天才少女 ソフィア
アチャズの邸宅は早くに亡くなった奥方が所有していたもので、長い間使っていなかったとのことだった。アルスと関係が近いリヒャルトにも恐らく監視の目はついているのだろうが、そこであればある程度の期間は誤魔化せるだろうとの算段である。
アチャズの案内で一行が屋敷に入ると、リヒャルトがホールで待っていた。扉を開けたすぐ先に居たのでかなり気をもんでいたようだった。
「ああ!良かった」
リヒャルト伯爵がホッとしたような表情で一行を迎え入れる。
「リヒャルトさま、全員無事にお連れいたしました」
アチャズがリヒャルトに告げる。
「よくやってくれたアチャズ」
そう言って礼を言うと、一向に向き直った。
「諸君、すまない。私の手違いで諸君を夜の王都に放り出すところだった」
「リヒャルトさま、ありがとうございます」
マリアが代表してリヒャルトにお礼を言った。
すぐにリヒャルトに案内されて、一室に入る。長い間使われていないという話は本当らしく、調度品などは最低限のものしか置いていなかった。
しかし、部屋の中に埃が溜まっている様子もない。定期的に清掃されているのだろう。部屋の中には簡素なテーブルとイスが置いてあり、そこに座るようリヒャルトに促された。
全員が着席するとリヒャルトから現状についての説明が始まった。
「諸君も知っての通りだが、殿下がレーヘのファディーエ王子殺害の容疑で投獄されてしまった」
「いったいなんでそんなことになっちまったんだ!?」フランツは怒りをぶちまける。
「フランツ殿の怒りももっともだ。私も様々な情報網を使って探っているが、どうやら会食中にファディーエ王子が倒れたらしい。毒が混入されていたものと思われる。それで、一緒に会食していた陛下とアルトゥース殿下が犯人に仕立て上げられてしまったのだ」
「ベルンハルトによってですか?」ヴェルナーがすかさず突っ込んで聞く。
「そう見ているが、私は今回の事件、ベルンハルトひとりによって成し得たものと思っていない」
「なぜそう思うのですか?」
「それは私から説明いたしますわ。まず、レーヘの王子が殿下や陛下と会食をするに至った経緯です。このような隣国の王子との会食をセッティング出来るようなルートをベルンハルト殿下は持っていませんわ」
いつの間にか、部屋には小さな女の子がドアの傍に立っていた。
誰!?
という疑問が全員の頭の中に上がる。その視線を感じてか、その子はスカートの端を掴んでお辞儀をしながら自己紹介し始めた。
「突然、失礼しました。皆さま初めまして、ソフィアと申します。伯父さまがなかなか紹介してくださらないので勝手に入って来てしまいましたわ。以後お見知りおきを」
それを見てリヒャルトが慌てて補足をする。
「すまない、紹介が遅れた。姪のソフィアだ、私の姉の遺児でな。故あって私の元にいる。まだ12歳だが、かなり知恵が回るんだ。彼女たっての希望で連れてきてしまったんだが・・・・・・」
ソフィアは、そのままドアの傍にあった椅子を引くとそこに腰を掛けた。12歳にしては少し背が小さいせいか幼く見える容姿である。座ると座高の低さから、埋もれてしまってるように見えた。
「可愛い、お人形さんみたい!リヒャルトさんには似てないね?」
アイネが率直な感想を述べるとリヒャルトは思わず笑った。
「それなら3大ギルドだということですか?」
今度はマリアが質問をした。そのマリアの質問に対してリヒャルトが答える。
「そこがわからないんだ。諸君もジェルモから聞いたと思うが、彼らは毒によってハインリッヒ殿下を殺害している疑いが濃厚だ。とすれば、今度も毒殺というのではいささか芸が無さ過ぎるのではないかとも思ってな」
「でも、前科があるのであればなんらかの方法で毒を盛ったという可能性もあるのではないでしょうか?」
「もちろん、十分にあり得る。彼らにとって今回の件は喜ばしいことに変わりはないからな」
「王様が投獄されて喜ぶのはわかるが、レーヘの王子が殺されたってことは3大ギルドにとって利益になるのか?」
フランツはテーブルの上に肘をつきながら、片方の指でトントンとテーブルを叩く。傍から見てもかなりイラついている。戦場とは違い、王都では見えない敵を相手にしなければいけない。フランツのような生粋の武人にとっては、ストレスしか感じないだろう。
「フランツ殿、考えてみてくれ。彼らは国を戦わすことで武器や防具、それに伴う奴隷売買に一口噛めればいいのだ。その結果としてどちらかの国が滅亡しても痛くも痒くもない」
それを聞いてフランツはため息をつきながら天井を見上げた。
「なるほどな。レーヘと戦争にでもなれば喜ぶのはあいつらだけか」
「今回の件は3大ギルドではありませんわ」
話を聞いていたソフィアが発言する。テーブルの高さに半分埋もれている状態なのだが、その声は良く通った。全員がソフィアのほうを見る。その幼い声には一切の揺らぎや迷いが無く自信に満ち溢れていた。
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