表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

131/333

潜入作戦2

 一方、ベルンハルトは王宮でフリードリヒとアルスを地下牢に閉じ込めると、一旦自分の邸宅に戻っていた。さすがにそのまま王宮に留まるのは世間の目もあったため自重しておくという彼なりの判断でもある。


 部屋の椅子に座り込み、ワインを掲げ一気に飲み干す。格別な味だ、これほど美味い酒は今までに飲んだことはない。ベルンハルトの向かいにはホルストが満足げにワイングラスを揺らしていた。


「ベルンハルト殿下、うまくいきましたな」


「ふふふ、おまえの計画、見事であった」


「いえいえ、これもベルンハルト殿下のお力添えがあればこそ成し遂げることが出来たこと」


 そう言うと、ホルストはワインをグイッと飲み込む。ホルストにとっても今宵のワインの味は格別なものとなっていた。


「くだらん世辞など言うな。しかし、この後のことも話し合っておかねばなるまい」


「そうですね。まずは裁判でしょうか」


 本心を言えば、裁判などせずにふたりともまとめて葬り去るのが一番手っ取り早くてわかりやすい。


 しかしそれをすれば、民衆もそうだが、フリードリヒに尽き従う貴族連中は納得しないだろう。形だけでも裁判をやっておいたほうがいい。それは彼らもよくわかっていた。


「そうだな。裁判も出来るだけ早い方が良い、レーヘが動く前にな。それからこの件は広まっておるか?」


「その辺りは抜かりなく。貴族の耳にも入れば現国王であるフリードリヒと我々の立場が明らかになるでしょうから。そうすれば裁判も進めやすいというものです」


「くくく、そうだな。1週間もあればそこまで手配できるか?」


「問題なく進めることが出来るかと思います。その間、アルトゥース殿下の領地はいかがいたしましょう?」


「ほぼ決着はついたが、今の段階で奴の領地を取り上げるのもいささか尚早だな。役立たずの部下どもがアルスの配下を仕留め損ねた報告が入ってるのが気に入らんが。ただ、あやつの配下がエルンで反乱を起こすようなら鎮圧せねばいかん。明日にでも麾下の兵500を治安維持のためと称して様子をみるとしよう」


「わかりました。ああ、それと。レーヘへの対策もしておきました。当面、レバッハ、ヴァール州の州境には兵を配置し、野盗が出没するとの理由でこちらからレーヘには渡れないようにしております。完璧とまではいきませんが。これで、当面は情報が漏れるのは防げます」


「任せた」


 ホルストは、最終的には自分の描いた計画でベルンハルトを王位に即けることに満足していた。これに3大ギルドが噛んでいれば失墜したブラインファルク家の威光を取り戻すことは難しい。


 しかし、ホルスト主導で、新王の下で権勢を振るうぐらいには十分な活躍が出来たのだ。万が一状況が悪くなれば、3大ギルドに全ての罪を被せ奴らをレーヘに突き出せば良い。ホルストは今後の明るい未来を考えつつグラスを傾けるのだった。



※※※※※



 ヴァレンシュタット城の城壁に辿り着くとエミールは霧状のオーラを展開した。これで、常人には雨と闇に紛れてほとんど何も見えなくなる。


 そのままエミールは城壁を駆け上り一気に中庭に入った。中庭に入るとリヒャルトの言った通り城門館があったが、無視して走り抜ける。上の中庭を通り抜け王宮の西側の一番端まで行くと、小さな扉があった。ここがリヒャルト伯爵の言っていた夏の出口か。


 エミールが扉の前に近づき開けようとしたが、扉は閉まっていた。まずいな、リヒャルト伯爵の情報では開いているということだったけど、この雨で閉めているのかもしれない。


 エミールはそのままドアに近づくとドアに耳をピタッと当てた。微かに音がする。


「よし」


 エミールはそう独り言ちるとドアを叩いた。しばらくすると、ドアが開いて中から使用人が出て来た。エミールはさらに拾った石を壁に向かって投げる。すると、使用人は不審な顔でエミールが音を立てた位置まで近づいていく。


 その間に、エミールはまんまと扉に滑り込んでいた。中に入ると、城内は思ったより暗い。所々、松明で照らされているものの暗所がいくつかある。そのまま進んで行くと目の前に大きな調理場があった。


 エルン城にある調理場の何倍あるのだろう?その調理場の西側は食料備蓄庫となっていたので、その場所に雨で濡れた外套を脱いでおくことにした。そこで、濡れた靴も用意していたタオルで拭き雨で侵入がバレないようにする。


 これもリヒャルトとの打ち合わせで決めたことだった。そうしている間に先ほどの使用人が戻って来て、何か怯えたようにぶつぶつ祈りの言葉を呟きながら慌てて東側の使用人室に入って行った。


 使用人にとっては、得体の知れない出来事だったのだろう。少し可哀想なことをしたな。そう思いながらエミールは彼を見送ると南東の部屋へと向かった。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