ゴットハルトの胸中3
「援軍の旗は王家の紋章。ということは、ローレンツ第四王子のアルトゥース王子でしょうね」
ゴットハルトは黙って頷いた。ゴットハルトの見解はアンリと一致していた。
「アルトゥース王子は敵ながらエルン城奪取の手際も見事だったと聞いてます。それから、ケルン城の戦いはコーネリアス将軍のご不幸が敵にとって幸いしたという意見が大勢を占めていますが、私はそう思いません」
アンリはケルンが落とされる前から、コーネリアス将軍とローレンツ軍の戦いを詳細に調べていた。少しでも敵の情報を頭の中に入れておくためであるが、当時はまさかこんな結果になるとは思ってもいなかった。
全く想定してなかったわけではないが、想定した中では最悪の結果だ。だが、情報を集めていたおかげで、コーネリアス将軍が敗れた理由とその原因を作ったひとりの人物について調べるきっかけとなった。そして、アンリは続ける。
「ローレンツ軍が我が領内に攻めて来たのが2月です。そしてコーネリアス将軍が亡くなったのが三月。コーネリアス将軍はルンデル随一の知恵者ですからね。季節の寒さで病状が悪化したとのもっぱらの見方ですが。コーネリアス将軍ならもっと早くに殲滅出来たとしてもおかしくなかったと私は思います」
「なぜそう思う?」
「コーネリアス将軍は戦いのなかで、二度誤算があったとみてます。一度目は、川を境に対峙したとき、敵軍に中央を突破されてます。二度目は荷車を燃やして煙で敵の視界を奪った時も、一部の敵に看破され、逆に手痛い反撃を食らってます」
「つまり、コーネリアスの爺さんが想定していた以上に手強い敵がいた。そしてその敵がコーネリアス爺さんの策を見破ったことが死因を招いたって言いたいのか?」
「それがコーネリアス将軍の死を招いたとは思いませんが、遠因ぐらいにはなっているのかもしれませよ?それと、コーネリアス将軍の策を看破した敵。それがアルトゥース王子だったのではないかと私は思っております」
「なるほどな。まだ十六、七の若造だろう?まさに軍神だな・・・・・・」
コーネリアスの爺さんは高齢とはいえ、不敗の将軍と恐れられた存在だ。それが戦いのなかで二度も敵に出し抜かれてる。こんなこたぁ、俺の知る限り一度だってなかった。
エルンの領内も随分良くなったとこっちまで噂が流れて来る。聞くところによりゃ、領民に寄り添う優しい領主だそうだ。アルトゥース王子ってのは、いったいどんな人間なのか?
ゴットハルトは黙り込んでいたが、しばらくすると何か思い出したかのように再び口を開いた。
「おい、おまえ。まだ俺に言ってないことがあるだろう?」
「は?」
「は?じゃない。バートラムのことだ。遠慮せんでいい、腹を割って話せ」
「・・・・・・わかりました。それでは」
アンリはそこまで言うと、息を大きく吸い込んで吐いた。
「恐らく、バートラム将軍は討たれたものと思われます」
「だろうな」
「はい。色々と考えましたが、そう考えないと、このタイミングと状況でアルトゥース王子がこちらに援軍としてやってくるという説明がつきません。彼らは今回、防衛側なので時間が掛かってもこの際不利じゃないですからね。それにここは《《膠着状態》》?が続いてますが、守るというその一点に絞れば、敵はその点において目的を達成してますからねぇ」
ゴットハルトはふーっと大きく息を吐いた。この戦いに行けと命じられてからずっと頭の中をモヤモヤとしたものが渦巻いている。
ケルン城の奪還に関する二重の命令、エドアルト王の堕落、三大ギルドの浸透と支配、貴族の反乱、無茶な大侵攻。いや、もっと以前から感じていたことだ。言い方からしてアンリにはもう気付かれてるだろう。
「まぁ、確かにな。ここでの膠着状態は偏に俺の責任だ。俺はバートラムとは仲が悪かったが、ちと悪いことをしちまったかもしれんな」
ゴットハルトは小さく溜め息をついた。
「将軍こそ何か隠してませんか?」
「そう見えるか?」
「見えますよ」
「そうか・・・・・・」
ゴットハルトは、先代の王であるオルノア王のことを思い出していた。オルノア王が崩御される直前、王の寝室へ呼ばれたことがあった。
恐る恐る王の寝室へ入っていくとオルノア王はベッドに横たわっている。寝室に横たわる王は、香炉の香で誤魔化しているものの、明らかに死の匂いを発していた。
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