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アルスとマリア ふたりの誓い1

 ふたりの後ろを店の影や柱の陰から監視している人間がいた。人数はひとりだけだろう。武器は持っていないようだった。もっとも衣服のなかに隠していたり、暗器のようなものならば外見からわかることではない。


 びっくりして思わず振り向こうとするアイネに、後ろを見ない様に注意する。


「後ろを見るなよ。危害を加えるつもりはないようだが、あまりいい気分じゃないな」


「なんであたしたちが?」


「俺たちだけじゃなく全員に監視の目がついてると考えるべきだろう。理由はわからんが、ベルンハルト王子と何か関係しているのかもしれん」


「嫌だなぁ」


「アルスさま、何事も無ければいいが・・・・・・」




                 誓い




 その頃、アルスはマリアを伴って戦勝パーティーの会場にいた。パーティーは貴族の邸宅で開かれることが多い。パーティーでのアルスはエルン戦に続いてケルン戦での活躍もあったため、引っ張りだこであった。


 挨拶に続く挨拶で精神的に疲れてきたころである。ひと際豪華な服装に身を包んだひとりの若い男がアルスに近づいてきた。


「アルトゥース殿下とお見受けする。私はファディーエ・フィリップと申します」

言いつつ、その男はアルスを値踏みするような目で見ていた。


「フィリップ・・・・・・ひょっとして」


「お察しの通り、私はレーヘの第二王子です」


「そうでしたか、気付かずに失礼いたしました」


「いやいや、今回のパーティーの名簿には私のことは載っていないので」


「まさか、お忍びで?」


「ええ、そんなところです」


 そこまで言うと、ファディーエはマリアのほうをちらっと見た。


「ほう、これはなんと美しいレディーだ。まるで庭に咲く一輪のバラだな。お名前を伺っても?」


「え、ええ。マリア・フォン・コンラートと申します」


 マリアがそう言うと、ファディーエは片膝をついてマリアの手にキスをする。女慣れをしているというか、所作のひとつひとつがキザというのか。


 アルスは、彼のマリアに対する態度や話し方に言いようのない激しい嫌悪感を覚えた。


「ぜひ、一曲私と踊っていただきたい」


「申し訳ございませんファディーエ殿下。私はアルトゥースさまの付き添いで来ておりますので」


「アルトゥース殿下、彼女は君の婚約者か何かかい?」


「・・・・・・いえ、そういうわけでは」


「では、断る理由などないなマリア嬢」


「いえ、ですから私は」


「ほう?この私の誘いを断る意味をわかっているのかな?」


「失礼ですが殿下、あなたはお忍びでここにいらっしゃってるのでしょう?彼女もそのつもりでここに来ているわけではないのです」


 ファディーエの高圧的な言い方にアルスがそう反論をすると、ファディーエはアルスを小馬鹿にするように笑う。この王子は隣国まで来て、いったいここに何をしに来たというのだろうか?


 会ってすぐに人を嫌いになるということは今まで余りなかったアルスだったが、ますますこの王子に対しての嫌悪感が止まらなくなっていた。


「ここで私の誘いを断るという事は今後貴国との付き合い方を考え直すことにもなりますよ?」


 マリアはアルスを見た時、明らかにアルスは怒っていたが反論は出来ずにいた。ローレンツにとってレーヘは同盟国であり、ここで彼の機嫌を損ねればフリードリヒの立場を危うくしかねない。


 まさかここまで露骨に力を誇示してくるとは思ってもいなかったが、マリアもそのことはよく理解していたため、不承不承受け入れるしかなかった。マリアとファディーエが躍っている姿を苦々しく見つめていたアルスだったが、ふと疑問が浮かんできた。


 もしかしたらレーヘとの会食の相手というのはこの男なのだろうか?だとしたら非常に厄介な相手だ。なにせダンスの誘いを断るだけでいちいち権力を振りかざす人間だ。あとでどんな難癖をつけてくることやら。


 アルスがあれこれと暗い未来を想像してうんざりしていると、マリアが疲れ切った表情で戻って来た。


「マリア、ごめん」


 アルスはなんと声を掛けていいのかわからなくなり、結局陳腐な謝罪しか浮かばなかった。


「いいんですよ、アルスさま」


「何か言われたかい?」


「会食に誘われました」


「・・・・・・そうか」


 気まずい時間が流れた。アルスは、今までのことを思い返していた。彼女はいつでも僕をサポートして来てくれた。部隊長としても有能な秘書としても得難い才能を持っている。いや、違う。そんなんじゃない。


 それが彼女の魅力じゃない。彼女はいつだって僕のためを思って行動してくれていた。さっきだって、リサとの雰囲気が悪くなりそうな僕を助けてくれたのは彼女が有能な秘書だからじゃない。


 マリアと初めて会ってから今まで、彼女の好意を感じていながらハッキリさせて来なかったのは僕のほうだ。このままじゃダメだ。


 アルスは色々な想いを一通り巡らせると、パーティーの喧騒から抜け出すためにマリアをバルコニーに誘った。バルコニーに出ると、騒々しいパーティーとは隔絶された世界が眼下に広がる。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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