ソフィアの助言
「そうだ、他の武器も全部出来てるぞ!」
「もしかして、俺のも出来てるのか!?」
「もちろんだとも!」
「おーーーっしゃあああああ!!」
フランツが飛び跳ねて喜んでいるのを尻目にガートウィンは他の武器も棚から出してきた。それをまだもらってない仲間に渡していく。渡された武器にはそれぞれ意匠が施されている。斬れ味もさることながら、施されている意匠も緻密である。それこそがガートウィンの作品の特徴でもあった。
「これはすごい、手に馴染みますね」
パトスが新しい武器を手にしながら独り言ちるように呟く。隣にいたジュリも手にした武器を見て深く頷いた。そして、素直な感想を漏らす。
「パトスさま、私も色々な武器を手にしてきましたが。これは感動しますね」
各々が武器の試し切りをしていると、受付嬢が慌てて走って来た。
「すみませーん、オットー伯爵という方がいらっしゃってるんですがどういたしましょう?」
「オットー伯爵?誰だ?」
ガートウィンが怪訝な表情で聞き返すと、その問いにアルスが答えた。
「あ、たぶん僕を訪ねて来てくれたんでしょう。ちょうど会う約束を取り付けているところだったんです」
「なるほどな、それじゃあこちらに通してくれ」
「わかりました!」
そう言って、受付嬢はまた走って戻った。しばらくすると先ほどの受付嬢が身なりの整った老紳士と若い女性を連れて戻って来た。老紳士はアルスを見ると帽子を取り、深々とお辞儀をした。
「アルトゥース殿下、お久しぶりでございます」
「オットー辺境伯、わざわざ来てくれるなんて驚きましたよ」
「ははは、実は近くに居ましてな。ちょうどこの辺りに殿下がいらっしゃると聞いて飛んできたのですよ」
「殿下、お初にお目にかかります。オットーの娘エミリアと申します」
オットーの後ろから様子を見守っていた女性が進み出てお辞儀をした。証言台に立って、アルスの無罪を主張してくれたのがこの女性である。アルスはふたりの恩人を前に深々と頭を下げた。
オットーが協力してくれなかったら、エミリアが証言台に立っていなかったら、アルスは今頃この世にはいなかっただろう。
「世話になったのはこちらだよ。本当はこちらから出向いて言わなきゃならないのに。本当に、ありがとう」
「いえいえ、真実は明らかにされるべきです。まして正義は陛下と殿下にあった。そうとわかれば臣下としては微力を尽くすのみです」
父のオットーに続き、エミリアも微笑みながら頷いてアルスに応えた。
「私はただ、誰かがやらなければならないことなら私がやるべきだと思っただけなのです」
「何と言っていいか・・・・・・。ありがとう。何かあった時は言って欲しい。僕で出来ることがあれば力になるから」
「わかりました。それではそのようなことがありましたら、その時は殿下にお願いする事に致します」
その後もしばらく会話をしていたアルスとオットー達だったが、次の予定があるとのことでオットーはその旨を詫び、その場を後にした。その後、アルスたちはその日一日ゆっくりとそれぞれの時間を過ごすつもりだったが、事態は動き始めていく。
アルスたちが邸宅に戻ると、リヒャルトが待っていた。
「アルトゥース殿下、ご無事で何よりです!」
「リヒャルト伯爵、色々と聞いているよ。協力してくれてありがとう」
リヒャルトがアルスの無事を喜んでいると、服の裾を引っ張られていることに気が付いた。振り返ると、そこにはソフィアが話したそうに催促しているところだった。
「そうか、すまない。殿下、こちらにいるのは私の姪でソフィアといいます」
リヒャルトに、またもや存在を忘れられてむくれていたソフィアであったが、アルスと顔を合わせると満面の笑みでスカートの端を広げて挨拶をする。
「初めまして、アルスさま!ソフィアと申します。無事のご帰還をお慶び申しますわ」
「殿下、実は今回のファディーエ暗殺の真犯人を推理したのは彼女なんです」
アルスは、リヒャルトにそう言われてエミールと牢獄で話した時のことを思い出していた。犯人は3大ギルドじゃないと、僕と同じ結論に至った者がいるとエミールは言っていた。
彼女だったのか!と、いっても。どう見ても幼い女の子にしか見えない・・・・・・。本当に彼女が?
「初めまして!君が真犯人を推理してくれたのかい?」
アルスは最初は疑っていたが、ソフィアやリヒャルトから話の経緯を聞くうちに驚きに変わっていった。彼女は得た情報からその断片をつなぎ合わせて、そこから最も理論的に導き出される解答を自分で組み立てる能力があるのだろう。アルスが感心していると、ソフィアがアルスに尋ねた。
「アルスさま、これから色々と不穏な動きがあると思いますが何が一番脅威になると思われますか?」
「当面はベルンハルト兄さんだろうね」
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