王都
だからこそ、フリッツ将軍は武器を弾き飛ばされても命は取られなかったのだろう。仕えていた自分の国に反旗を翻すなど、あの人の好さそうな将軍にとっては相当の苦痛を伴う決断だったんじゃないだろうか?
「てことは、ゴットハルトとは今後協力出来るかもしれないってことだな?」
「そうだね。とはいっても、ルンデル国内は当面ゴタゴタするんじゃないかな。そんなに期待は出来ないかもしれないけど、少なくとも無駄な戦はもう起こらないと思うよ」
「それなら良かった。本当にもう無駄な戦いだけはしたくないよ」
「そうだね。というわけでみんな!全部というわけではないけど、現状の憂いは無くなった。今からは明後日から王都に行くための準備をすることに集中しよう!」
「「「「おーーーー!」」」」
そこから二日間は、各自準備に追われて慌ただしく過ごす。そして、ギュンターたちに留守を任してアルスたちは王都へと出発した。
王都までは馬車を数台用意しての大移動となる。道中、フランツが馬車の中で景色を見ていると急に思い出したようにアルスに尋ねた。
「そういえば、ガートウィンから連絡はあったのか?」
「まだないね」
「発注してから結構経つだろ?」
「そういえばそうだね。王都に行ったついでに工房のほうにも寄ってみようか?」
「いいよなぁ新しい武器」
「フランツはもうアダマンティウムの武器を持ってるじゃないか」
「いや、まぁそうは言ってもさ。やっぱり心が躍るもんだよ。なんたって銀の聖杯だぜ、この国最高の鍛冶師の作品だぜ」
「なんか、エハルトさんにちょっと失礼な感じ」
アルスの、もの言いたげな目に思わずフランツは笑って誤魔化す。とはいえ、フランツの気持ちもわからなくもない。他の仲間がガートウィンの作品を持っているのに、自分だけ持てないというのは確かに羨ましくなるのだろう。
小国とはいえ、銀の聖杯の称号を持つ鍛冶師に作ってもらうというのはひとつのステータスみたいなものだからだ。
「へへへ」
「まったく。まぁ、ひょっとしたらフランツの分も作ってくれてるかもしれないけどね」
「さすがにそれはないだろ」
「一応、全員分の身長と体格、それに特徴は伝えてあるんだよ」
「本当か!?恩に着るぜアルス!じゃあひょっとしたら俺の分もあるのか!?」
「さあね、そもそも連絡が無いから出来てるかどうかもわからない」
「うーん、欲しい!」
アルスたちが王都に到着すると、王都ヴァレンシュタットの南側の大きな門が見えて来た。王都は巨大な城塞都市になっていて高い城壁によって守られている。その周囲には堀が張り巡らされており、敵の侵入を防ぐ大きな役割を担っている。
通常、城塞都市には主塔と呼ばれる塔があるが、ヴァレンシュタットには東と西にふたつある珍しい造りになっていた。主塔は都市によって形が違い、その街のシンボルとなる。ヴァレンシュタットは塔の形というより、主塔がふたつあること自体がシンボルとなっていた。
「うわぁ、すごい城壁都市!」思わずコレットが大きな声を上げた。
「うん、私の国の城壁はここまで高くはなかったなぁ」
ディーナもコレットに同調してうんうん頷く。
「ディーナちゃんのお城とはデザインが違う感じ?」
「そうだね。私の国のお城はもっとこう・・・・・・まるい?」
言いながら、ディーナはなんとかコレットに伝えようと手で一生懸命、丸を作る。
「まるい?」
「うん、屋根がね。まんまるだったよ」
「へぇー、まんまるお城だったんだね」
ふたりのやりとりを見ていたパトスが、やりきれないといった表情で思わず口をはさんだ。
「オホンッ、アーチが多用されているマニエリスム様式でしてな。壁側に二対の小さい円柱で支えられた柱によってアーチを作るパラディアン・モチーフが採用されていたのです。それはそれは美しい城でございましたよ」
「へぇー・・・・・・。あ!ディーナちゃん、街の方から良い香りがするね!街に付いたら早速お菓子屋さん巡りしてみる?」
「うんうん!そうしよう!たのしみ~♪」
「パトスさま、お嬢様おふたりには建築物の造形の美の理解はいささか難しいかと」
ひっそりとベルが囁いて、パトスは溜め息をついた。
褒賞授与の儀は明後日のため、一行は王都に着くと2日間の自由行動となった。宿泊施設はフリードリヒの計らいで貴族の邸宅を用意してくれてあったので、アルスたちはそこに荷物を置いて各自自由行動をすることとなった。
邸宅は貴族街の一画で、王族が所有する邸宅である。門を馬車でそのまま通ると中には広大な庭が広がっていた。両側に小さな噴水があり、そこに建てられた彫刻も見事なものである。
ドアの前には警備兵が立っており、アルスが姿を見せると敬礼してドアを開けてくれた。
ドアが開くと、フリードリヒが派遣した執事とメイドたちがホールの中央で出迎える。
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