アルスとの再会
部屋へはすんなりと辿り着く。リヒャルトに聞いて想像していたよりもずっと小さい部屋であった。部屋の床の一画だけが木で出来ており、そこから地下に行けるようになっていた。
木の蓋を開けると、なかには延々と続く地下への階段が見える。そこを下っていくといくつもの牢獄が東側に続いていた。
ちょうど王宮の入り口の下が牢獄になっているのか。趣味が悪いなと思いつつ、エミールが進んで行くと牢獄の一画が明るくなっていた。見ると、なかにはアルスがいたが、牢番も見張りとして立っていた。
アルスさま!
これじゃアルスさまと話せない、どうしよう。エミールは辺りを見回したが、地下牢に繋がる道は細く牢番を避けるようなスペースは無かった。エミールはいくつか開いている牢獄に身を隠して様子を見ていたが牢番が動く様子はなかった。
参ったな・・・・・・これじゃ埒が明かない。そうだ!アルスさまなら一瞬でも気付くはず。エミールは集中し始めた。一瞬だけだ、一瞬だけ。そう心に念じつつ一瞬だけオーラを解放し、すぐにオーラを消した。
もう一度様子を見るとアルスが牢番に話しかけ始めた。何やらお願いしているような素振りだったが、牢番が折れたのかわかったという風に手を挙げ、こちらに向かってきた。
アルスさま!やっぱり気付いてくれたんだ!エミールは牢番が通り過ぎるのを見送ると、すぐにアルスのいる牢獄の目の前に来た。
「アルスさま!ご無事で」
「エミール、一瞬だけオーラを解放したからすぐにわかったよ」
「みんな心配してますよ」
「みんなは無事かい?」
「はい、大丈夫です。今はリヒャルト伯爵の友人のアチャズさんのところで匿ってもらってます」
エミールがそう言うと、アルスはホッとしたようだった。
「そうか、それならよかった。すまない、僕のせいでみんなまで巻き込んでしまった」
「何を言ってるんですか今さら。一蓮托生ですよ。そんなことより、いったい何が起こったんですか?」
アルスは会食での出来事を詳しくエミールに説明した。
「それじゃあ、やっぱりベルンハルト殿下が裏で糸を引いていたんですね」
「正確にはベルンハルトとブラインファルク家だと僕は睨んでる。3大ギルドの線もずっと考えていたけど、どうにもしっくりこないんだ」
「ソフィアも同じようなことを言ってました」
「ソフィア・・・・・・?待て、牢番が戻って来たようだ。水を持って来てくれるように頼んだんだ。もう行ったほうがいい、すまないけど、僕はこの事件が解決しない限りここから出ることは出来そうにない」
「わかってます。必ず証拠を見つけます」
「待ってくれ、その前にこれを持ってってくれ」
アルスはそう言うと、懐から変色したハンカチを出した。
「これは?」
「レーヘのファディーエ王子が持っていたハンカチだ」
エミールが受け取るとそのハンカチはしっとりと濡れて元の色がわからないほど紫色に変色していた。そのハンカチにはレーヘの王家の紋章の刺繡が入っており、確かに王家のものと一目でわかるようになっている。
「これは?」
「僕が咄嗟に王子のハンカチで拭ったワインの中身だよ。証拠隠滅されちゃ堪らないからね。これを持ってジェルモを訪ねてくれ。彼なら何か手掛かりを見つけてくれるかもしれない」
「わかりました。アルスさま、必ずお助けしに戻ります、必ず!」
「ありがとう、待ってるよ。もう行ったほうがいい」
エミールは頷くと、アルスからもらったハンカチを懐に入れその場を離れた。牢番をやり過ごすと、来た道を急いで戻る。調理場まで戻ってくると、脱いでいた外套を着こみ外へ繋がる出口の扉を静かに開けた。
外はまだ蕭々《しょうしょう》と雨が降っている。エミールは雨と闇に紛れて中庭を抜け、城壁を駆け上り外へと出た。
アチャズ邸の扉がトントンとノックされた時にはすでに真夜中を過ぎていた。
「エミール!無事に戻ったか」
「お兄ちゃん!」
エルンストが声を掛けた後ろから走り寄り、真っ先にエミールの胸に飛び込んだのはコレットだった。
「うわっ、コレット!濡れちゃうぞ!?」
仲間はダナ以外は全員まだ起きている。みんなエミールの無事を確認出来てホッとしていたようだった。
「首尾はどうだった?アルスさまは?」
コレットがエミールが抱きついているなか、ジュリが矢継ぎ早に尋ねた。
「アルスさまとお話出来ました、それにこれをアルスさまから預かってきました」
そう言って、アルスから預かったファディーエ王子のハンカチをテーブルの上に出した。
「これは?」
リヒャルト伯爵が尋ねるとエミールはアルスから聞いた話をリヒャルトにも簡潔に説明した。
「なるほど!これを信頼出来る薬師にでも持っていき分析してもらえれば、ワインに使われた毒がわかるな!」
いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。
☆、ブックマークして頂けたら喜びます。
今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。