新しい武器
「なんとなくわかったが、なんでそのローベルトっておっさんが協力してくれたんだ?」
「ローベルト公爵とは、大きな取引を何度もさせて頂いてます。あの方は良くも悪くも政には無関心なのです。そこで、今度の取引で色を付けさせていただくことで、ご協力願いました。それで一気に事が動くことになったのです」
「ハハハ、なるほどな。それで合点がいったぜ。レムルドって奴も公爵が動くとは思ってなかったってことだな」
「そうですね。買収されてた役人たちもさぞ慌てたことでしょうな!」
その後もアルスたちとジェルモは様々な話をする。話の途中でオットー辺境伯にもお礼を言う事になった。ゴドア商業ギルドから帰った一行はそのままオットー辺境伯に会う打診を執事のアントンに頼んだ。
邸宅もアチャズ邸ではなく、今は最初にあてがわれた屋敷に戻っている。幸い、屋敷の内部は荒らされていなかった。執事のアンソニーも事情はわかっており、黙っていなくなったことにも一言も言わなかった。
アルスが帰ったときも「殿下、お帰りなさいませ。色々と大変でございました」とだけ言った。
次の日は、フランツの提案によってガートウィン工房に行くことになった。武器を頼んでいないダナやリサ、アイネ、コレット、ディーナたちは、街での買い物や散策をしたいとのことだったので分かれて行くことになる。念のためということでエルンストだけは護衛として付いて行った。
ガートウィン工房に着くと、運良くガートウィンの奥さんであるマルタが留守をしているとのこと。ガートウィン工房を訪れた者ならわかるが、マルタに捕まったら最後小一時間は世間話に付き合わされることになる。見方によっては営業妨害をしてるとしか思えない行動なのだが、それも含めてガートウィン工房の売りだという者もいるから世間は広い。
店に入ると、相変わらず洗練された武器が所狭しと並んでいる。ハッキリ言って値段はかなり高いが、一品一品の出来栄えは完璧に仕上がっているのだ。しばらくすると、奥からガートウィンがひょこっと出て来た。
アルスの顔を見ると驚いて目を見開き、良かった良かったと喜んでくれた。ガートウィンの案内で店の奥から工房を抜けると小さな商談用の部屋に入った。
「ちょっと待っててくれ」
ガートウィンはそう言うとドアを出て行く。
しばらくすると、手に剣を持って戻って来た。
「これは?」
「殿下、抜いてみてくれ」
アルスが渡された剣を抜くと燃えるような刃の色をしていた。
「すごい色だな!それって刀ってやつか?」
フランツが興味深げに尋ねるとガートウィンが頷いた。
「それ作るのは苦労したんだわ。なんせ今までの工法とは大きく異なる上に結晶石との兼ね合いもあるからな。そしてラヴァアダマンティウムだわ、結局こいつの扱いが一番難しかった。だが、俺が知る限り今までで最高の出来栄えだと思っとる。殿下、オーラを込めてくれんかね?」
「わかった」
アルスがオーラを込め始めると刀身全体が赤色に輝き始めた。
「もっと強く込めてみてくれんか?」
さらに強くオーラを込め始めると刀身全体の赤紫に変わった。
「これは・・・・・・?」
「ラヴァアダマンティウムの特性みてぇなんだが、オーラを込めると変色するんだわ」
「試し切りって出来るかな?」
「もちろんだとも。こっちへどうぞ」
ガートウィンが工房の裏の扉を開けると丸太やかかしや藁が置いてあるスペースがあった。きっと試し切り専用の場所なのだろう。
「その藁束に刃を当ててみてくれ」
アルスが棒に差してある藁束に刃を当てると、当てた所からスーッと藁が切れて藁がその場に散らばった。
「凄い、刃を当てただけなのに」
「そうだ。ラヴァアダマンティウムが国宝級として扱われている理由の一つがそれだわいな。恐ろしいほどの切れ味、そしてメンテナンス不要と言われるほどの硬度を誇るっちゅうとこだな」
「すごいですな。アダマンティウムの私の武器もすごい切れ味で感動しましたが、これはなんというか・・・・・・」
ガルダがそれを見て感嘆しているとフランツがそれに答えた。
「次元が違うって感じだな」
「そう、それですな!」
「殿下、次にオーラを込めてあの丸太を軽く斬ってくれんかね?」
アルスがオーラを軽く込めると刃先から刀身全体が赤い光を帯び始めた。アルスが軽く刀を振るとそのままスパッと丸太が切れてしまった。なんという斬れ味だろう。アルスの武器は日本刀の製法を模してある。斬ることだけに特化した剣。
鉄でも斬れるのが日本刀だが、メンテナンス不要と言われるほどのラヴァアダマンティウムならいったいどんな性能になるのか・・・・・・。
「どうだい?」
ガートウィンが尋ねるとアルスは頷きながら笑顔で答えた。
「ありがとう!想像以上だよ!」
「はっはっは!そうだろうそうだろう!いや、なんにせよ殿下にこれが渡せてよかったわい。依頼された仕事は本人に渡して終了となるでな、危うく仕事を完遂出来んかと思ってヒヤヒヤしたからなぁ」
「あはは、心配かけてごめん」
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