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商人の警告1

 そんな騒動があったのち、アルスたちが朝食を済ませた頃に執事のアントンから来客の報せを受ける。執事がドアを開け、姿を現したのは商人のジェルモだった。


 アルスが驚いたのは、ジェルモが昨日のパーティーで会ったときに比べて遥かに地味な服装をしていたことだった。ジェルモは商人としては一流であり、間違いなく大商人の部類に入る。そもそもそうでなければ貴族のパーティーに呼ばれなどしない。アルスがビックリしているのを察したのかジェルモはアルスに小声で言った。


「自衛のためです。ご容赦を」


 ジェルモも大商人とはいえ、3大ギルドを明らかに敵対視しているのだ。敵が少なくないのだろう。アルスはそれを聞いて納得した。ジェルモを応接室に案内すると、今度はジェルモは少し驚いた表情をしていた。


 ジェルモの前には大きなテーブルがあり、そこにいくつもの椅子が並べられている。右側の天窓からは庭の木の葉から漏れ出る朝の光がテーブルの上を優しく踊っている。


 そして、そこにはアルスの主要メンバー全員が座っていた。昨日の監視の件もあり、アルスはジェルモからの報告をメンバー全員に聞いてもらうことにしたのだ。


「アルトゥース殿下、これは・・・・・・」


「大丈夫、みんな信用できる僕の仲間だ」


「なるほど、それは頼もしい」


 それだけ言うとジェルモは席に座る。ジェルモは鬼人族の話も聞いていたが、実際に見るのは初めてだった。


 その点も気になっていたが、敢えて尋ねるのをやめた。アルスが信用している仲間に対して見た目で判断したと思われたくなかったからである。


「みんな紹介するよ、こちらは商人のジェルモさん。今回は3大ギルドについての情報をみんなと共有してもらおうと思う」


「ゴドアの商人、ジェルモ・シャマーリと申します。皆さま、よろしくお願いします。僭越ながら、私は3大ギルドと第一線で戦い続けている商人だと自負しております。もちろん、皆さんの戦いとは趣が少し異なりますが」


「ジェルモさんは、この国でも有数の大商人だよ」


「いえいえ、しがない商売人です。皆さんはルンデルとの戦で大変だったのでしょうが、3大ギルドはその間に裏で色々な網を張っているものと思われます。昨日リヒャルトさまとお会いした際もお話したのですが、ノルディッヒ州では鍛冶ギルドを乗っ取るためにガーネット教とも結託して実力行使に出てきました。宗教を利用するという点では先の神託戦争と似たようなものですが、その時捕らえた暗殺ギルドの実行犯は獄中で何者かに殺されてしまいました」


「あいつらが殺されたってのか!?」


 フランツが思わず声を上げた。


「ええ、恐らく口封じのためかと思われます。彼らの雇い主を辿っていけば3大ギルドに繋がる恐れがあるとして殺されたものと思われます」


「ひでぇことしやがるな」


 ジェルモが言っているのは、フランツがノルディッヒ州で戦ったミルコ・オットマーとファルク・ガーランドのふたりだ。ふたりとも暗殺ギルドに雇われていた身分であったが、フランツに敗れて以降は投獄されていた。


 尋問されて、その暗殺ギルドの名前が出るのをグランバッハ商業協会が嫌ったのかもしれない。リヒャルトよりも先にジェルモの情報網に引っかかったのだとすれば、とんでもない情報網である。


「そうですね。しかし、わかったこともあります。彼らが所属していたギルドは黒の狼という暗殺ギルドでした。グランバッハ商業協会がそこに間を挟んで依頼していたのでしょうね」


「黒の狼・・・・・・か」聞いていたアルスが呟いた。


「殿下は何かご存知で?」


「いや。ただ、昨日僕の仲間が街に出かけたときに監視されてたから、ひょっとしたらそういうギルドが絡んでいるのかな?と」


「十分あり得る話かと思います。実害がないのであれば、恐らくそれは警告でしょう。殿下はノルディッヒ州の危機を救われました。殿下自らが囮となって捕まることにより、ガーネット教に対するローレンツ国内の風当たりはどんどん強まっています。これは、3大ギルドにとっては大きな痛手となりました」


「ガーネット教と3大ギルドは昔からつるんでいるということですか?」


「ええ、彼らは利用できるものは何でも利用しますから」


 ヴェルナーとジェルモのやり取りを聞いて思わずアイネが反応する。


「でも、ルンデルにはガーネット教は全然広まってないよ?」


「ルンデルでは既に彼らは王族を取り込んでいますからね。まぁ、今や過去形となりましたが」


 ジェルモは含みのある笑いをして、カップにあるコーヒーを一口すする。


 今や世間を賑わしている大ニュースといえば、ゴットハルト大将軍の反乱だろう。彼がレムシャイト城を占拠したことで、王族を支配していた3大ギルドの終焉を迎えることになるのは間違いない。これはルンデルにとって大きな前進といえる。

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