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95話、より楽しくおいしい食事を

「さてと、またハルに電話をしないと」


 現在、十二時を少し過ぎた所。この時間帯なら、ハルも昼休みに入っているだろうし、電話に出てくれるはず。

 ちょっとした期待を込めつつ、携帯電話を右耳に当てる。すると、ニコール目でコール音が途切れてくれた。よしよし、ちゃんと出てくれたわね。


「私、メリーさん。今、私が作った野菜炒めを食べようとしているの」


『確か、シンプルな野菜炒めだっけ? 野菜は何を入れたの?』


 わざわざシンプルと付け加えたという事は、私が入れた留守電を聞いてくれたみたいね。

 留守電も、欠かさず聞いてくれているんだ。それが分かっただけで、ちょっと嬉しいかも。


「えっと、もやしを一袋でしょ? 半分だけ余ってたニンジンに、タマネギ。あとは、ピーマンを一個と、キャベツの葉を三枚よ」


『おお、ザ・野菜炒めなメンツじゃん。でも、量は控え気味だね。それで足りるの?』


「合計金額を百五十円以下に設定して作ったら、こんな感じになったのよ。ご飯とお味噌汁もあるし、量はちょうどいいと思うわ」


『へぇ~、そんな設定を設けたんだ。やるねぇ、すごいじゃん』


 意外と高評価ね。褒められると思っていなかったから、逆に驚いてしまった。でも、ハルに褒められるのは悪くない。素直に嬉しいわ。


「でしょ? 金額も、百四十円ぐらいに抑えられたわ」


『そうだね、大体そのぐらいだと思うよ。味付けは、どんな感じにしたの?』


「ちゃんと量を計った料理酒、醤油とソース、鶏ガラスープの素を混ぜたやつと~。仕上げに塩コショウと、ニンニクパウダーを二、三振りぐらい入れたわ」


『おお~、調味料を掛け合わせたんだ。やべ、めっちゃ美味そうじゃん。聞いてたら、野菜炒めが食べたくなってきたや』


 どうやら、ハルも野菜炒めの気分になってきたらしい。いいわね、こういうの。たとえ離れていても、同じ料理を食べるって。


「なら、そうしなさいよ。そういう気分の時に食べる料理が、一番おいしく感じるからね」


『だね、その通りだ。んじゃ、私も野菜炒めを食べよっと。それじゃあ、また夕方ね』


「ええ、バイバイ」


 会話に区切りが付き、通話が切れた携帯電話をポケットにしまい込んだ。やっぱり、留守電サービスセンターに託すより、ハルと直接話した方が、ずっと楽しいわね。

 なんていったって、食べる前に作った料理を評価してもらえるんだもの。作った甲斐があるってもんだし、よりおいしく食べられるわ。


「さてと、私も食べようかしらね。いただきます」


 ハルのお陰で躍ってきた心を感じつつ、食事の挨拶を済ませ。左手にご飯を盛ったお椀、右手に箸を持つ。

 本当であれば、各野菜を一つずつ味わっていきたい所だけれども。ここは一気に掴んでしまい、頬張って食べていく事に専念してしまおう。


「う~んっ、シャキシャキ感がたまらないわ~っ!」


 油と調味料が満遍なく絡み、やや照りが強いキャベツ、もやし、ニンジン、ピーマンを箸で掴み、口の中へ運んでいけば。

 まず先行したのは、香ばしくもフルーティーで、なんとも食欲を刺激する、ほのかな酸味を含んだソースの風味。これまた、ご飯と合う味をしているわね。


 各野菜も喧嘩するどころか、お互いに譲り合いながら出てきている。細くも確かな食感がある、もやしのみずみずしいシャキシャキ感。

 葉と芯の部分で異なった食感を兼ね揃え、ソースのコクを深くする甘味と、何物にも染まらないキリッとした甘さを持ったキャベツ。葉と芯の部分って、これだけ甘さが違うんだ。

 ニンジンは、ちょっと火を通し過ぎちゃったかもしれないわね。ホクホクとしていて柔らかく、ソースに負けない濃厚で優しい甘さを強く感じる。

 しかし、ピーマンも良い味を出しているじゃない。後から入れたので食感は一番固く、全ての甘さをキュッと引き締めるほろ苦さが、じゅわりと湧き出してくる。


 このピーマンが、またいい塩梅ね。箸休めに持ってこいだわ。そして、そのほろ苦さを打ち消したいのであれば、口に入れればホロッととろけていく、飴色をしたタマネギを食べればいい。

 このタマネギが、特に甘さが際立つのよ。一旦は、纏ったソースの風味を感じるものの。いざ噛んでしまえば、タマネギに含まれた甘さの独壇場と化す。

 けれども、噛み進めていけば、各調味料と上手く混ざり合っていき、ご飯が欲しくなる風味に落ち着いていく。塩コショウとニンニクパウダーは、あまり顔を覗かせてこないわね。

 全体的にソースの風味ばかり感じるから、もう少し量を増やしてよかったかも? 決して薄味ではないけど、一貫してソースだけしか出てこないのは、やや物足りない印象を受けるわ。


「でも、ご飯はちゃんと進むのよね」


 野菜炒め一口に対し、ご飯も同じ量をいける。なので、失敗じゃない。ハルの評価を加味しても、大成功だと胸を張って言える。

 ……あ、そういえば、味見をしていなかったわね。たぶん、それが唯一の失敗なのかもしれない。今度は、ちゃんと完成間近に味見をして、調味料で全体の味を整えていかないと。


「う~ん。理想の料理を作るのって、案外難しいわね」


 だからこそ、料理を作るのが面白い。次こそは、頭の中で描いた料理を、ちゃんと作ってみせようじゃないの。私は絶対に諦めないわよ!

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