褒賞授与の儀
延々と続くバラの花壇を抜けると、噴水と大きな立像が見えてきた。
「アルスさま、あの像は誰なのですか?」
ヴァレンシュタットの王城の庭は下と中というふうに、ふたつに分かれている。バラの花壇を抜けるとそこには大きな噴水があり、噴水の中央には大きな立像がある。
その立像を指差してジュリがアルスに尋ねた。
「あれは、ローレンツを建国した英雄王アーレだよ」
「なるほど、アルスさまのご先祖様というわけですな」
「パトスさまは本当にそういうのが好きですよね。建築様式とか歴史とか」
「ベル、歴史は知らねばならない。歴史を知ることは同じ過ちを繰り返さないようにするためなのだ」
アルスはパトスの言う事がもっともだと思った。今起こっている王位継承権争いはディーナやダナの国ですでに起こった事実である。あまり本人たちも話そうとしないため、詳しく聞いてはいなかったが。
国は違えど全く同じ問題で争っているこの現状を見て彼らはどう思っているんだろうか?いつか聞ける日が来たら聞いてみたいと思った。
王宮の入り口前まで来ると、アルスたちは馬車を降りそれぞれの足で階段を登っていく。案内係の女性が待機室まで案内してくれた。ここまでは前回と同様の流れであったが、今回はアルスひとりではなかったので、用意された部屋は20人が悠に入れるような広さである。
部屋の中には大きなテーブルとソファがいくつかあり、窓からは先ほどの庭園の見事なバラを見渡すことが出来る。
アルスが案内係に今後の予定を尋ねてから最後にその大きな部屋に入ると、ガルダとジュリがテーブルの上に置かれた焼き菓子をむしゃむしゃと頬張っているところだった。
「え?」
「「ん???」」
ジュリとガルダの双方と目が合うと彼らは慌てて焼き菓子を元にあった場所に戻したが、口の中はすでにもごもごしているのがバレバレである。
「こ、これは、そのですな」
「毒見、毒見です!アルスさま」
ガルダが口籠っている隣でジュリがもっともらしいことを言うがジュリも口の中でもごもごしているので説得力ゼロである。
「そ、そう!毒見です!」
アルスは溜め息をつきながら二人を説教した。
「あのねぇ、二人とも気を付けてって言ったでしょ。なんでもう入った瞬間に食べちゃってんの」
「はっはっは!昨日の朝、みんな気をつけろなんて言っておいて、なんでおまえが真っ先に食べてるんだよ?」
フランツが笑い転げていると、ガルダがシュンとする。あれだけ大きい身体が小さく見えるぐらいだ。
「も、申し訳ありません、つい」
「すみません、アルスさま」
普段、自信家のジュリまで落ち込んでいる様子を見て、アルスもこれ以上ふたりを責める気も起きなくなってしまった。
そんなやり取りをしながらしばらくすると、ドアがノックされる。先ほどの係の女性がアルスたちを褒賞授与の儀に案内をしてくれた。
アルスたちが謁見の間に到着すると、ルンデル戦に参加した多くの将兵が既に集まっている。アルスはチラッと周りを見渡したがベルンハルトの姿はそこになかった。
彼はルンデル戦には参加してないのだから当たり前といえば当たり前なのだが・・・・・・。どうにもジェルモから聞いた話がアルスの頭から離れなかったのだ。
「殿下!」
手を振りながらこちらに駆け寄ってきたのはリヒャルトだった。
「殿下、昨日は彼と話が出来ましたか?」
「ありがとう、リヒャルト伯爵のお陰でかなり重要な情報を手に入れることが出来たよ」
アルスは昨日ジェルモから得た情報を、話せる範囲でリヒャルトと共有した。公の場であったので、詳しい話は一切出来なかったが有意義な時間を過ごせたことを報告する。
リヒャルトとそのような話をしていると、今回の戦いに出た者たちが続々と集まってきた。やがて、政務官の準備が整い開始の時間となった。
「それでは、ただいまより褒賞授与の儀を開始します」
「それではまた後ほど」
政務官の言葉が聞こえると、リヒャルトはそう言って自分の立ち位置に戻って行った。
今回の褒賞授与の儀は、結果からいえば第一功がリヒャルト大将である。オルター大将が崩した後を引き継いで見事に立て直したこと。さらにコーネリアス大将軍を打ち破り、ケルン城を攻略したことが認められた。
そして、第二功はアルス。同じくコーネリアス大将軍の策を看破し、ケルン城を攻略したこととバートラム大将軍を打ち破ったことが評価されてのことであった。
そして、第三功はリース中将である。彼はヘルネ城を攻略したことが評価されてのことであった。
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