにはいかない。


「少し待て」


 クルトは距離を取り、フランツに告げる。


「は?」


 フランツがポカンとする中、クルトは懐から小瓶を取り出し、赤黒い液体を一気に飲み干した。


 ドクンッ!


 クルトの心臓が大きく脈打つ。喉が焼けつくように熱くなり、内臓が炎に炙られる痛みが全身を駆け巡る。頭を締め付ける激痛の中、血管が膨張し、血液が猛烈な速度で巡る。


 意識が・・・・・・飛ぶ・・・・・・! いや、耐えろ、耐えろ!


 何かに浸食される恐怖に抗い、クルトは無意識にオーラを身体の中心に凝縮。闇の思念が彼の魂を飲み込もうとするが、必死に抗う。やがて、頭の痛みが消え、身体の苦しみが薄れる。代わりに、沸き上がるのは圧倒的な高揚感と破壊衝動だった。


「なるほど・・・・・・ベルンハルトさまの言っていたことは本当だった」


「あ? 何やってんだ、お前?」


「君、強いよ。だけど今は君に感謝だ」


「は?」


「ハハ、いや、なんだろうな。こんな清々しい気分、初めてだ。こんな気持ちで戦えるなんて」


「気持ち悪い奴だな。ごちゃごちゃ訳わかんねえこと言ってねえで、かかってこい!」


「そうだな。悪かった」


 クルトの身体から、漆黒のオーラが溢れ出す。フランツはそれを見て、背筋に冷たい戦慄が走る。黒いオーラが揺らぐと、クルトの姿が消えた。


 速え!


 フランツは無意識に左へ跳んだ。意識の介在する隙間はなく、本能が彼を動かした。着地した瞬間、脇腹に熱い痛みが走る。斬られた! 額から汗が滴り、地面に落ちる前にフランツは振り向き、前へ踏み出す。後退すれば即座に斬られる——本能がそう告げていた。


 こいつ・・・・・・さっきの人間じゃねえ! 別次元の存在だ!


 フランツはオーラを全解放。地面を抉る勢いで踏み込み、爆発的な速度でクルトに突撃。渾身の一撃を放つ。



ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!



 クルトは身体全体で受け止め、十数トゥルク後方へ吹き飛ばされる。だが、フランツの全オーラを込めた一撃を受けきった。クルトは無意識に笑っていた。不気味な笑みだが、彼はフランツの力量に満足感を覚えていた。


 戦うこと・・・・・・俺は常に冷静で、結果だけを追い求めてきた。感情なんて無駄だ。勝てばいい、ただそれだけのはずだ。なのに、この沸き上がる衝動はなんだ!? まるで魂が燃えるようなこの感覚・・・・・・!?


 漆黒のオーラが囁く。「全てを破壊しろ」と。黒いオーラはさらに膨張し、クルトは一瞬でフランツとの距離を詰める。オーラを解放し、突進の速度を乗せた蛇行剣の一撃を放つ。



 ドォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!



 フランツも全オーラをぶつけ、衝突の衝撃で地面が抉られ、地響きが戦場を揺らす。クルトの攻撃を受けきれず、フランツが十数トゥルク吹き飛ばされる。立ち上がる彼に、クルトは畳みかけるように突撃。フランツは無言で応じ、両者の剣撃は爆発のように戦場を焼き尽くした。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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