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戦火の兆し

 そう言ってアルスが、小箱の中から取り出したのはファディーエ王子が使っていたハンカチだった。


「オットー伯爵がまだ持っていてくれて助かったよ。無理に言って譲ってもらったけど、これをどうするんだい?」


「あとあと、必要になる可能性がありますわ」


 ソフィアはそう言うとニコっと笑った。


「リヒャルト伯爵、僕はなんとしてもシャルミールのミラ侯爵を引き込みたい。そのためにソフィアのやることを手伝ってもらえないかな?」


「もちろんです!この子にも何か考えがありそうですからね」




エルン城に戻ったアルスは帰りを心配していたギュンターとヴェルナーにこれまでの経緯を話して聞かせた。驚きながらも、ふたりはアルスの無事を喜んだ。同時にふたりからは、ハイム村襲撃事件の報告を受ける。幸いにもギュンターとヴェルナーが対応してくれたおかげで、被害は深刻というほどではない。建築士であるベルトルトが陣頭に立って復旧作業をしてくれているとのことだった。アルスはその報告を聞きながら、糧食と装備品の確保、兵士が即応出来るように出兵の準備を進めていた。もちろん、その目的はベルンハルト討伐である。



 アルスがエルン城に戻ってから僅か四日後、王都から急報が入る。急報を報せに来た兵士は息を切らせながら執務室へと入って来た。


「アルトゥース殿下、陛下より急報です。王都の西、レバッハ州にてベルンハルト殿下及びブラインファルク家当主、レムルド・フォン・ブラインファルク侯が軍を動かしたとのことです!」


「来たな、状況はどうなってる?」


「はっ、敵軍の数は1万。すでに他の諸侯は予定通り動いております。それと、陛下から『狼煙は上がった』とのことです。それと、殿下申し訳ございません。道中、敵軍の先遣部隊がすでに動き出しておりまして、こちらに来るのが遅れてしまいました」


「もう、そこまで動いているのか。よし!じゃあ、僕らも動くぞ!」


 この時点でフリードリヒはベルンハルトの動きを読んでいた。フリードリヒは、ブラインファルク家がベルンハルトを御旗にして反旗を翻すことを予期しており、過日、工作員たちに領内の糧食庫に火を放つよう指示を出している。


 そして、同時にレバッハ、ヴァール州への往来を一切禁ずる。これによって大規模な兵糧攻めを実施したのだ。そういう意味では動きを「読んでいた」というよりは、ベルンハルトがそう動かざるを得ない状況に追い込み、選択肢を奪ったというほうが正しい。


 『狼煙が上がった』というのは、敵が軍を動かしたタイミングで糧食庫を燃やしたという意味である。ここから予想されることはベルンハルト軍は、まず糧食の確保に動くだろうということである。ベルンハルト軍がレバッハを出たら王都であるヴァレンシュタット城を目指すのはわかっていた。


 その道程には大きな村や街が5つある。そのいくつか、もしくは全てを襲って食料を収奪・確保すると予測していた。そこで、フリードリヒは各諸侯にベルンハルトが軍を動かした時点で村や街に向けて兵を派遣するように要請していたのだ。


 アルス軍は、エルン城から一番近いティッツ村に急いでいた。アルスはエルン城に非戦闘員であるディーナ姫やダナを残し、全軍で出撃している。その数3000である。アルスの横で馬を並べているフランツは、その光景を見ながらモヤモヤしていた。ベルンハルトが攻めてくることがわかっていれば、最初から村を守っていれば犠牲は出ない。ベルンハルトが軍を動かした後でこちらが動けば、村や街が襲撃される恐れがあることに納得がいかなかったのだ。


「なぁ、アルス。なんで陛下は、わざわざベルンハルトが出撃してから俺たちを村に向かわせたんだ?」


「フリードリヒ兄さんの軍略だろうね。西側の王都周辺にある大きな村や街は、全部で5つ。ベルンハルト軍としては他の諸侯が動く前に王都を落とそうとするだろうね。でも、肝心の糧食は燃やされてしまった。手っ取り早く十分な食料を確保したいならどうするのが一番かな?」


「手っ取り早くやるってんなら、5つ同時に襲えば・・・・・・あ!」


 フランツのその反応をみてアルスは頷いた。


「気が付いたね、軍を5つに分ける必要があるんだ」


「各個撃破するために、わざわざ襲わせるってことか!」


「正解。最初から各諸侯が防衛に回っていたら、ベルンハルト軍はひとつひとつを全軍で潰していくだろうね。そうしたらこちらが逆に各個撃破されてしまう恐れがある。だから、わざと相手を泳がせていたんだろうね」


「アルス、おまえも同じ戦法なのか?」


 アルスはその質問に少し考えた。フリードリヒ兄さんの戦略・戦術は確実に勝つならこれ以上ないほどの策だと思う。優秀と言わざるを得ない。恐らく、ブラインファルク家を完全に潰すつもりなのだろう。そのためには、相手に略奪をさせ相手の評判を国内的に貶めておくことで十分な大義が得られる。しかし、それには村や街の住民の犠牲が伴う。 


「僕には勝つとわかっていても、兄さんのようなやり方は出来ない」


「そうであってもらいたいね。もし、おまえが躊躇なくそんなやり方をし出したら、俺はおまえの敵になるかもしれねぇ」


「・・・・・・肝に銘じておくよ」



 アルスたちが目的地であるティッツ村に辿り着く前に、斥候から報告が入る。ティッツ村にはすでに襲撃が始まっているとのことだった。逸るアルスたちにティッツから近隣の村2か所から同時に救援要請が入る。北西の村トーレイの防衛をしているはずのリヒャルト軍とティッツの北、キルケルの街の防衛を担当しているリース軍からだった。


「おかしいな。どちらの場所も相手の2倍以上の軍で当たっているのに、救援要請が出るなんて」


「アルスさま、敵軍を率いているのが誰かわかりますか?」


「ええと、トーレイがクルトとブルーム。あと、キルケルがエルヴィンにノルトという部隊長らしい」


「クルトにエルヴィン!?」


「ギュンター、知ってるの?」


 ハイム村が襲われた際、ギュンターが戦っていた相手はエルヴィンと呼ばれていた。恐ろしく強い敵であったが、そんな奴がクルトと呼ばれてる人間には従っていたことを思い出していた。


「エルヴィンというのは恐らくハイム村を襲った連中のひとりです。しかも、とんでもない強さで新しい武器が無ければ負けていたかもしれません。アルスさま、私を行かせてくれませんか?」


「とはいえ、個人の武だけで数の優位をひっくり返すつもりなんだろうか」

いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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