重井さん 第八話「体育祭前半」
いよいよ体育祭へと入りました!!!!!
前半と後半に分けて投稿するのでもしかしたらもやもやするところで終わるかもしれません!
今日は体育祭当日。
「俊一忘れ物ない?体操服とかちゃんと入れた?お弁当持った?」
いつもはそんな事を言うはずがない母親だが高校生活初めての一大イベントとあってか念入りに忘れ物がないか聞いてくる。
「今日お母さんもお父さんも仕事で行けないけどちゃんと頑張るのよ」
今日は両親2人とも大事な会議があり、体育祭に行けないため少し残念な気持ちが残るなか家のドアを開け学校へと向かう。
「大丈夫だよ。それじゃ行ってくるね」
そういい家を出る。
「おはよ、俊一」
家を出るとすぐに聞き馴染みのある声が聞こえてきたので進む足を止め声のする方へ顔を向ける。
「綾香かおはよう」
小学校の頃から家が隣で成績は優秀だが少しおかしな部分がある上林綾香であり幼馴染だ。小学校の頃はよく一緒に遊んでいたが中学になるにつれ遊ぶ機会はなくなり喋る機会も徐々に減っていった。しかし高校では同じくクラスになりたまに一緒に登校する仲だ。
「今から学校に行くとこ?だったら一緒に行こうよ」
「そうだね、行こうか」
しばらく歩いていたら綾香がぱっと閃いたかのような顔をし喋ってきた。
「いやー、あの時はびっくりしたよ。なんだっけ?俺の最高の友人?みたいなこと言って重井さんと一緒の保健係にするんだから。あはは」
独特の笑い方であまり深く探らないで欲しい部分に触れてきた。
「べ、別にいいじゃないか。重井さんとは同じ部活だし知らない人と組まれるより俺の方がいいでしょ」
別に重井さんと一緒になりたいという気持ちはなく唯一喋る相手が俺なので重井さんと同じ保健係にしたが少し黒歴史を生んだかもしれない絶望感が残ってしまった。
「ふーん、ま、詳しくは探らないけど。そういえば俊一はなんの部活に入っているの?」
右手を顎に持ってきて首を傾げて疑問そうに聞いてくる。
「アニメ研究部っていう部活をしているよ。ま、俺と重井さんしかいないし顧問もほぼ居ないみたいなものだけどね」
一応顧問はいるが自分たちで勝手にやっといてと重井さんから伝えられたため一度も活動場所に顧問がやって来たことはない。
「そういう綾香はなんだ?」
そこまで知りたいとは思わないが折角だし聞いてきたので聞き返した。
「サッカー部のマネージャーだよ」
「おお、サッカー部のマネージャーか…え、サッカー部のマネージャー!?」
記憶では綾香は中学時代運動系の部活ではなく美術部に所属していた。高校に入って運動系の部活のマネージャーになるのは微かに疑問が生まれていた。
「なんでサッカー部のマネージャーになったんだ?美術部のままでよかった気がするが」
「ま、まぁ…いろいろあるわけですよ」
明らかに視線を逸らして喋っているため何かしら理由があることは考えずとも分かった。
しかしここで無理に深く探っても綾香を傷つけてしまうかも知れないためどう反応したらいいか困っていると遠くから俺を呼ぶ声が聞こえて振り向いた。
「おーい!俊一」
勢いよく走ってきたのか息を切らして俺の肩に手を乗せ少し休憩してきた。
「あ、辻崎君。朝から元気だね」
「まぁーな、たまたま俊一の姿を見かけたから走ってきたわ」
「朝からこんなに走って馬鹿じゃないの」
口調が変わり一瞬誰かと考えたがここにいるのは三人だけであり綾香とすぐに分かった。
「別にいいだろ今日朝練も無いし朝練よりかは体力温存できるわ」
「ふん、馬鹿らしい。先一人で行くからじゃあね」
そう喋ると小走りで先に学校へ行ってしまった。
「なぁ、俊一。俊一に対して上林っていつもこんな喋り方してるか?」
「いや、初めて見た。さっきまで普通だったのにいきなり変わって正直びっくりしてる」
「やっぱそうだよなぁ。俺上林に嫌われているのかな」
悲しそうにしている辻崎君の姿を見ながらもしかすると『綾香って辻崎君の事が好きなのか』と心の中で思っていた。学校に着いたら好きなのか嫌いなのかを確かめるため確認しようと決意した。
教室に入り荷物を置く綾香は一人で机に座っているため確認するなら今と思い話しかけようと綾香のところへ行こうとした瞬間に重井さんから声が掛かる。
「お、おはよう。渡辺君」
「ん?あ、おはよう重井さん」
「今日頑張ろうねそれで…」
「ごめん重井さんちょっと用事があるからまた後で」
重井さんが話しかけてくれたため本当は喋りたいけどチャンスが今しか無いため逃げるかのように綾香の元へ向かっていった。
「綾香。ちょっと付き合って」
「まぁ、いいけど」
綾香がそう答えると二人で一緒に教室を出た。しばらく歩き人気の少ない場所へ移動した。
「綾香。単刀直入に聞く。辻崎君の事が好きなのか?」
「な、なんでそんなこと聞くのよ」
いきなり過ぎたか驚いた表情をし、大きな声で言う。
「そ、そうよ!なんで分かったのよ」
手を後ろに組みもじもじした様子で言ってくる。この言葉を聞き俺の直感は外れてなかった事が確信した。
「てか、なんで分かったのよ!」
「それは、明らかに辻ザキくんの前では口調が変わっていたからな。正直なところ誰でも気付くと思うぞ」
