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大国の影1

 王都はルンデル戦での勝利に沸き上がっていた。民衆は戦勝祝いとばかりにお祭りを開き、宴が各地で開かれている。また王族も例外ではなく、フリードリヒはここぞとばかりに貴族を集め祝賀会を開催し、新王の力を誇示することに余念がなかった。

 

 もちろんフリードリヒの場合は、民衆のような浮かれた気持ちで祝賀会を開くのではない、政治的な駆け引きのためのパーティーである。ここで王弟殿下であるベルンハルトの力を削ぎ、フリードリヒの味方をひとりでも増やすことが最大の課題であった。


 そんな最中である。突然、ザルツ帝国の使者がローレンツを訪問したのである。ヴァレンシュタット城内は一種の騒ぎとなった。今までザルツ帝国がローレンツのような小国に使者を送ったことなどなかったからである。


「ジルギース、どういうことだ?彼らはいったいなんの目的で使者を送って来たと思う?」


 王宮内の一室で、フリードリヒは紋章政務官であるジルギースに尋ねる。ジルギースは首を振るしかなかった。前例がないことである。ジルギースには彼らが何を考えているのかなど想像もつかない。大国の企みなど、どうせロクなものではないだろう。


「新王即位の祝いに来た。というのは表向きでしょうね」


「たったそれだけのためにこんな辺境の弱小国家に来るとは思えん。そもそも父王が即位されるときだって祝いなど来たことはないだろうに」


「とりあえずお会いになられたらいかがでしょうか?」


「会わねば会わぬでどんな因縁をつけられるかわかったもんじゃないからな」


 フリードリヒはそう言いながら溜め息をついた。ザルツ帝国は北の大国であり、大陸でもっとも軍事力を保有しているのが彼の国である。それが急に使者を送って来る。


 気になるのは、それが、大国の意志なのか?それとも他の意志なのか?ということである。ルンデルの例もある。もっとも、そこまで深く探るには情報が圧倒的に足りていない。


「心中お察しいたします」


「ジルギース、私の心中など察してる場合じゃない。奴らの真意を探ってくれ」


 そのまま、すぐにフリードリヒは間を開けずにザルツ帝国の使者と会った。ザルツ帝国から来た使者は老齢の使者が先頭に立ち恭しくお辞儀をする。恐らく使者の代表はこの老人であろう。その後ろに黒いローブを被った盲目の使者がもうひとり、立っていた。


 フリードリヒが、その男を盲目だと思ったのはローブの下の目の部分まで、布が巻かれていたからである。そのローブ姿の使者は、老人が礼をするタイミングをまるで計ったかのように同じタイミングでお辞儀をした。フリードリヒはこれを見て理由もなく妙な不安を感じた。やがて老人が口を開く。


「私はガヴリールと申すものです。後ろに控えております者はオレーグと申します。フリードリヒ陛下、陛下にお会い出来たこと光栄の極みにございます。この度、ローレンツの新王に即位されたこと、我が国を代表しお慶び申し上げます」


「感謝いたしますガヴリール殿。遠路より遥々ご苦労です」


「陛下よりのお心遣い心に痛み入ります。本日参りましたのは、我が帝国皇帝であらせられる、ヴラディスラフ・ダリ・ロゴス・ザルツより新王即位の祝いの品をお届けに上がりました次第です。目録をこちらに」


 言われてローブを被った男が、目録を持って政務官に近寄る。フリードリヒは何か言いようのない嫌悪感をこの男に感じた。何とも言えない妙な雰囲気を発するこの男は、フードを必要以上に目深に被っていて口元しか見えない。


 そんな状態であるにも関わらず、まるで見えているかのように、その所作には一切躊躇やムダがない。そのフードの男から受け取った目録を、政務官からジルギースが受け取り確認をする。謙譲の品はかなり高額の価値になるであろう。これほどの力のある大国が何故?そう疑問に思わずにはいられなかった。


「改めて感謝します。ところで、貴国と我が国とは国交が全くないというわけではないが、何故今になってこのように良くして頂けるのか伺っても?」


「皇帝陛下におかれましては、近年頻繁に起こる戦続きを嘆いておいでなのです。そこで近隣諸国と手を取り合い、頻発する負の連鎖を断ち切ろうと尽力しておいでなのです。その一環として貴国とも、と」


「そうでしたか。しかし、そういう理由ならご期待に沿えていないようだ。我が国はルンデルと戦中でしてな」


「我が国としては、戦とは経済の戦争と捉えております。経済とはすなわち国の豊かさを表します。人、モノ、カネが如何に滞りなく回転するかです。これがわかっていない国は、直接他国を侵略し富を奪おうとするものです」


 フリードリヒはこの言葉にカチンと来た。これではまるで我が国は無知で経済に疎く、粗暴だからルンデルに対して侵略をするために戦争を起こしたような言い回しである。祝いに来た、などと言っておきながらその実やっていることはただの内政干渉ではないか。


 そもそも、ザルツ帝国はガーネット教を利用し、宣教を隠れ蓑に異教徒を殺し奴隷として売り飛ばしてきた。その過程で、改宗した信者を救うためと称して体よく版図拡大の大義名分としてきた国が、今さらどんな顔して平和を説くというのか?先年の神託戦争はいったいどこの国が起こしたと思ってるのか?フリードリヒは平静を装いつつも、嫌味を二重のオブラートにくるんで使者に投げつけた。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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