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商人の警告2

「もはや必要ないということですか」


「ガーネット教の思惑はともかくとして。そもそも権力者がガーネット教に求める裏の役割は異なります。神の教えを伝えるのは二の次です。植民地を増やすためのツールとしてザルツ帝国は使っているに過ぎません。彼らにとっては、マルムートのような大国には分断工作を起こさせ、そこに神託戦争のような戦争の大義名分を作るだけの道具に過ぎません」


「真面目に信じてる信者がバカみたいだなそれでは」


 ジュリが呆れて溜め息をついた。


「話を元に戻しますが、殿下の治めるエルン領においても3大ギルドを断っておいでですよね?」


 アルスが対外的にそのことを話したのはリヒャルトだけだ。リヒャルトはジェルモに会いたがっていたが、昨日初めてリヒャルトとジェルモは会うことができたのである。


 ピンポイントにその話が出るだろうか?先ほどのミルコとファルクが獄中で暗殺された件も含めて、改めてアルスはジェルモの情報網の凄さを思い知らされた感じがした。


 そんなアルスの驚く様子にジェルモはニヤッと笑って続ける。


「商人の耳はより遠くまで聞こえるものです。皆さんにとっての武器が戦う力であるならば、商人にとっての武器は情報や資金ですからね」


 アルスはそれを聞いて敵わないといった風に苦笑した。          


「なるほど。確かにレオノール大商会からエルン州に支部を置かないかと聞かれたけど断ったよ」


「そうですか。その件とノルディッヒ州の件に殿下は直接関わっていらっしゃる。つまり、3大ギルドにとって厄介な敵だと認定されたということです」


「はっ!あんな下手くそな監視が警告か。舐めた真似してくれるぜ」


 フランツの怒りの反応に、エルンストが応じる。


「いや、何も武力で真正面から来るわけじゃないと思うぞ」


「どういうことだよ?」


「元々彼らは武力を持っていない、ならば武力を持ってる連中を取り込んで利用するのもひとつの手だが。先ほどのジェルモ殿の言う通りであれば彼らは何でも利用しようとするはずだ。まして相当な力を持っている敵相手なら手段は選ばない」


 エルンストにそこまで言われてフランツも考え込む。


「・・・・・・毒か?」


「毒だけじゃない、デタラメな情報を流して社会的に抹殺することもあり得る。それはおまえがノルディッヒ州で見てきたことなんじゃないのか?」


 エルンストの推察をさらにアルスが補足する。


「エルンストの言う通りだね。実際、鍛冶ギルド長であったエハルトさんはその手のデタラメな記事を何度も書かれている。そう考えるとそのうち僕の記事も出てくるのかもね」


 それを聞いてジェルモは笑って答えた。賢明な王子であっても自分事になると多少鈍くなるのかもしれない。その点がジェルモにとっては少し可笑しかったのだ。


「殿下に対するデタラメな記事はなかなか3大ギルドの圧力があっても書けないと思います。もし間違った記事を書こうものなら不敬罪で死罪でしょう。だから、彼らも殿下には直接手を出しづらいのです」


「まぁ、アルスはこう見えて一応王族の端くれだしな!」


 フランツがすかさず突っ込む。


「こう見えて、とは失礼な!まぁ、端くれっちゃ端くれだけどさ」


 ふたりのやり取りを聞いていたジェルモから堪え切れず笑い出した。


「ははは、殿下のお仲間は面白い方が多いですね。ただ、そうも楽観出来なくなっているのです。殿下の兄上が先日お亡くなりになったことは周知のことかと思いますが」


「まさか、ハインリッヒ兄さんが3大ギルドに!?」アルスの顔色が変わった。


「私も確証があるわけではないのですが、間違いなく3大ギルドが絡んでおります」


「くっ・・・・・・」


 アルスは唇を噛み締める。ケルン城であの時感じた違和感はやはり正しかったのだ。そのことが頭の片隅にこびりついていて離れなかった。結果的にその後の戦術判断も誤ってしまうのだが。


 今は何よりハインリッヒ兄さんまで3大ギルドに殺されたというジェルモの言葉がぐるぐるとアルスの胸中を駆け巡っていた。


「私の友人が薬剤ギルドに務めておりまして。ハインリッヒ殿下の調合薬を担当する者が変わったという連絡がありました。別の薬剤ギルドから来た生え抜きの薬師だそうで、急に抜擢されたとのことだったのです。しかし、通常であれば王族に届けるような薬剤を、いくら優秀な薬師だからといってどこの馬の骨ともわからぬ新参者に任せるようなことは絶対にあり得ません。しかし、上からの圧力があったとかで、それがひっくり返ったと」


「それって・・・・・・」


 アルスの手は固く握りしめられていた。


「ええ、お察しの通りです。その薬剤ギルドはレオノール大商会の系列ギルドのひとつなのです」


「・・・・・・」


 「その後、その新参者の薬師が担当に就いてから約3か月後にハインリッヒ殿下はお亡くなりになられました。遅効性の毒、もしくは弱毒性の薬が調合されていたのかもしれません。元々お身体が弱いハインリッヒ殿下には致命的な毒物となったのかと思われます。そして、その者は体調を崩したとの理由で職を辞してしまい、現在は行方をくらましております」


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