辻崎君の事が好きなことがわかり、何故サッカー部のマネージャーをしているかも理解出来た。口調が変わるのも好きな人と上手く喋れないからだと思いつつ応援をするために案を考えた。三秒くらい無言の時間が続き案を考え出した。
「なるほどね。応援するよ」
「ほ、ほんと!だったら私のことどう思っているか聞いてみてほしい」
目を輝かせながら喜んでおりこの願いは叶えないと思いつつ一緒に教室へと戻った。
一方そのころ重井さんはというと。
『折角話しかけたのにすぐどっか行っちゃった。それにしても誰あの女』
幼馴染のことを知らないため同じクラスということは認識しているが知らないところで誤解が生まれていた。
「これより第37回雫高校体育祭を開始致します」
このアナウンスが流れいよいよ高校生活初のイベントである体育祭が始まった。校長先生の長い話などを終えそれぞれテントに戻る。
「重井さんいよいよ始まるね。お互い頑張ろ」
「うん」
重井さんに話しかけ一緒にテントへと戻る。俺が出場する種目は保健係なので最後にあると競争の一つだけである。テントに入りタオルなどの荷物を置き椅子に座る。
「俊一!そろそろ玉入れが始まるから移動するわ。お前も頑張れよ」
届かない位置だが拳でお互い挨拶した。
「重井さん。そろそろ行こうか」
そういい一緒に保健係のテントへと歩いて行った。
「それにしても体育祭苦手なんだよね。なんていうか疲れるし雰囲気が苦手なんだよね」
小学校、中学校の体育祭は毎年筋肉痛に悩まされる。しかし一番の問題は昔から過激な運動をすると酸欠で倒れてしまう事がある。体育祭に良い思い出がほぼないため体育祭は苦手になっていた。
「私も」
「重井さんも苦手?一緒だね」
「ううん。私は嫌いなの“苦手と嫌いは似ているけど全く違う意味なの”私は体育祭が嫌いなの」
小さい声で“嫌い“という言葉に気まずい雰囲気になっていた。なぜ嫌いなのかは聞かないが野菜に例えてみると野菜は苦手と嫌いでは全然意味合いが違う。重井さんは何かしらの過去があると感じていた。
「その…ごめん」
「ううん。渡辺君は何一つ悪くないよ。ただ私が重すぎるだけ。ごめんなさい」
「重井さんの事情は分からないけどこの体育祭で嫌いを克服しよ!」
「あ、ありがとう。頑張ってみる」
この体育祭で上林さんの気持ちを辻崎君に決めることと重井さんが体育祭を好きになれるように手助けするという仕事が増え始まって間もなく疲労が押し寄せていた。
「あ、玉入れ始まったね」
保健係専用のテントに座り辻崎君が出場する玉入れが始まったのである。クラスは二クラスしかなく今回俺たちは赤組であり何としても勝ちたいという気持ちが強まっていた。
「す、凄いね。辻崎君はほとんど玉が入っているね」
「流石運動部と言うしかないほど、ほとんど外していなかった」
『終了です』
空砲が校内全域に響き渡り玉入れが終わる。審査員が一つ一つ玉をだし数えていく。
『結果は白組七十三個。赤組は七十五個。よって赤組の勝利です!』
「よし!」
思わず叫んでしまうほどの接戦で勝利したため嬉しさが爆発していた。
「勝ったね。渡辺君」
「うん。幸先はいい感じ」
玉入れが終わり一時間くらい経った。これから始まるのは綾香が出る借り物競争だ。借り物競争は正直運も絡むため難しい種目とも言える。
空砲が響き渡り借り物競争が始まった。赤組白組と四人ずつするため綾香の番はまだかと待っていた。
次々と他の生徒が借り物競争をしていき、いよいよ綾香の番がやってきた。
『いよいよ借り物競争最後の番となりました。最後に相応しいようにお題を少し難しくしています。しかしポイントを二倍にしていますので一発逆転のチャンスとなっております』
よりによって綾香の番が難しいお題に変更されているため俺は少し冷や汗を搔いていた。
借り物競争開始の合図が鳴り、それぞれお題を取り、お題を探しに行く。
綾香のお題が何なのか気になって綾香のほうをじっと見つめていると明らかにこちらをじっと見つめている事だけはわかった。
『まさかな』
思わず声に出してしまうほど嫌な予感が漂っていた。その予感が的中しているかのようにこちらに向かって綾香は走ってきている。
気付かれない用に下を向いていた。少し時間が経過し、流石に気付かれていないだろうと思って顔を上げると綾香が笑顔で立っていた。
「みっけ。もう、探したよ俊一」
「ご、ごめん。それでここに来たってことはお題だよね、どんなお題なんだ?」
「そうそう、お題はね…『昔からの付き合いがある異性』っていうお題」
「だから小学校のころからよく遊んでいたからお題に沿っているでしょ?だから行こ」
そういい綾香は俺の手を握り早く行きたいのか急かしてくる。そんな中俺は冷静に心を落ち着かせ綾香の手を放した。
「え?」
「確かにお題は沿っている。しかし俺じゃなくもう一人いるだろ?綾香が本当に行きたい場所に行けばいいんだ」
そう、俺とは別に綾香が好きな辻崎君がいる。小学校の頃から三人で遊んだ仲であり、お題にも沿っている為俺じゃなく辻崎君の所に行くべきだと遠回りに説明した。
そういうと綾香は俺の腕を離した。
「ありがとう俊一。折角ここまで来たけどごめんね。行きたいところがあるからそっちに行くね」
笑顔でそう言い残すと走り出していった。
「頑張れよ。綾香応援しているぞ」
颯爽と駆け抜ける綾香の後姿はなぜか輝いて見えていた。