和睦
「フリッツ将軍、助かったよ」
アルスは軍議が終わった後でフリッツに礼を言うとフリッツは苦笑いした。
「リヒャルト殿は本当に殿下のことをお慕いしているのですな」
「心配性なだけかと思うけどね」
「しかし、私が推しておいてこんなことを言うのもなんですが、本当に大丈夫でしょうか?」
「ゴットハルト将軍は誇りあるルンデル最強の将軍だ。そんな将軍が暗殺や騙し討ちみたいな姑息な手段を取るとは思えないし、もしそうなったとしても僕は簡単に殺されやしないよ」
「ははは!確かにそうですね」
フランツが護衛として帯同することはゴットハルトも認めたので、ローレンツ軍とルンデル軍の陣の真ん中に簡単な和睦の席が設営される。アルスがフランツを帯同して赴くと、既にゴットハルトは座って待っていた。
ゴットハルトの後ろには女性武官アンリの姿もある。ゴットハルトはアルスの姿を認めると立ち上がる。アルスはゴットハルトを初めて見てその大きさに目を奪われた。
「お初にお目にかかるな、王子。3大将のひとりゴットハルト・フォン・フレーゲルだ。といっても、すでに俺ひとりになっちまったみたいだが」
「ローレンツ第四王子アルトゥース・フォン・アルノー・ド・ラ・ローレンツです」
ゴットハルトとアルスはお互いに自己紹介が終わると席に座った。ゴットハルトの大きさは対面で座っているだけでも圧迫される。
ただ、身体の大きさを除けばどこにでもいる人の好さそうなおっちゃんという感じがした。
「まず話し合いに応じてくれたこと、感謝する」
「正直、驚いてます。まさかそちらから和睦の申し入れがあるなど思ってもいなかったから」
「ふふふ、こちらとしても色々あってな」
「ゴットハルト将軍はルンデルの英雄、勇将としての名はこちらにも知れ渡ってます。もし差支えなければ和睦に思い至った理由をお聞かせ願えませんか」
「では、敢えて聞かせてくれないか。俺たちはこうして争っているが、それはなんのためだ?」
「国のため、民のためでは?」
「そうだ。本来ならそれが正しい答えだ。国は民のことを第一に考え、その国にとって利益となることを追求する。王子はご存知か?この国は今や寄生虫に侵され、彼らの意図でしたくもない戦をしている。俺はその寄生虫を駆除したいと思っている」
「寄生虫・・・・・・面白い表現をしますね。なるほど、確かに奴らは寄生虫だ」
ゴットハルトの余りのストレートな表現にアルスは思わず笑った。アルスはゴットハルトの言わんとしていることが手に取るように理解出来た。
ルンデルの国情はヴェルナーやアイネの話から散々聞いていたからである。
「そもそも我々が貴国に対して攻め込んだ理由は、侵略の脅威を排除するためです。その脅威の源を貴方が直接排除しようというのであれば、我々としては願ってもないことですが。貴方がやろうとしていることというのは・・・・・・」
「たぶん、想像している通りだ。頼む、その点は俺を信じて欲しい。なぁ、アルトゥース王子よ。貴国にもいるんではないか?地の中で這いずり回っている寄生虫が?」
「確かにいますね、それこそうじゃうじゃと数えきれないほどに。僕も出来るだけ早く駆除したいと考えているところです」
ゴットハルトもアルスの答えを聞くなり豪快に笑った。
「やはり、アルトゥース王子は聡明な方のようだ。コーネリアスのじいさんは戦場であなたと対峙していなければ、きっと良き友になっていただろうよ」
「そうですか。状況が状況とはいえ、残念です」
「なに、俺と王子とはそうはならずに済みそうだ。それだけでも救いというものだ。共通の敵がいるということは、何よりも心強いものだからな」
アルスはアイネの言っていたことを思い出していた。コーネリアス将軍はランツベルクを三大ギルドから守るために領主を説得したり、州法を変えたりして苦心していたと彼女は言っていた。
もし国が違わなければ友人になれたに違いない。それどころか、3大ギルド相手に頼もしい戦友になれたかもしれない。
「僕もゴットハルト将軍の考えを知ることが出来て良かったですよ。ここでこれ以上無駄な血を流さなくて済むならそれに越したことはないですから。陛下も応じると思います」
「それは助かる。それと、そちらで捕虜になってる連中の扱いなんだが・・・・・・」
「それについてなんですが、僕の裁量でバートラム将軍の配下だったふたり、エメル隊長とリンドラ隊長はこの場でお返しします」
「ほう、そりゃありがたい話だが・・・・・・」
ゴットハルトがアルスの気前の良さに戸惑っているようだったが、アルスは構わず続けた。
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