ギュンターの決意
「特に心配はないと思うけど、留守にしてる間は今回もディーナとコレットに任せるよ」
「わかりました」
「どうしたディーナ?」
エルンストが少し寂しそうなディーナを見て声を掛けた。エルンストに声を掛けられディーナは苦笑いする。
誤魔化そうとも思ったが、コレットと目が合うとなんとなく彼女も同じことを考えているような気がした。ディーナは思い切って本音を吐露した。
「えー、と、私も少し王都を見て回りたかったな、と」
「そうだな。ずっとこっちに来てからここしか見てないものな。アルスさま!ディーナも王都に連れて行ってくれませんか?」
「確かに、ずっとディーナさまはずっとこちらにいらっしゃいますからな。アルスさま、もしよろしければ私からもお願いいたします」
パトスはそう言うとアルスに深々と頭を下げた。
「うーん、そっか。確かにそうだね。それならリサとダナも一緒がいいね。でも、そうなると留守はコレットひとりになっちゃうのか」
「それなら私が残りましょう」
気が付くとギュンターが手を挙げていた。突然のギュンターの発言にみんなの目が丸くなる。常に周りを見て判断する冷静なギュンターのことだ。きっと何か考えがあってのことだと思うが、それでもアルスは「なぜ」と尋ねずにはいられなかった。
「今回の戦いを見て思うところがありまして。特に今回私は活躍したわけでもないですしね」
「いやいや、せっかく呼ばれたのだし」
「そうだな、何故急に行かないなどと?」
「ヴェルナー、俺が今回残ると言ったのはおまえの技を見てだ。俺の技はまだおまえの域まで達してないんだ」
「だからって・・・・・・」
「だからこそだ。ここでおまえに置いてかれるのはごめんだからな。この機会に徹底的に修行して俺の技を完成させる」
ギュンターは、ヴェルナーとコーネリアスの護衛であったリッカールトの戦いを間近で見ている。その際にヴェルナーの技の完成度を見て驚愕した。また、バートラム戦ではベルと組んでドルフ、アジル兄弟と戦ったが思うように戦えなかったのだ。
それが悔しかったというのが本音だ。ギュンターは、同郷の出身であるヴェルナーをライバルとして意識し始めていた。
「ギュンター、それでいいの?」
「アルスさま、私はちょうど良い機会だと思ってます。オーラの性質をうまく技に昇華出来るように自分なりに調整する時間が必要だと思っていましたので」
そう言ってギュンターはドルフとアジルの方をちらっと見て言った。
「部隊長が一人は残らないと万が一何かあったときに困るかと思います。それにドルフとアジルは私の練習相手にはちょうど良いですし」
「俺らで良かったらいつでも相手になりますよ!」ドルフがギュンターに笑顔で応える。
「わかった。そういうことなら留守はギュンターに任せるよ」
「まさか、おまえがそんなことを思ってるなんてな」
横でやり取りを見ていたヴェルナーが、ギュンターに声を掛けた。
「当たり前だ。部隊長がそれぞれ技を磨いているのに俺だけ完成してないでは話にならない。それにヴェルナー、俺はおまえにだけは負けたくない」
「ははは!なら俺はさらに技を磨くとするかな」
「勝手にしろ。俺はそれをさらに超えてやる」
そんなギュンターとヴェルナーの熱いやり取りそっちのけでコレットとディーナたちは喜んでいた。ディーナは、遠い異国の大陸に来て以降、感謝祭以外はほとんど城外に出ることすらない日々を過ごしている。
もちろん植物の育成の仕事や、コレットとのお喋りやデザート作りは楽しいが、やはり州外に出て色々なものを体験するのは魅力的で刺激に満ちているのだ。
「コレットちゃん!良かったね!」
「うんうん!ディーナちゃんも!王都楽しみだね」
「コレットちゃんは行ったことないの?」
「私は小さい頃に一度だけ。でも何も覚えてないから今回が初めてみたいなもんだよ!だからさ、一緒にお菓子やさんとかカフェ屋さん巡りしようよ!」
「いいねいいね!王都にはどんなお菓子があるのか楽しみ!リサとダナも一緒に行くわよ!いい?」
「はい!」ダナが嬉しそうに答える。
「ええ、もちろんお供させていただきますわ」
普段、ディーナのお世話をしているリサにとっては、ディーナの行くところは当然ついて行くということなのだろう。意気込みが前面に出ている。
「アルス」
腕組みをしながら何か考えていたフランツがアルスに声を掛けた。
「どうしたのフランツ?」
「和睦会議のことを聞きそびれていたんだが、ゴットハルトはおまえと何を話したんだ?」
「あ、それあたしも聞きたいと思ってたところ」
アイネもフランツの振った話題に乗って来た。
「まず、ゴットハルト将軍は僕らと同じく3大ギルドに苦しめられていたようだね。相当胸に秘めているものがあったらしい」
「つまり、それって将軍はルンデルから3大ギルドを追い出すためにアルスさまと和睦をしたってこと?」
アイネの問いにアルスは頷いた。恐らくそうなんだと思う。ゴットハルト将軍は最初からそのつもりだったのかもしれない。
いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。
☆、ブックマークして頂けたら喜びます。
今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。