国王裁判2
「では、改めてその当時、あなたが見た状況を説明してください」
「はい。私はレーヘのファディーエ王子と陛下の会食があると聞いて準備をしておりました。そして、会食が始まり次の料理をお運びする準備をしておりますと、ガチャンという音がしましたので慌てて戻ったのです。そうしたらファディーエ王子が倒れておりまして、料理とワインも床に散らばっておりました」
証人がそう証言すると聴衆はざわざわとどよめき始める。給仕係をしていたという証人の発言は重い。聴衆も隣国の王子殺害という、これ以上ないセンセーショナルな事件に興味津々なのだろう。
発言の一言一言に反応を示す。ざわついた聴衆に向かって裁判官がガベルを打ち、証言は続いた。
「その時、アルトゥース殿下はどちらにいたのですか?」
「アルトゥース殿下がファディーエ王子を抱きかかえているのが見えました」
「彼は何をしているように見えましたか?」
「わかりませんが、介抱しているように見えました」
「ファディーエ王子は毒を飲まされていました。アルトゥース殿下はさらに追加で毒を飲ましていたのではないですか?」
その質問がなされた時、聴衆が大きくどよめいた。この質問は明らかに意図的なものである。こういう質問をするだけで、答えはともかく、その場の雰囲気はフリードリヒやアルスにとって悪くなったのは明らかだった。
すぐに弁護側が反応して、誘導尋問であることを指摘する。しかし、却下されてしまった。
「いえ、そこまではわかりません」
さらに告発側から質問が投げかけられる。
「状況から考えて陛下とアルトゥース殿下がこの事件になんらかの関わりがあったとあなたは考えますか?」
「・・・・・・はい」
「以上で私の質問を終わります」
その証人尋問のやり取りが終わった瞬間、会場にひと際大きいどよめきが走った。会場のあちこちから聴衆たちの声が漏れ聞こえてくる。聞こえてくる聴衆たちの意見は陛下とアルスが毒を盛った犯人であるというのが大半であった。
この証人尋問だけを聞いていれば、そういう意見に傾いても仕方がないのかもしれない。しかし、フランツたちをさらにイラつかせたのは次のような声であった。
「なぁ、おまえどっちに賭けた?」
「俺は陛下と殿下が有罪に賭けたよ」
「おまえもか」
「だってよ、オッズ見てもそっちのほうが高かったしな。なら勝つ確率が高いほうに賭けるのが筋ってもんだろ?」
「くっそ、自分勝手なことばっか言いやがって」
フランツがイライラしながら呟いたのを聞いてガルダが同意した。
「許せませんな、アルスさまと陛下を賭けの対象にするなど」
一部の民衆にとっては、この事件は日常を刺激的にする娯楽程度に捉えているのかもしれない。しかし、彼らはわかっているのだろうか?この裁判の結果によっては隣国と戦争の可能性があるということを。
隣国の王子を会食に招待しておいて、国王自ら謀殺したとあれば泥沼の戦争状態になるのはほぼ間違いない。ベルンハルト側はそれすら覚悟しているのかもしれないが・・・・・・。エルンストが彼らを見ながらそんなことを考えていると、また裁判長のガベルが鳴った。
「静粛に!静粛に!それでは弁護側は何かありますか?」
裁判長に言われて出て来たのはフリードリヒの傍にいた弁護人だった。
「まず私がここでハッキリさせておきたいことがあります。歴史上、我が国において国王が裁判にかけられることなどあったでしょうか?裁判長にお聞きしたい。裁判長!」
そう言うと、彼は腕から指先までをまっすぐに伸ばし裁判長に向け、答えを促した。それを見て裁判長は短く「ないですね」と答える。
「そうです!ありません。もうひとつ裁判長にお聞きしたい。この国の法律に国王を裁く法がありますか?」
彼は先ほどと同じように裁判長を指名して答えるよう促す。これにも裁判長は短く
「ありませんね」と答えた。
「そうです。ないのです!国王には憲法による不可侵性が保証されてるのです。従って如何なる理由があろうとも国王を裁くことなどできません!」
この主張をした弁護人の発言は聴衆の怒りを呼び起こした。傍聴席の各所から怒号が沸き上がり、ヤジが飛ぶ。幼い子供にもわかるほど会場内の雰囲気は一気に悪くなっていった。
「ねぇ、あいついったい何してくれてんの?バカじゃないの?」
怒号、罵声。周囲の空気感が怒りに満ちていくなかで、押しつぶされそうな圧迫感を感じる。アイネが憤慨するのも無理はなかった。
「まずいな。今ので聴衆のほとんどを敵にまわしたぞ」
エルンストもアイネの言葉に頷きながら呟く。
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