手掛かり
ヴェルナーは、ひとつひとつ王都であった出来事を彼らに説明していく。すなわち、アルスと陛下がレーヘの王子殺害の疑いで投獄されたこと。国王裁判に向けて準備を進めていること。
その途中で、ベルンハルトの私兵が治安維持と称して出兵したこと。アルスが留守中のエルン州が狙われてる可能性が高かったことなど、ヴェルナーは事の顛末を事細かに話して聞かせた。
「信じられんな」
全てを聞いた後でギュンターはそう呟いた。
「まぁな。俺も現地にいなかったらとても信じられん話だ」
「じゃあ奴らは賊を装って村を略奪していたってことか。あんなのが正規兵のやることか!」
「それも含めてベルンハルトの差し金だろうな。恐らくあいつはアルスさまを恐れてるんだろう。俺たちが軍を起こす前に潰してしまおうって魂胆だと思う」
ギュンターとヴェルナーは村の惨状を見て改めて、ベルンハルトのやり方に憤激した。幸い、ギュンターとドルフ、アジル兄弟の対処が早かったため壊滅状態にはなってない。
だがそれでも、村の中央で燃やされた食料はかなりの量であった。その後は4人で話し合い、城の備蓄を解放して村人に食料の補填を最優先で進めることで一致する。同時に、再度襲撃があることも想定して村の周辺の防衛を固める準備も進めていった。
その頃、アチャズ邸にはジェルモが分析結果を伝えに訪れていた。奥の別室に大きなテーブルが置かれている。
そのテーブルの上にはコレットが作った焼き菓子が置かれ、リサが紅茶を淹れて回っている。エルン城にいたときと変わらない光景がそこにはあった。
「ジェルモさん、分析のほうはどうだったのですか?」
マリアが尋ねるとジェルモは笑顔で答えた。
「うまくいきましたよ」
「それで?」
「まぁまぁ慌てないでください。まず使われていた毒の成分ですが、ほとんどが国内で手に入る一般的なものでした」
それを聞いたマリアは手で指先をぎゅっと握りしめた。毒の成分が特殊なものであれば特定は容易い。入手先も限定されるからだ。それが、どこにでも手に入る一般的なものであれば、その材料の入手先の特定は難しい。
ジェルモはそこまで話すとリサの淹れた紅茶を一口すすった。それを見てフランツが我慢出来ずにジェルモに質問をぶつける。
「それじゃあ、なんの手掛かりもなかったのか!?」
フランツが半分椅子から立ち上がりながら質問をする姿を見て、ジェルモは手で抑えるようなしぐさをしてフランツの質問に答えた。
「落ち着いてください、この先があるのです。一般的な毒の成分とは別に喉や内臓を溶かすという猛毒も検出されたのです。余程確実に殺したかったのでしょうね。この毒はファシキュリンという蛇の毒です。ファシキュリンはニヴァールという蛇が持っている猛毒なのですが、ニヴァールは北のデラ砂漠でしか生息しておりません」
「ということは!?」
今度はマリアが思わず立ち上がる。
「ええ、特定は可能です」
ジェルモはニヤリとしながら、詳しい説明を続けた。そのデラ砂漠というのはゴドアの国にある。となれば当然、ゴドアの商会が絡んでいることになる。
ファシキュリンは猛毒であるが、量が極少量であれば薬剤にもなる。しかし、その特殊性からファシキュリンを取り扱っている薬剤商会はかなり限られるとのことだった。
「良かった!それなら間に合いそうですね」
「運が良かったと思います」
マリアの安堵した言葉にジェルモはにっこりとほほ笑んだ。そのうえで「ただし」と続ける。
「おとといの発表では裁判は明後日とのこと、はっきり言って異常な早さです。これに間に合うように調査をするのであれば、かなりの人員を動かさないと短期間で発注書を見つけることは難しいかと」
「つまり?」
「つまり費用がかかります」
「もちろん費用と謝礼はお支払いいたします」
マリアが即答した。
「ははは!さすがは殿下の秘書殿です。話が早くて助かります」
マリアがどの程度の費用がかかるのか確認もせずに払うと即答したのを誰も咎めるものはいなかった。アルスの命が掛かっているこの場面で費用を気にしている場合じゃない。
フランツだけは「ちゃっかりしてんなぁ」とぶつくさ言っていたが、それを聞いてジェルモは笑いながら答えた。
「私は商人です。商人は何時如何なる時も金で動くものです。これがハッキリしてない者は商人とはいえませんよ。それに、私がアルトゥース殿下に協力させて頂いているのは3大ギルドに対抗出来る大きな力になるお方だと見ているからです。いわばこれは投資です。しかし、仕事は仕事です。人を動かすというのはお金がかかるものなのです、どうかご理解を」
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