マリア VS カミラ
アルスはそう言って、その場をエルンストに任せると、ジュリを伴って北へ向かう。それを見てルドルフは不服そうな顔をしながら漏らした。
「邪魔しないでもらいたいな~」
ルドルフのこの言い方は、せっかく良い遊び相手を見つけたのに自分を放ってどこかへ行かれてしまった子供のような雰囲気がした。少なくともエルンストには、彼の言い方や雰囲気がおよそ戦場に身を置く者ではないように感じられたのだった。
一方、パールの防衛に当たっているフリッツ将軍は正面から数で圧倒する作戦を展開していた。ここには、十傑の第四席であるバーバラ・メリオースと第九席のカミラ・ハートミットが軍を率いている。兵の数に加え、フリッツ将軍の隙の無い用兵は、バーバラの個人の武をもってしても崩すことが出来ずにいた。
ただ、バーバラの霧状のオーラを展開されるとフリッツ軍は視界を潰されてしまう。そうした混乱が起こるたびに、バーバラとカミラは徹底的に攻撃をするためフリッツ軍にも脅威であった。同士討ちも何度か起こってしまってる。そのため、フリッツ将軍側も優勢ながら決定打が無いという状態である。そんな状況下でフリッツ将軍の下にガルダとマリアがそれぞれ救援に駆け付けて来ると、彼は驚きながらも素直に喜んだ。
「驚きました。まさか殿下の部隊長殿たちに救援に来て頂けるとは思ってもいなかった」
「すみません、勝手に。アルスさまもフリッツ将軍なら心配は無いだろうとのことだったんですが、十傑の実力が未知数だったこともあって、私たちが派遣されたのです」
「いえ、救援感謝します。正直、我々も攻め手に欠けてまして。それに、余り時間を掛けている暇も無いのです」
「といいますと、何かありましたかな?」
フリッツの言い方が引っ掛かったガルダが、怪訝な表情で尋ねる。
「この周囲の状況も探っているのですが、フリードリヒ陛下の軍が思ったより東に後退しているのです。それで、周囲の各軍に陛下の状況を報せるための早馬を飛ばしていたところだったのです」
「なるほど。そういうことでしたら、我々が敵の将を抑え込めば決着を早めることが出来そうですな」
「出来ますか?」
「そのために我々は来ましたからな」
「では、我々はあなた方が抑えている間に削り取ります。よろしくお願いする」
ガルダとマリアは、手勢を引き連れフリッツ軍の横に並んだ。フリッツが突撃の合図を出すと同時に、連動して動き出した。やがて、街を背にしたバーバラ軍と激突すると同時に霧状のオーラにフリッツ軍が包まれていく。その状況を見てガルダとマリアは迷いなく突っ込んで行った。最初に会敵したのは、マリアとカミラである。
霧状のオーラに覆われたエリアで兵士たちが混乱している状況のなか、動き回って次々とフリッツ兵を剣で斬り捨てていた女兵士の前にマリアは飛び出した。その女兵士は、反射的にバックステップで飛び出してきたマリアから距離を取る。距離を取りつつ、混乱している兵士を盾にしながら剣で斬りつけた。マリアはそれを難なく弾く。お互いに兵士の間を縫うように移動しつつ剣撃を交わす。そのうち、バーバラのオーラの効果範囲から出てしまった。
「女!?くそっ、いったいどうなってるわけ!?」
カミラが王都での出来事を思い出し、ひとり悪態をつくと、マリアは剣を突きつけながらカミラに話しかけた。
「あなたも女でしょ。これ以上無駄な戦いはしたくないの、降参して」
「バカ言うなっ!まだ勝負はついてないっ!」
カミラは距離を取ると剣から針に武器を持ち替えた。そのまま、複数の針の先にオーラを集束させながらマリアに向かって投げる。針はオーラにより突破力は強化されるが、マリアには全く意味がない。投擲された針の速さが遅く見える。剣の一振りで弾き飛ばし、そのまま距離を詰める。カミラは再度、剣に持ち替えて斬りつけるもマリアの圧倒的な剣技に僅か数合切り結んだだけで剣が弾き飛ばされてしまった。マリアは剣先を突きつけながら再度、カミラに降伏を勧告した。
「これで勝負ありよ。降伏して」
「・・・・・・チッ、わかったわよ」
カミラはバツの悪そうな顔で両手を上げる。マリアの剣先がわずかに下がった瞬間、カミラの袖から隠し持った針が放たれた。マリアは咄嗟に剣で弾き、カミラはその隙に背を向けて逃げ出す。だが——
「雪花氷結槍」
鋭い氷柱がカミラの背中を貫いた。倒れ込むカミラの背後から、ゆっくりとマリアの足音が近づく。
「なぜこんなことしたの?私は降伏を勧めたのに・・・・・・」
「なぜ?あんた、バカ、じゃ、ないの?」
カミラの口から血が溢れ出てきていた。
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