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ヴェルナーの決意

「通常、裁判ともなれば、議会に報告されてから裁判まで最低1か月は時間を掛けて調査をするものですが、今回はレーヘの目もあります。恐らく相当短縮されるものと思われますが大丈夫でしょうか?」


 今回の裁判は余りにも異例である。まず国王が裁かれるなど前代未聞であるし、その内容もまた前代未聞の出来事なのだ。それに、この事件は裁判の結果がどうあれローレンツ一国だけで解決できる類の問題ではない。


 ダラダラと時間を掛けて裁判をやっていれば、国王不在のまま隣国との戦争になる可能性もある。アチャズは不安そうにジェルモに尋ねた。


「そうですね。しかし、どういった事情であれ最優先で事を進める必要があります。アチャズ殿、猶予はどの程度とお考えですか?」


「はっきり言えば私も何もわからないのですが。半分、いえ最悪十日も想定したほうが良いかもしれません」


 ジェルモはそれを聞いて腕を組み、短く息を吐く。


「わかりました。分析と証拠まで探るには厳しいですが、やるしかないようですね」


「なんとか、よろしくお願いいたします」


 アチャズが頭を下げると、他のふたりも彼に倣って頭を下げた。



 ゴドア商業ギルドを後にした3人はアチャズ邸に帰って来た。


「三人ともお帰りなさい!」


 声を掛けてくれたのはディーナだった。


「ただいま!あれ、他のみんなは?」


 エミールが尋ねるとディーナが説明してくれた。


「今、リヒャルトさんの使いの方が来ていて別室で報告を受けてるの」


「報告?何かあったの?」


 マリアがそう尋ねた時だった、ガチャンとドアが開いて全員が出て来た所だった。


「お、帰ったな!」


 フランツが声を掛けると他の仲間も気付いておかえり!と口々に声を掛ける。マリアたちはそれに応えつつ、先ほどディーナが言っていた話を彼らに尋ねた。


「ああ、今報告を受けてな。どうも王都の門という門が検閲対象になってしまってるらしい」


 ヴェルナーが答えるとガルダが続いた。


 「どうにも我々の動きを牽制されているようですな」


 「牽制というよりは、事実上の幽閉状態でしょうな」


 パトスが微妙にガルダの内容を訂正した。相変わらず片手にはコーヒーだ。


 最近は、王都で手に入れた新しい種類の豆と他の種類の豆をどの配合でブレンドするかという、すごくどうでもいい悩みで明け暮れている。一口飲むとさらにパトスが続ける。

 

「これでますますエルンに帰ることが難しくなったわけですが、問題はもう一つありまして」

 

「もうひとつ?」

 

「ええ、どうもベルンハルトが兵を出したそうなのです。表向きは治安維持のためということですが、エルンに向かっているのではないかと思われます」

 

「エルンって・・・・・・」


 マリアの表情がパトスの言葉で曇る。このタイミングでベルンハルトが兵を出したなら、考えられることはふたつしかない。ひとつは、フリードリヒ陛下を擁護する貴族や兵を牽制し行動を抑止すること。


 もうひとつは、そのままアルスに向けられたものということだ。もっとも、エルンは王都から離れている。治安維持というのが、牽制程度で済むことなのかもわからない。そして、その情報を聞いて誰もが懸念すること。パトスはマリアの表情からすぐにそれを読み取った。

 

「そうなのです。エルンは今ギュンター殿が一人だけです」

 

「大丈夫かしら・・・・・・」

 

「問題ねぇよ、あいつなら。なんとかするだろ」

 

「フランツ殿はああ言っていますが、ベルンハルトの十傑というのがいた場合は少し面倒なことになるかもしれません。もちろん、ギュンター殿が引けを取ることはないでしょうが」

 

「爺さんは心配し過ぎなんだよ。ドルフやアジルもいるんだし、心配はいらねぇよ」

 

「でも、ギュンターにせめて敵が向かっていることは知らせておいてやりたい」


 考え込むパトスに声を掛けたのはヴェルナーだった。ヴェルナーにとって、ギュンターは同郷の古い友人であるため、フランツと同じように楽観出来るようなものでもない。

 

「俺が行きます」


 悩んでいるパトスを見てヴェルナーが即断した。


「ガートウィンからもらったあいつの武器も持って行ってやりたいというのもある。それと、あいつの技が完成したかどうかも見てみたいしな」


 フランツが後ろで両手を広げて首を振ってるのを尻目にヴェルナーはニヤッと笑った。


「待ってください。今から行こうと言うんですか?さすがにそれは目立ちすぎる。行くなら私に案があります」


 アチャズが慌ててヴェルナーを止める。


「案とは?」


 アチャズの案とはこういうことであった。王都で売られている武器は、ノルディッヒで作られたものも多い。そうした武器は、ノルディッヒの鍛冶ギルドを通してこちらに売られている。


 当然、それらの運搬を担ってノルディッヒと王都を行き来している者たちがいる。その中に紛れ込んでしまえば怪しまれず、簡単に王都を出れるということであった。

 

 ヴェルナーはアチャズのこの提案に乗った。というより、単純にこれ以上の良策が思いつかなかったというほうが正しいのかもしれない。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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