ガルダ VS バーバラ
「あん、たも、武人なら、わかるでしょ。女が戦、場に立つ、意味」
カミラの声は血と混じり、弱々しく途切れた。彼女の言葉に、マリアは胸を締め付けられる思いだった。女が戦場に立つ意味——それは、死ななければ凌辱と地獄が待つ過酷な現実。マリア自身、母親から戦場へ出ることを何度も反対されてきた。それでも戦う道を選んだ自分と、カミラの選択は同じだった。だが、それでも——。
「わた、しには、戦う、しか……」
カミラの言葉はそこで途絶え、彼女の身体は動かなくなった。マリアは静かに膝をつき、こと切れたカミラの瞳をそっと閉じた。
「ごめんなさい……」
その声は、戦場の喧騒に飲み込まれ、誰にも届かなかった。
その頃、ガルダは第四席のバーバラ・メリオースと激しい戦いを繰り広げていた。ガルダの戦斧がバーバラの剣と火花を散らし、圧倒的な膂力で彼女を押し込む。バーバラはスピードで対抗し、ガルダの戦斧が振り下ろされる一瞬を狙い、正確に小手を叩き込む。ガルダはそれを戦斧の柄を回転させて防ぎ、互いの技量が拮抗する攻防が続いた。
「あんたバカでかい図体の割によく動くじゃないか」
「敵と話すことは何もありませんな」
「そうかい、じゃあ遠慮なくこちらもいかせてもらうとするよ」
バーバラの周囲でオーラが渦を巻き、濃密な霧へと変わる。ガルダの視界は一瞬で閉ざされ、バーバラの動きが奇妙に緩慢に見えた。彼女が剣を振り下ろす瞬間、ガルダは戦斧で受けようとしたが、剣の速度は近づくほどに遅くなる。おかしい——と気づいた刹那、オーラの揺らぎを感じ、反射的に身体を仰け反らせた。だが、一瞬遅く、左腕と胸から血が噴き出す。
「ぐっ!」
「夢幻霧影掌。私はね、この技で十傑の第四席に上り詰めたのさ」
バーバラの声は霧のどこからか響き、ガルダにはその位置が掴めない。幻影だと悟ったガルダは目を閉じ、バーバラのオーラに全神経を集中した。視覚に頼れば偽りの姿に惑わされるだけ。相手が動く瞬間のオーラの揺らぎを捉えればいい。
「もう諦めたわけ?まぁラクでいいけどさ」
バーバラがガルダにとどめを刺すために近づく。刹那ガルダの戦斧がバーバラを捉えた。捉えられるはずのないバーバラに、ガルダの戦斧が斜めに振り下ろされる。反射的に身体を仰け反らして避けるが、油断から左肩を戦斧に抉られた。思わず声を出しそうになるところを抑える。
なぜ!?なぜ、コイツは私の位置がわかるの?焦りながらも、もういちど幻影を見せながら別の角度から攻撃を試みる。だが、今度も結果は同じ。
バーバラは展開していたオーラを解いてガルダと向き合う。再度、ふたりは激しい打ち合いになったが、徐々にバーバラが押されていく。両者とも傷を負っていたが、バーバラの受けた傷のほうが深くダメージは蓄積していった。ガルダの技量に加えて、圧倒的な膂力が徐々にバーバラを追い詰めていく。ついに、バーバラの剣が弾き飛ばされ、ガルダの戦斧の柄が彼女の腹部を突く。ズドンッ! という鈍い音とともに、バーバラは吹き飛ばされた。
「がっ、がはっ、そん、な」
「ここまでだ!」
よろめくバーバラは霧で姿を隠そうとしたが、意識が朦朧とし、思うようにオーラを操れない。その時、彼女の脳裏にベルンハルトから渡された小瓶がよぎった。
会戦の前、十傑の四人——クルト、エルヴィン、ルドルフ、バーバラ――はベルンハルトの邸宅に呼び出されていた。十傑の四天王と呼ばれる精鋭たちだ。応接室で待つ四人。クルトは壁に寄りかかり、エルヴィンは椅子に腰掛け、ルドルフは窓辺で外を眺め、バーバラはソファーの端に座る。やがて、ベルンハルトが重々しい足音とともに現れ、赤いソファーにどっかりと腰を下ろした。
「すまんな、ここでおまえらと話すのは今日が最後になる」
その言葉に、四人は一様に息を呑んだ。ベルンハルトが謝るなど、かつてなかった。
「何かあったんですか?」
バーバラの問いに、ベルンハルトはしばし沈黙した後、口を開く。
「おまえらが気にする必要はない。俺はな、おまえらを中心とした最強の軍を作るつもりだ。そして、国の要に据える。この意味がわかるか? 平民出だろうが、なんだろうが俺は気にしない。武を示せば応える。俺の気持ちは変わらん、当然、方針も変わらん」
「俺はそのために貴方にお仕えしてるんです。こんなところで、俺らが終わるわけがねぇ。もっと先へ進む!」
エルヴィンの熱い言葉に、ベルンハルトは笑みを浮かべ、頷く。四人は言葉には出さずとも、察していた。今までの戦いとは異なる、大きな変化が訪れていることを。
「そうだな。これからデカい戦が始まる。だが、今までのようにはいかんだろうな。おまえらにも覚悟してもらう」
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