ハイム村の攻防戦3
「クハハ!ちったぁ楽しめるかと思ったが、ここまでか?」
男はとどめを刺すために、そのまま家の裏に回り込んだ。
「ほぉー、あの一撃を受けてまだ立つのか。しぶといじゃないか!」
ギュンターは、ふらふらとよろめきながらであったが立ち上がっていた。息は荒く衣服は破れ、額と左肩からは血が流れている状態であったが、目は死んでいない。
半分に折れた剣を上段から下向きに構える。男はその状態を見て少しがっかりした。
「終わりだな」
ハルバートを振りかぶると、一気に打ち下ろそうとした刹那、横から十文字に切り裂く斬撃が男を襲った。咄嗟にハルバートを横に薙いで相殺する。
「ちっ、誰だ!?」
斬撃が飛んで来た方向を見ると、二刀を構えた兵士が突っ込んで来た。そこからの二刀による連撃は苛烈を極める。
オーラによる間断の無い斬撃の嵐を食らいながら、男は一歩また一歩と後退せざるを得なかった。その隙に兵士は、ギュンターの居る場所まで来るとニヤッと笑って声を掛ける。
「随分、派手にやられたじゃないか?」
その兵士にギュンターは驚きながらも答えた。
「抜かせ!やっとウォーミングアップが終わったところだ。ところで、なんでおまえがこんなところにいるんだ、ヴェルナー?」
「その質問に答えるのは後だ。その武器じゃもう戦えないだろう。これを使え、アルスさまからだ」
そう言って、一振りの剣をギュンターに渡した。
「これは・・・・・・」
「抜けばわかる」
ギュンターは剣を鞘から抜くと刀身が日の光をキラキラと反射させた。オークルの色が薄く刀身を彩り、鏡のように研ぎ澄まされた刃がギュンターの顔を映し出した。柄には結晶石が刻印石として埋め込まれ、まるで芸術品を見ているかのようである。
「見事だ・・・・・・それと、驚くほど軽く感じるな。これなら」
「礼はアルスさまに言っておけ。さあ、とっとと片づけるぞ」
ヴェルナーとギュンターは再度、男と対峙した。そこから激しい打ち合いが数十合続く。ヴェルナーとギュンターを相手に男は一歩も退かず、退却の角笛が鳴っても無視して戦い続けていた。
双方の打ち合いにさらに熱が籠っていくところで、男の後ろから抑揚のない、それでいてよく通る声が響く。
「エルヴィン、退くよ」
「クルトか、今面白ぇところなんだよ!」
エルヴィンと呼ばれた大男が言い返すと、クルトという少年は静かに答えた。
「聞こえなかったの?退くよ」
クルトにそう言われたエルヴィンは、舌打ちをして矛を収めた。ハルバートを肩に抱えて、踵を返そうとする男にヴェルナーが問いを投げる。
「待て!おまえらは十傑のメンバーだな?」
「クハハ!おまえらが勝ったら教える約束だったが、邪魔が入った。またどっかで会うかもな」
その問いにピクリと反応したエルヴィンであったが、振り向きもせずにそれだけ言うと去っていった。ヴェルナーは、エルヴィンと呼ばれた男の反応を見て確信した。
あの男ほどの武技を持つのはこの国では十傑と呼ばれる連中しかいない。それに、エルヴィンの戦闘を止めた男。あの男はさらに不気味だった。戦闘終了の角笛を無視しても戦いを愉しむことを止めなかった男がクルトという男の声には従った。それは、先ほどの男よりもさらに強い力を持っているということなのだろうか。
「ギュンターの兄貴、一体あいつらなんだったんでしょうね?」
いつのまにかドルフ、アジル兄弟がギュンターのところに戻って来ていた。ギュンターがそれに気付いて視線をヴェルナーに投げると、兄弟もそれに気付く。
「あれ!?ヴェルナーの兄貴じゃないっすか!なんでここに?」
「ここに襲撃があるということを報せに来たんだがな、一足遅かったようだ」
ヴェルナーは苦笑しながら答えた。
「いや、それよりおまえらの戦ってた相手はどうなった?」
ギュンターが割って尋ねるとアジルが答える。
「いや~、俺がドジッちまってちょっとやばかったんすけど。いつのまにか居なくなってましたね」
「たぶん、さっきの連中と一緒に引き上げたんだろう」
「ヴェルナー、いったい王都で何があった?」
ヴェルナーの発言の後にギュンターが、先ほどから疑問に思っていたことを尋ねた。彼は、ここに襲撃が来ることを報せに来たと言ったのだ。つまり、それは王都で何かがあってこのエルン州が襲撃されることを事前に察知していたことになる。そして、ヴェルナーが先ほどの賊に向かって十傑か?と尋ねていたことも疑問であった。
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