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ルンデル軍の北南同時大侵攻

「急に集まってもらってすまない。我々にルンデル対応への四度目の出撃命令が下った」


 アルスは城下町のある宿の一番大きな部屋に卒業メンバーを集めた。豪華な調度品が置かれているようなスイートルームではなく、大人数が泊まるための簡素な部屋だ。


「この時期に戦ですか!?」


「チッ、またか?この時期は敵さんも収穫で忙しいんじゃないのかね?」


 ギュンターは驚き、フランツが呆れた様子を見せる。それもそのはずで、今は収穫の時期である。一年の間で最も大切な時だといっても過言ではないからだ。それどころか、毎年、収穫の時期にはどの地方も人手が足りなくて困ってるほどだ。


 わざわざそんな時期に戦争を仕掛けられるのでは、たまったものではない。まして戦争を仕掛ける側に対する農民の反発はどれ程のものか?想像するだけでも身震いするというものである。収穫の時期を逃せば育ててきた作物はダメになってしまうのだ。


「そうだね。だから彼らは傭兵を雇っているという情報だよ」


 アルスは呆れたふたりの疑問に、事前に知らされた情報を共有した。


「確かにこの時期は徴兵がしにくいし、城兵も収穫のためにいつもより数が少ない。単なる嫌がらせならいいが、それにしちゃ金が掛かり過ぎてるな」


 フランツの指摘は的を得ている。兵役と農作業を兼任している限り、刈り入れ時期はどうしても男手が必要になる。しかも、今回は大規模攻勢の動きがあるとのことだ。


「フランツの言う通りだね。傭兵を雇って大規模な軍勢を整えるなんて経済的な旨味は全くない。勝つか負けるかもわからない戦争準備に大金を投じる余裕はルンデルだってないはずだ」


「それは、裏でルンデルを支援してる国があるってことですか?」


 それまで黙って聞いていたギュンターが尋ねる。


「国か、あるいは別の組織かわからないけど、少なくともそうした存在がルンデルの背後にいるのは間違いないと思う。この件は今回の戦闘が終わったら探ってみるとして。それより、今回の本題なんだけど」


 アルスが詳しい状況を説明していった。今回は北東部のルンデル国境沿いにあるフライゼン城を守備しているオットー・フォン・シュルツェ中将からの救援依頼が発端である。敵の数はおおよそ八千から一万という大規模な軍勢を整えつつあるとのことだった。


 攻め入って来るのは時間の問題で、すでにフリードリヒ第一王子とベルンハルト第二王子がそれぞれ軍を率いてすでに向かっている。ハインリッヒ第三王子は病に臥せっており、動けるのはアルス第四王子だけだった。アルスは三度の連戦を終えてきたばかりのため、出兵を見送りにされていた。


 しかし、ここで状況が一変する。ローレンツの南部国境を守る城は二つあり、西側の城はヘヴェデ、東側はヴェッセルンである。そのうち西側のヘヴェデ城から救援依頼が届いたのだ。


「ルンデルの最南端であるエルン城からヘヴェデ城に向けて敵兵の姿あり、その数二千救援を求む」とのことだった。


 ヘヴェデを守るのはフーゴ・フォン・フリック連隊長である。普段ならばヘヴェデ城に少なくとも千の兵が常駐しているのだが、この時期は毎年収穫のために一時的な帰郷を許している。しかも今年は豊作であるため通常より人手がかかるとのことであった。そのため城内には三百人の兵しかいない。兵を呼び戻すにしても通達を出してから各村に散らばった兵士を再招集かけるには時間が掛かる。


「・・・・・・と、いうわけで僕らに白羽の矢が立ったんだ。僕らの休暇はこれで吹っ飛んでしまったわけなんだけど、北と南の両側から攻めてきたとあってはそうも言ってられない」


 アルスは軽く溜め息をつく。ヘヴェテ周囲の状況も同じであるので、この場合近隣のヴェッセルンからの援軍も望めそうにもない。恐らく少ない手勢で、どうにかして自分の城を守るだけで精一杯といったところだろう。


「となると、我々だけの少数で南側を抑える必要があるということですか」


 ヴェルナーは厳しい表情で返した。


「そんなに悲観したもんでもないよ。僕の今の階級だと二百人を率いるのが限度だけど、今回は緊急事態だ。徴兵した兵を合わせて千人で出撃することになってる」


「徴兵か、民衆の批判が集まりそうだな」フランツが反応する。


「確かにね。批判なら僕らじゃなくて、こんな時に侵攻してくる敵にしてもらいたいけどね」アルスは苦笑するしかなかった。


「さて、もうひとつ話があるんだ。本題に入る前に・・・・・・」


 そう言って、アルスはそこに集まった仲間のひとりひとりの顔や目をしばらく見て、ゆっくりと話し始める。アルスはこの戦の前に、魔素の結晶化についての情報を仲間と共有しておきたかった。理由は様々であったが、仲間に死んで欲しくないというのが一番の理由である。これから話すことは誰にも話さず、秘密にしておいて欲しいと断ったうえで、幼い頃に発見した魔素の結晶化のことを話した。


 そして、懐から小さな革袋を取り出して中身を小さなテーブルの上にばら撒くと、ばらばらと小さな石が青い光を放ちながらテーブルに散らばった。その様子を見て、その場にいる誰もが息を飲む。


「これが僕たちの体内に流れている魔素を結晶化したものだよ、まだ小さいけどね」


「これが!?」


 全員が驚きの表情を隠せない。


「魔素の結晶化なんて聞いたことがない!こりゃあ、大発見ですぞ殿下!」


 ガルダが大声で叫んだ、瞬間全員に睨まれる。民間の壁が薄い宿屋なのだということをたぶんすっかり忘れているんだろう。


「シーーーーっ!」


「あ、いや、申し訳ない、つい・・・・・・」


 しぼんでいくガルダを横目にエルンストが青い結晶石についての使い方についてアルスに質問を投げかけた。もっともな質問に皆がアルスを見る。魔素を結晶化出来たとして、その使用方法や効果がわからなければただの光る石だ。


 アルスは頷く。そして「実際に試してもらったほうが早い」と言って、今度は小瓶を取り出した。取り出された小瓶はチャプチャプと中で何かの液体が揺れている音が聞こえる。アルスは質問したエルンストに、これを飲んでほしいと言って小瓶を差し出した。


挿絵(By みてみん)


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


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今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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― 新着の感想 ―
秘密にして欲しと前置きしているのに大声で内容をしゃべるような愚かなガルダは仲間から外す方がいいのではと思う。
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