不穏
リヒャルト大将はケルンを自領として治め、リース中将はヘルネの領主となり、アルスは新たに鉱石の採掘権を得た。この場で正式にリヒャルトは大将に、アルスは中将の任に就くこととなる。
同時にアルスの配下もそれぞれ昇進した。フランツ、エルンスト、ガルダ、エミールは大隊長に。マリア、ギュンター、ヴェルナーは中隊長に。ジュリ、パトスは小隊長となった。そして、つつがなく授与の儀が終了する。
アルスたちは先ほどの部屋で少し待つようにとのことだった。しばらくすると、先ほどの案内係が来てフリードリヒ陛下の自室に来るようにと、アルスだけが呼ばれた。案内係に付いて行くと、豪華な扉のある前で立ち止まる。アルスが扉をノックして開けると、フリードリヒが小さなテーブルの前の椅子に座っていた。
「アルス、待っていたぞ」
フリードリヒはそう言って、アルスの両手を持って上下に振る。
「陛下」
呆気に取られるアルスを見て、フリードリヒは思わず笑った。
「すまない、感激しててな。まぁ、座ってくれ。それとここには私とおまえしかいないんだ。気楽にしてくれ」
フリードリヒは座っていた椅子をアルスに勧め、自分は横に置いてある椅子に座った。
「ここまでよくやってくれた。おまえのお陰で、このルンデル戦を通して大方の貴族の支持を取り付けることが出来た。結果的にだがオルターの失敗によってブラインファルク家の求心力が落ちたことが大きかった。これも全ておまえのお陰だと思っている。感謝する、これで後顧の憂いはなくなった」
「・・・・・・」
「どうした?浮かない顔をして」
フリードリヒはアルスが暗い表情をしていることに気付いた。
「ルンデル戦での勝利によって兄さんの足元が盤石になりつつあるのは喜ばしいことと思います。しかし、どうにも素直に喜べない部分もあるのです」
「ベルンハルトのことか?」
「ベルンハルト兄さんと3大ギルドが接触したということを、フリードリヒ兄さんは知っておいででしょうか?」
「無論知っている。監視は付けているのだ。当然、それは向こうも承知の上だろうがな」
「それでしたら話が早いです。僕が手に入れた情報ですが、ハインリッヒ兄さんは3大ギルド、レオノール大商会の手によって殺されたかもしれません」
アルスがその話をした途端、フリードリヒの表情に緊張が走る。ハインリッヒ王子と会う機会の多かった彼にとって、ハインリッヒ王子の急速な衰弱は余りにも違和感があった。
そして、フリードリヒも薬物による毒殺ではないかと疑い調査を命じている。それをまさか戦地に赴いていた弟のアルスが指摘するとは予想していなかった。
「おまえ、その話どこで聞いた?」
「申し訳ありません。いくら兄さんとはいえ情報元は明かせません。ですが、信憑性は高いと感じています」
「やはりそうか・・・・・・」
「知っていたのですか!?」
「いや、知っていた。というより私の勘だ、ハインリッヒの病状の悪化が余りに急すぎたからな。だから、私のほうでも探りを入れていたのだが気付くのが遅かった。そのせいで一切の証拠が掴めておらん」
アルスはジェルモから聞いた話を、話せる範囲でフリードリヒにも聞かせた。話のなかには3大ギルドの動きに不審な点があったことはもちろん、ザルツ帝国がベルンハルトに接触したことも含まれる。
「そうであったのか。証拠はなくとも状況的には完全にクロだな。私は父上を尊敬しているが、3大ギルドの点においては、父は失敗したな。奴らを野放しにし過ぎた」
「今後、フリードリヒ兄さんの身の上にも何が起こるかわかりません。くれぐれも油断しないでください」
「アルス、それはおまえもだ。だが、そう言われるとザルツ帝国の訪問もやはり何か裏がありそうだな」
フリードリヒは腕を組んで、目を閉じる。何かを思案しているようでしばし沈黙が流れたが、アルスが質問をぶつけた。
「ザルツ帝国はいったい何のために我が国に来たのですか?」
フリードリヒはアルスに彼らが会見に来た目的と会見の様子を話して聞かせる。そして、そのときに気になったフードを被った人物についても触れる。彼がいったい何者なのかは、アルスにも見当がつかなかった。
ただ、会見した次の日の会食には彼は姿を現していない。そこから、その人物がベルンハルトに接触したのではないかという見解で一致すると、話は翌日のレーヘの王子との会食に映った。
「そういえば、明日はレーヘのファディーエ王子と会食がある。すまんな急に」
「いえ。ところで、どうしてファディーエ王子はこちらに来ることに?」
「表向きは士官学校の視察ということになってるがな。その辺の理由を突っ込んで聞いてもしょうがないと思ったので、それ以上聞いてはいない。だが、来るとなれば丁重にもてなさないといけないしな」
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