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ゴットハルトの胸中4

 戦場で戦い続けた戦士である、ゴットハルト特有の嗅覚のようなものがはっきりと、王の命が長くないことを告げる。


 しかし、ゴットハルトの存在に気付いた王は身体を半分だけ起こしたのだ。驚いたゴットハルトはそれに気付くとすぐにオルノア王の元へ駆け寄った。   


「いけません陛下、お身体に障ります」


「良い。どうしてもおまえに伝えておかねばならぬことがあって呼んだ」


 王にそう言われてゴットハルトは黙って頷き、その場で跪いた。オルノアは続ける。


「エドアルトが幼き頃のことを覚えておるか?」


「もちろんです。とても可愛かった」


「ああ、そうだな。世継ぎがなかなか出来なかった儂にとって、唯一の世継ぎとして生まれたのがエドアルトだ。儂にとっては目に入れても痛くないほど、とてもかわいい子だった。儂はあの子に欲しがるものならなんでも与えた」


「・・・・・・」


「そして、あの子の要求は成長するにつれてエスカレートしていった。今思えば教育係の人選ミスなのだろうが、気付けぬ儂も悪かった。あの子が王位に就けば、エドアルトの肥大化する欲望をもう止められる者はおらんだろう。そこでお主に頼みたい」


 幼い頃のエドアルト王は本当に愛らしいお姿だった。なんにでも興味を示し、利発そうな子供だったが、次第にあらゆる快楽に堕ちていくことになる。


 オルノア王はしばらくの間咳込んでいたが、やがて落ち着くとゆっくりと話を続けた。


「頼みと言うのは、おまえに国を譲りたいのだ」


「はっ!?俺に国を譲る!?何を仰ってるんですか陛下?」


 ゴットハルトは突然のオルノア王の願いに困惑した。唐突に国を譲るなどと言われるとは思ってもいなかったからである。


 王位は血筋によって継がれるべきものであり、それ以外はどんな理由があろうと簒奪に過ぎない。


「よく聞けゴットハルトよ。何故儂がコーネリアスではなく、おまえを3大将軍筆頭に選んだのかわかるか?」


「・・・・・・」


「お前は戦場に出れば百戦錬磨の負け知らずだ。だが、そこじゃない。儂はおまえの実直な部分を評価している。真に民のために立つことが出来る男だとな。いざというときは、おまえが3大将軍の筆頭として他のふたりを従わせるのだ」


「しかし陛下、ご子息のエドアルトさまはどうされるおつもりなのですか?」


「儂が・・・・・・儂が悪かったのだ。可愛いエドアルトを・・・・・・」


 オルノア王の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていく。感情の高ぶりは呼吸器官を圧迫した。そのためか、またしばらくの間咳込みが止まらない状態が続く。


 オルノア王の余りの衝撃発言と咳込む症状に、頭の整理が追い付かないゴットハルトは、おろおろとしながら王の背中をさするしかなかった。


「陛下・・・・・・」


「エドアルトは・・・・・・もう死んだ。儂が知っている可愛いエドアルトは、当の昔に死んだのだ。今のあやつが王位に就けば、この国に災いをもたらす怪物になるであろう」


「・・・・・・しかし、俺が王になど陛下がお許しになっても他の貴族が許しません。どうかご再考を」


「何もすぐでなくても良い。おまえの目で見て判断すれば良い。貴族のことは心配せんでもいいだろう。あれに本気で付いて行こうとする者なぞおらん」


「陛下・・・・・・」


「よいな、ゴットハルトよ。頼んだぞ。これが儂からお主への最初で最後の頼みだ。どうか、どうかこの通りだ」


 そう言って、なんとオルノア王はゴットハルトに頭を下げたのだ。ゴットハルトは王の哀れさ辛さ、そして覚悟が痛いほどわかり、咽び泣いた。


 それ以降、ゴットハルトの胸中にはオルノア王の最期の言葉が何度も何度も響いている。エドアルト王の顔を見るたびに、何度も何度もオルノア王の最期の言葉が蘇るのだ。


「アンリ、エヴァールトとジャックを呼んで来い。大事な話がある」






 次の日だった、ゴットハルトから休戦と和睦の申し入れがあった。これに最も驚いたのはフリッツであり、最も警戒したのはリヒャルトである。


 リヒャルトが警戒したのは、和睦の条件にアルトゥース殿下とふたりで話がしたいという申し出があったからである。すぐにリヒャルトは軍議を開いた。


「私は反対です殿下。ゴットハルトは3大将軍の中で最も武勇に優れた武将です。あまりにも見え見えな罠の可能性もあります。殿下を捕らえれば王族を人質に出来ます、そうすれば我らが手出し出来なくなると踏んでいるのでしょう」


「僕なら大丈夫だよ。ゴットハルト将軍がどんな人となりか見てくる良いチャンスだと思う。それに僕も会ってみたいしね」


「しかし!」


「まぁまぁ、リヒャルト将軍、落ち着いてください。向こうから和睦を申し込んでおきながら暗殺のような真似をしてごらんなさい。国としての信頼は失墜しますよ」


 フリッツがなだめたがリヒャルトはなかなか納得しない。30分ほど揉めた後に、フランツが護衛役として付いて行くことで渋々ながらもようやく納得した。


 その条件を伝えたところ、先方もそれで構わないとなり、明後日(みょうごにち)、和睦の席を整える運びとなった。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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