天才少女 ソフィア2
「ソフィアちゃん、どうしてそう言い切れるの?」
マリアの問いにソフィアは笑顔で答える。
「彼らには、レーヘの王子を会食に呼ぶだけの力が無いからですわ。ルンデルの王族であれば、彼らはどうにでも出来たかと思います。ですが、レーヘの王族に対してはそこまでの浸透工作が出来ていません。それに、そんなことが出来る国内勢力は昔からレーヘと繋がりのあるブラインファルク家だけですわ」
「なるほど、言われてみれば確かにソフィアの言う通りだな」
リヒャルトは腕を組んで頷いた。
「しかし、ブラインファルク家がそこまでのことをするのか?」
エルンストの問いにソフィアは自説を展開した。
「これは推測に過ぎませんが」
そう前置きを言ってソフィアは続けた。
「今回、フリードリヒ陛下はルンデル戦での勝利でかなり足元を盤石に固めたとのお話です。私から見ても大勢は決したように見えましたわ。大半の貴族が陛下を支持するほうに傾いています。逆にブラインファルク家は、オルター大将の戦での度重なる失敗により急速に求心力が無くなっていきました。それでブラインファルク家は、相当追い詰められていたのではないか?と思いますの。この会食がセッティングされたのも、伯父さまがオルター将軍に代わって大将になったその後から働きかけていたとすれば、この時期に急に決まったのも納得がいきます。時系列を考えればブラインファルク家の当主ヨハネスさま、もしくは弟のホルストさまの影がベルンハルト殿下の裏にチラついているように見えますわ」
「しかし、それが本当ならブラインファルク家はレーヘとの間を取り持つ橋渡し役としての役目を放棄したことになりはしないか?」
エルンストが疑問に思うのは当然である。その重要な役割を果たす見返りとして権益を欲しいままにしてきたのだ。
それを放棄するのみならず、両国の間に戦争の火種を作った可能性も高い。報酬に対して危険性が大きすぎるのだ。
「覚悟の上か。あるいは何か算段があるのかもしれませんわ」
「待ってくれ。レーヘが何かおかしいと思うことだってあるんじゃないか?そもそも、フリードリヒ陛下がファディーエ王子を毒殺する理由がない」
「仮定の上に仮定を積み重ねるような話ですが」
ソフィアはそこまで言うと、一旦言葉を止めた。しばらく思案し、やがて考えがまとまったのか再び口を開く。
「ひょっとしたらブラインファルク家は3大ギルドがハインリッヒ王子を毒殺したことを知っているのかもしれませんわ。もし、第三者の手が加わっていると考えて追及の手が次期国王に及んだ場合。つまり、この場合はベルンハルト殿下ということになりますが。ハインリッヒ王子の件を盾にして、3大ギルドに罪をなすりつける腹積もりかもしれません。ただ・・・・・・そうはならないと思いますわ」
「どうしてそう言えるんだ?」
「レーヘのラザール国王の噂話を聞く限りですが、短慮な方だと推察しますわ。戦も視野に入れて、私がもしブラインファルク家の当主なら、情報封鎖を徹底して短期で決着をつけますわ。彼らは殺害でなく投獄という手段を取りましたので、極短期の裁判をするのだと思いますわ」
聞いていた周りの者たちは無言になった。若干12歳の少女から出てくる言葉ではない。この少女の理路整然とした推察力に、この場の全員が圧倒されてしまった。
ソフィアの話は、飛躍しているともいえるが、的を射ているようにも思えたからである。
「もしそうだとするならよ・・・・・・3大ギルド相手にするよりはイケるかもしれん」
「フランツ殿、どういうことですか?」
じっと彼女の話を聞いて考え込んでいたフランツの呟きにリヒャルトが反応する。
「アルスを助けるのに一番カギになるものってなんだ?」
「それはもちろん証拠・・・・・・」
「そうだ、証拠だ。3大ギルドはその辺は抜かりなかった。ムカつくが第三王子殺した時も逃げおおせちまった。だが、貴族が相手なら証拠を手に入れる手段があるんじゃないか?」
「なるほど。とは言っても難しいかと思うが」
リヒャルトは腕を組んで考え込む。フランツの考えは、3大ギルドのような巨大組織を相手にするよりは貴族のほうがいくらかマシという話に過ぎない。
「あ、待って」
コレットが思い出したように、手を叩いた。その音に釣られてその場の全員の視線がコレットに注がれる。その視線に気付いて少し気恥ずかしくなりつつも、コレットは続けた。
「あ、えーと。ほら、商人のジェルモさんが、困った時があったら訪ねて来なさいって言ってくれてたでしょ?」
「ああ、確かに言ってたな」
ヴェルナーが相槌を打つ。
「カードもらったし、ジェルモさんなら何か知ってるんじゃないかな?」
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