ハイム村の攻防戦2
そこへ後方のアジルが一気に前に躍り出て、そのまま斬りかかる。その攻撃を受けて影の輪郭は濃くなると、影だった男の姿がハッキリしてくる。やがてドルフとアジルの前に黒装束に身を包んだ男が姿を現した。
「なんだよ!結局、真っ黒けじゃねぇか!?」
アジルがよくわからない悪態をつきながらも、素早く連撃を叩きこんでいく。男はそれをかわしながら、飛び上がったところに今度はドルフの衝撃波が飛ぶ。
レフェルト兄弟の連携攻撃は、ルンデルの大将軍バートラムも苦戦したほどである。ドルフの衝撃波に対応が遅れた男は、そのまま家の壁に叩きつけられた。
衝撃で家の壁が破壊されるのがギュンターと戦っている男の目にも入ると、男は笑いながら叫んだ。
「クハハ!!ギレ!おまえ何遊んでんだ!?助けてくれったって俺は行かねぇぞ?」
ギュンターが男に叩き込む剣圧を上げると、それを上回る圧力で男は押し返してくる。完全に遊んでるなコイツ。ギュンターはそう思いながらも相手に付き合ってる自分も同じかもしれないと自問自答する。
そして、もうひとつ気にいらないのは、奴の攻撃は今のところ突きだけなのだ。ハルバートの形状を活かす最大の攻撃方法は突きではなく、その形状と重量を活かして振り抜くのが正解だ。
そのとき、ギュンターの思考を見透かしたように男が話しかけた。
「こんだけ俺とやり合える奴は久しぶりだ。おまえも楽しいだろ?名残惜しいとこだが、そろそろ本気でやらせてもらうぜ?」
「望むところだ」
「クハハハ!一発で終わるなよ?」
そう言うと、男のオーラ量は今までの比ではないほどに膨れ上がった。ギュンターのオーラとぶつかり合いバチバチと弾け合う。男の構えが変わった。
「破岩斬!!!!」
刹那、ハルバートが斜めに打ち下ろされる。
来る!ギュンターもオーラを全解放する。
「霞崩し、蒼天!!!!」
刀身がバチバチと音を立てる。柄の結晶石が強烈な青い光を放ちながら、振り抜く剣の軌跡を描いていく。互いの全オーラを乗せた最速、最大の技がぶつかり合った刹那、凄まじい衝撃が互いの武器に伝わる。
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!
衝撃は互いの武器だけではない。轟音が響き渡ると、それに伴う衝撃波によって周囲の家の壁がメキメキと軋み亀裂が入った。しかし、異変はそれだけでは終わらなかった。
「くっ!」
ギュンターが小さくうめく。最大圧の技をお互いに掛けた結果、強度を上げたはずのギュンターの刀身にヒビが入り始めていた。ギュンターのオーラで強化したはずの剣より、相手の男の技の衝撃が上回ったということになる。
ギュンターと巨体の男が、広場で戦っているその向こう。影の男が壁に叩きつけられ、その衝撃で壁を突き破り穴の空いた家は静まり返っていた。
その家のドアがゆっくりと開いていく。家の様子をしばらく見ていたドルフとアジルだったが、一瞬で警戒モードに入った。
「来るぞっ!」
ドルフがアジルに声を掛けつつ、ふたりは開いていくドアに神経を集中させる。ゆっくり、ゆっくりと軋む音を立てながらドアは開いていく。
太陽の光は家の向こう側から差し込んでおり、開かれたドアから見える家の中は暗がりでよく見えない。やがて、ドアが完全に開いたが、そこから人が出てくる気配はなかった。
「兄貴、誰もいねーぞ」
アジルがそう言って家に近づく。ドルフはそう言われアジルを振り返った瞬間、ドルフはゾクッとした。アジルの影の中で何かがボコボコと動き出していたのだ。
「アジル!後ろだ!」
「えっ?」
アジルが振り向くと同時に、影はアジルの背中にナイフを突き立てる。
「ぐああっ!」
アジルは痛みで叫ぶも、ドルフの声かけで身体を捻った分、わずかに狙いがそれた。そのおかげで致命傷を避けることが出来たのだ。
男がとどめを刺そうとするところへ、瞬時に動いたドルフの衝撃波が飛ぶ。その一撃を捌き切れずに影の男は吹き飛ばされた。ドルフはそのまま弟のところまで走り寄る。
「大丈夫か?動けるか?」
「ああ。兄貴、すまねぇ」
「気にすんな」
ドルフとアジルが態勢を立て直した時には、影の男はすでに闇の中に溶け込んでいた。
一方のギュンターは、刀身にヒビが入ったことで次第に押され始めていた。男は、猛烈な攻めに出る。もはや突きを主体とする攻撃ではなく、横に振り抜き、打ち下ろすハルバートの特性と威力を最大限に引き出した戦い方である。
ギュンターは防戦一方になりつつあった。そこから数十合打ち合ったところで、遂にギュンターの剣は衝撃に耐えきれなくなった。入り始めたヒビは少しずつ広がって行き、ハルバートによる強烈な一撃を受けて途中から真っ二つに折れ飛ぶ。
そのまま男の次の一撃が繰り出されたが、ギュンターは受けきることが出来なかった。折れた武器では、もはやあの重量のハルバートを受けきることは出来ず、身体ごと吹き飛ばされてしまった。
ギュンターの身体は、そのまま家の壁を突き抜け反対側の壁まで突き破り地面に叩きつけられる。
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