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国王裁判3

 また、裁判長のガベルが鳴り響いた。


「告発側は何かありますか?」


 ベルンハルト陣営のひとりが手を挙げ前へと進んだ。


「先ほどの弁護人の言論はいささか飛躍し過ぎています。確かにこの国には国王を裁く法はありません。しかし、国王の政治的行為を裁くことは出来ませんが、国王の個人的行為は裁くことが出来ます。憲法の不可侵条項は国王のためではなく、国民のために作られた規定であります。ですから、国王は国民を完全に代表している存在である限り、この裁判で裁かれ得るのです」


 この発言には、聴衆から盛大な拍手と歓声が沸き上がった。貴族からも拍手が沸き起こる。この様子を席から見ていたホルストは思わずニヤリとほくそ笑んでいた。


「完全にやられてるね」


 コレットが唇を噛んでいる。


「まだだよ。まだこれで決まったわけじゃない」


 エミールがコレットの肩に手を置いた。


「でも・・・・・・」


「まだ、ジェルモさんの協力者は出て来てないんだ」


 エミールの言葉にコレットは不安そうに頷く。今のままの雰囲気ではフリードリヒとアルスは、ほぼ間違いなく有罪になるだろう。やがて、周囲のざわつきに裁判長は「静粛に」と言いながらガベルを鳴らすと、フリードリヒとアルスの方を向いて言った。


 固唾を飲んで見守る彼らに、裁判長の一言は衝撃的なものだった。


「では票決を取ります」


 それを聞いた瞬間、フランツたちの顔色が変わった。なぜ!?何かの手違い?妨害?ジェルモが証拠を渡したという話は?いったい誰に渡したんだ?なぜジェルモは来なかった?誰かが裏切ってるのか!?一瞬にして今までの出来事が洪水のように押し寄せてくる。


「おい、ちょっと待て!どういうことだ!?」


 フランツが鬼の形相で、今にも裁判長に飛び掛かりそうな勢いでキレた。剣を持っていたら間違いなく斬りかかっていきそうな雰囲気だ。


「お、おい。待てっ!落ち着けって」


「ああ!?ここで何を待つってんだ!?」


 エルンストがなだめたことが逆効果になってしまい、慌てて周囲が止めに入る。全員でどうにかしてもう少し様子を見るように説得して、フランツはようやく押し留まった。だが、それでもいつ爆発するかわからない状態である。


 気持ちの面で言えば、それはフランツだけに限らなかった。一部の聴衆は口々にフリードリヒやアルスに対して罵声を浴びせるなか、こうしている間にも着々と裁決のための投票準備が進んでいく。じりじりとするなかで、我慢していたフランツがとうとう爆発した。


「もう我慢できねぇ・・・・・・!」


 フランツのオーラが揺らめくと、周囲の床や柱が軋み亀裂が入り始める。裁判場は巨大な建物であったが、聴衆は急な揺れに地震が起こったのかとざわめき始めた。


「待って!あれ見て!」


 エミールが突然叫んで裁判長を見て指を差す。役人が慌てて裁判長のもとに走って行き書類を渡しながら何かを伝えた。その書類を読んだ裁判長の顔色が変わり、裁判の一時中断を発表。


 そのまま裁判長は急いである貴族のもとへ走った。裁判長は、50代くらいのあごひげを生やした貴族と何かを話すと何度も何度もお辞儀をする。


「何か、謝ってる感じ?」


「そうみたいだね」


 アイネが呟くとエミールも頷いた。席へ戻った裁判長は、ざわついている聴衆を前に陳謝した。


「おほん、手違いがあったようです。被告側の証人がいたという通達が遅れ、裁判の進行に誤りがありましたこと、ここにお詫び申し上げます」


 その発表を聞いて、ようやくフランツは落ち着きを取り戻すことが出来たのだった。それはマリアとて同様である。あまりにも異例尽くしの裁判で、この先の展開を読める者は誰もいなかった。


 それにしても、いったいこの裁判の裏側で何があったのか?今のところ彼らには知る術もない。とにかく、今はこの裁判がうまくいくように祈るばかりである。やがて、ふたりの女性が場内に到着した。


「では、被告側の証人は前へ」


 裁判長の言葉で2人は証言台に進み出る。そして、彼女らのうちひとりの若い女性が凛とした声で話し始めた。


「私はオットー・フォン・シュルツェの娘、エミリア・フォン・シュルツェです。ここにいます彼女は元々私の傍仕えをしていたメイドにございます。彼女の話をお聞きください」


 そう言うと、もう一人の女性が話し始めた。


「私はエリーと申します。私の出身はここ王都です。故あってエミリアさまの傍仕えをしておりましたが、三年前より私の父が病に倒れてから王都での仕事を探しておりました。縁あって、エミリアさまの父君オットーさまが宮廷での給仕係として推薦してくださったのです。そして、先日の陛下並びにアルトゥース殿下とレーヘのファディーエ王子との会食にも私は給仕係のひとりとして参加しておりました」


 そこまで話すと彼女はふうっと大きく息を吐いた。これだけ大勢の王族や貴族の前で話すのだ、きっと緊張の度合いも凄まじいのだろう。そんな彼女を見て、横でエミリアと名乗った女性が優しく背中を叩く。彼女は頷きながら続けた。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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