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ルンデル軍の北南同時大侵攻

「急に集まってもらってすまない。我々にルンデル対応への四度目の出撃命令が下った」


 アルスは城下町の宿屋の一室に、士官学校の卒業メンバーを集めた。豪華な調度品が並ぶスイートルームではなく、大人数用の簡素な部屋だ。木のテーブルと粗末な椅子が並び、壁の薄さが宿屋の喧騒をほのかに伝える。窓から差し込む薄暗い光が、部屋に集まった仲間たちの顔を照らしていた。


「この時期に戦ですか!?」


「チッ、またか?この時期は敵さんも収穫で忙しいんじゃないのかね?」


 ギュンターが驚きを隠せず、フランツが呆れた様子で口を開く。11月の収穫期は、ローレンツにとってもルンデルにとっても一年で最も重要な時期だ。人手不足に悩む農村では、兵役を兼ねる農民が戦場に駆り出されることに強い反発がある。


 収穫を逃せば作物は台無しになり、飢えが待っている。戦争を仕掛ける側の負担もまた大きいはずだ。


「そうだね。だから彼らは傭兵を雇っているという情報だよ」


 アルスは、事前に得た情報を仲間と共有した。フランツが眉をひそめる。


「確かにこの時期は徴兵がしにくいし、城兵も収穫のためにいつもより数が少ない。単なる嫌がらせならいいが、それにしちゃ金が掛かり過ぎてるな」


「フランツの言う通りだね。傭兵を雇って大規模な軍勢を整えるなんて経済的な旨味は全くない。勝つか負けるかもわからない戦争準備に大金を投じる余裕はルンデルだってないはずだ」


「それは、裏でルンデルを支援してる国があるってことですか?」


 黙って聞いていたギュンターが鋭い質問を投げかけた。アルスは頷く。


「国か、あるいは別の組織かわからないけど、少なくともそうした存在がルンデルの背後にいるのは間違いないと思う。この件は今回の戦闘が終わったら探ってみるとして。それより、今回の本題なんだけど」



 アルスは状況を詳しく説明した。北東部のルンデル国境に位置するフライゼン城を守るオットー・フォン・シュルツェ中将から救援依頼が届いた。敵軍は8000から10000の大規模な軍勢を整え、攻め入るのは時間の問題だ。


 すでに第一王子フリードリヒと第二王子ベルンハルトが軍を率いて向かっている。第三王子ハインリッヒは病に臥せており、動けるのはアルスただひとりだった。3度の連戦を終えたばかりのアルスは、本来なら出兵を見送られる予定だった。


 だが、事態は急変した。ローレンツ南部を守る二つの城――西のヘヴェデ城と東のヴェッセルン城――のうち、ヘヴェデ城から緊急の救援依頼が届いた。


「ルンデルの最南端であるエルン城からヘヴェデ城に向けて敵兵の姿あり、その数2000、救援を求む」と。


 ヘヴェデ城を守るフーゴ・フォン・フリック連隊長は、通常1000の兵を擁するが、収穫期のために帰郷を許した兵が多く、城内にはわずか300人しか残っていない。兵を呼び戻すにも、各村に散った兵士の再招集には時間がかかる。ヴェッセルンからの援軍も、収穫期の状況では期待できない。


「・・・・・・と、いうわけで僕らに白羽の矢が立ったんだ。僕らの休暇はこれで吹っ飛んでしまったわけなんだけど、北と南の両側から攻めてきたとあってはそうも言ってられない」


 アルスは軽く溜め息をついた。ヴェルナーが厳しい表情で応じた。


「となると、我々だけの少数で南側を抑える必要があるということですか」


「そんなに悲観したもんでもないよ。僕の今の階級だと200人を率いるのが限度だけど、今回は緊急事態だ。徴兵した兵を合わせて1000人で出撃することになってる」


「徴兵か、民衆の批判が集まりそうだな」


 フランツの言葉に、アルスは苦笑した。


「確かにね。批判なら僕らじゃなくて、こんな時に侵攻してくる敵にしてもらいたいけどね」


「さて、もうひとつ話があるんだ。本題に入る前に・・・・・・」


 アルスは仲間一人一人の顔を見渡し、ゆっくりと口を開いた。この戦いを前に、魔素結晶の秘密を共有する決意を固めていた。仲間を死なせたくない――それが最大の理由だった。


「これから話すことは誰にも話さず、秘密にしておいて欲しい」と念を押し、幼少時に洞穴で発見した魔素結晶の話を始めた。懐から小さな革袋を取り出し、テーブルに中身を広げると、青い光を放つ小さな石が散らばった。その輝きに、部屋にいた全員が息を飲む。


「これが僕たちの体内に流れている魔素を結晶化したものだよ、まだ小さいけどね」


「これが!?」


 驚きの声が重なる。


「魔素の結晶化なんて聞いたことがない!こりゃあ、大発見ですぞ殿下!」


 ガルダが大声で叫んだ瞬間、全員の視線が彼を射抜いた。宿屋の薄い壁を忘れた無邪気な叫びに、場が一瞬凍りつく。


「シーーーーっ!」


「あ、いや、申し訳ない、つい・・・・・・」


 ガルダがしゅんとする中、エルンストが冷静に質問を投げかけた。


「この結晶石の使い方や効果は?」


 皆の視線がアルスに集まる。光る石であっても、使い道がなければ意味がない。アルスは頷き、「実際に試してもらったほうが早い」と小瓶を取り出した。中でチャプチャプと液体が揺れる音が響く。アルスはエルンストに小瓶を差し出し、「飲んでみて」と促した。



挿絵(By みてみん)


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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― 新着の感想 ―
秘密にして欲しと前置きしているのに大声で内容をしゃべるような愚かなガルダは仲間から外す方がいいのではと思う。
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