襲撃
「そんなもんわかりきってる!あの野郎しかいねぇんだよ!!」
「あの野郎っていうのはベルンハルトとかいうアルスさまの兄のことか?」
ジュリが再び尋ねた。
「そうだよ!陛下とアルスがいなくなって喜ぶ奴といやぁひとりしかいねぇ。毒殺とか汚ぇ真似しやがって」
「なるほどな。私はてっきり3大ギルドとやらの仕業かと思っていたが・・・・・・」
邸宅の門を出たところで、アイネとフランツが今後の行き先についてやり取りをしてると、後ろから走って来た馬車が急に止まった。
彼らが警戒しながら馬車を注視していると、シルクハットを被った小太りの男が顔を出した。
「もし!もし!アルトゥース殿下のお連れの方たちですね?」
そう言いながら、男はゆっくりと馬車を降りてくる。その男の顔を凝視していたフランツが突然叫んだ。
「あ!リヒャルトと一緒にいた奴か!」
「フランツ殿お久しぶりです」
「フランツ、知ってるのか?」
エルンストが尋ねるとフランツは頷いた。
「ああ、こいつはリヒャルトの子分だ。ノルディッヒでアルスを襲った奴をぶちのめした時に会ってる」
「ええ、あの時はお世話になりました。他の方々は初めましてですね。アチャズと申します」
アチャズは帽子を脱いでペコリとお辞儀をした。
「で、どうしてこんなところに?」
「それが、リヒャルトさまから殿下のお連れの方たちをすぐお連れするようにとのことで、こうして急いでやって参りました。詳しいお話は馬車の中で致しますので、まずはお乗りください」
「それは助かる」
アチャズの案内で、一行は2台の馬車に乗り込んだ。
「それで、いったいどうなってんだ?手紙ではエルンに逃げろと書いてあったが」
「申し訳ございません、フランツ殿。手紙は夕刻に書かれたものだったのですが、ご覧になったのは先程でございましょう。リヒャルトさまもよほど慌てていらしたのでしょうね。そのことを失念していたとおっしゃって。急遽、わたくしめに殿下のお連れの方たちを匿うようお願いしたいとのことで、こうして私が代わりに来たのです」
「なるほどそうだったのか。どっちにしてもありがたいな、俺たちだけじゃ、伝手も土地勘も無かったからな。今はどこに向かってるんだ?」
「私の邸宅に向かっております。そこにリヒャルトさまもいらっしゃいます」
「リヒャルト伯爵の邸宅ではないんですね?」
マリアが尋ねるとアチャズは首を振った。
「残念ながらリヒャルトさまも殿下と仲が良かったのは一部の貴族の知るところです。いつ何が起こるかわかりません。ですので、安全のために私の屋敷に今夜はお泊まりください。今後のことはそこでリヒャルトさまも含めてお話致しましょう」
2台の馬車は雨の降る貴族街の裏通りをひっそりと走る。あちこち色々な角を曲がっているのは追っ手がいた時のために撒くためだろうか。何度か角を曲がると人気のいない通りに出た。
そこで、急に馬車が止まる。何やら御者が誰かと話をしているようだった。
馬車が急に止まったのでアチャズが気になって顔を出そうとするのを、目の前にいたフランツが止める。
「待て、様子がおかしい」
チラッと馬車の窓から見える姿は衛兵のようであったが、王都を守る衛兵とは明らかに装備が異なっている。しばらく様子を見ていると、前の馬車を覗いていた衛兵が騒ぎ出した。
「バレたな!俺は残る、先に行け!」
「待ってください!フランツ殿、こんなこともあろうかと地図を用意しておいたのです。これをお渡ししますので後でこちらのほうへ」
「わかった!」
アチャズから地図を受け取ると勢いよく馬車から飛び出した。飛び出しざまに、馬車を覗こうとした兵を蹴り飛ばす。そして、そのまま前の馬車を囲んで騒いでいる衛兵に突っ込んだ。
瞬く間に数人がフランツの拳の直撃をもらい倒れて行く。警笛が鳴り響いたが、構わずそのまま前方の馬車を止めていた衛兵を倒そうとした瞬間、彼らは横に吹き飛ばされ道端を凄い勢いで転がっていった。手をパンパンとはたいているのはパトスである。
「なんだよ、じいさんまで残る必要はねぇのに」
「いえいえ、私のせいでバレてしまったものですから」
そう言うと、パトスは面目なさそうに笑った。鬼人族はその見た目から、どうしても目立ってしまう。
前方が空いた状態になったので、パトスは御者に先に行くように促す。馬車が動き出して追いかけようとする衛兵をパトスとフランツは、難なく素手で倒してしまった。
「やれやれ、もう後続部隊が来ましたね」
馬車の周りを囲んでいた連中が鳴らした警笛を聞きつけて来たのだろう。パトスが馬車が通って来た通りの角を見つめている。
フランツがパトスの見ている方を見ると、姿は見えないが複数の足音が近づいて来ているのがわかった。
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