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商人の警告3

「状況的に考えたらその者がクロとしか考えられませんね」


 マリアがアルスのほうを心配そうに見ながらそう答えた。


「調合薬そのものが処分されてしまい、確証が得られておりませんが。私は間違いなくレオノール大商会の仕業と考えております。それに妙な噂も耳に入ってきております」


「妙な噂?」


「ザルツ帝国がベルンハルト殿下に接触したという噂です」


「ザルツ帝国が?」


 アルスが知る限り、ザルツ帝国がローレンツに干渉してくること自体ほとんどなかった。そもそも、彼らはローレンツという国に対する使者である。


 それなのに、ピンポイントにベルンハルトに接触したというのであれば、余りにも不自然な話だった。


「ええ、ザルツ帝国といえば3大ギルドの本拠地が置かれている大国です。何か企んでいるのかもしれません」


「しかし、なぜ3大ギルドやザルツ帝国がベルンハルト王子にこぞって接触するんだ?」


 フランツの問いにジェルモは明確に答えた。


「それは簡単です。フリードリヒ陛下が優秀だからです。陛下は3大ギルドが大変危険だとわかっております。ですから、いずれは国内から3大ギルドを追い出すのではないかと彼らは戦々恐々としているのでしょう。一方で、ベルンハルト殿下は自分の野心のためなら何でも利用しようとするお方です。少なくとも彼らにはそう映っています。現在の陛下よりベルンハルト殿下のほうが彼らは付け入りやすく、御し易いと考えているのでしょう」


 ジェルモはそこまで話すと、リサが淹れ直してくれたコーヒーを一口すする。ジェルモはパトスと同じコーヒー党なのだろう。


 コーヒーカップを揺らしながら飲む仕草まで、なんとなくパトスと似ている。


「だとすると、ひょっとしたらフリードリヒ陛下の立っている足元は、硬い岩ではなく、薄氷の上という可能性もあるということかもしれないな」


「・・・・・・そうかもしれない」


 ヴェルナーの呟きに、アルスは独り言ちるように答えた。


「少なくとも」


 一瞬の沈黙を破り、普段は大人しいベルが静かに言った。


「少なくとも、明日の褒賞授与の儀では、特定の人間に対して出されるような食べ物は食べるべきではなさそうですね」


「そうですな。私とジュリ殿は特に気をつけねばなりませんな」ガルダが神妙な顔をして言った。


「なぜ私まで一緒にされなければならんのだ?」


 ジュリが不服そうにガルダに問い返す。


「いや、ふたりとも甘いものに目がないからだろ?」


 ジュリの抗議にフランツが簡潔な正論で押し込めてしまった。


「毒とわかってまで食う奴がいるかっ!」


 ジュリが言ったことでディーナとコレットがクスクス笑っている。


「ジュリはほんとに甘いものに目がないですからね。気を付けてくださいね」


「ななっ、ディーナさままで・・・・・・」


 ショボくれるジュリを尻目にジェルモはアルスに忠告した。


「私も出来る限り、深く広く網を張って情報収集は今後も続けていきます。何かわかったらすぐに殿下にお知らせ致します。それでもこれから何が起こるのかは、わかりません。もし何かあった時のためにこのカードを皆さまに渡しておきます。これを持ってゴドア商業ギルドを訪ねて頂ければご相談に乗らせて頂きます」


「色々とありがとう。ジェルモさん」


「いえ、勝手ながら私は殿下とみなさま方を3大ギルドと戦う心強い戦友だと思っております。最後に、ここにご滞在中はくれぐれもお気をつけください」


 ジェルモはそう言い残すと深々とお辞儀をし、帰って行った。その日、アルスたちは護衛を各チームに付けて自由行動にしたが、その日は結局監視の目はなかった。恐らく本当に警告の意味が含まれていたのかもしれない。


 次の日、アルスたちは褒賞授与の儀に参加するため、王宮へと出向いた。ディーナ、コレット、リサとダナそしてアイネは邸宅で留守番となった。このメンバーでは戦闘の出来る人間はアイネだけだが、その辺の賊程度ならアイネひとりで十分である。


 本当は警備のある邸宅で大人しくしてもらったほうが安全ではあるのだが、さすがに籠りきりは可哀想だったので、行き先だけは執事に告げて行くことを条件にアルスは自由行動を許可した。





                   落日





「すごいバラの香り!」

 

 誰かが思わず呟いた。


 馬車で王宮の門をくぐると、そこには広大な敷地に見渡す限りのバラの花が咲いていた。


 バラの季節には少し早かったが今年は冬が明けたら一気に暖かくなったせいか見事に咲き誇っている。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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