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8話、希望を見出してしまった人間

「和風の味付けで、味が染みた大根ねぇ」


 パッと思い付いたのが、和風出汁を使った煮物や切り干し大根。ぶり大根と、おでんぐらい。『味が染みた』というのと、『和風の味付け』っていう縛りがちょっと邪魔だな。

 それさえ無ければ、チーズやガーリックを使用した大根ステーキや、大根の田楽。大根のきんぴら、大根サラダなど、少しだけ幅が広がったものの。

 そもそもの話。大根をメインで使うとなると、意外と思い付かないんだよね。ネットで調べてみても、同じ様な料理ばかり出てくる。大体が煮物だ。


「まあ、煮物でリクエストの条件は満たせるとしてだ。他の具材は、どうするか……」


 煮物と言えば、ニンジン、たけのこ、玉ねぎ、さつま揚げ、レンコン、里芋、ごぼう。

 角煮風にするのであれば、豚ブロック肉や牛肉。けど、私が好きな組み合わせにするならば───。


「手羽元か、手羽先かな?」


 昼から仕込むと、大根の芯まで味が染み渡り。手羽元や手羽先は、ホロホロと崩れるように柔らかくなる。割と簡単に作れるから、私もまあまあな頻度で食べているんだよね。


「よし、皿洗い終了っと」


 メリーさんってば。ご丁寧に肉汁やケチャップを、全部キャベツに浸して食べてくれたもんだから、皿がやたらと綺麗だった。お陰様で皿洗いが楽に済んだ。

 それに今回も、米粒は一粒も無し。味噌汁は三杯おかわりされたので、ストックが尽きてしまった。

 くすぐり地獄を回避する為に、明日また作っておかないと。水回りを拭いて、濡れた両手をタオルで拭き取ってっと。


「毎回同じ物だと、その内飽きられるだろうし。明日は赤味噌を使ってみるか」


 どうせだ。具も変えてみて、メリーさんが食べられる食材と、そうでない食材を調べてしまおう。

 感想を求めればちゃんと言ってくれるだろうし、一回ぐらいなら許されるでしょう。


「さてさて。みかんゼリーの具合はどうかなー」


 小さなスプーンを片手に、冷蔵庫を開ける。ラップで包んだ透明の皿を取り出し、ラップを外して表面をスプーンで叩き、固さを確かめてみた。


「よーし、ちゃんと固まってるな」


 ゼラチンとサイダー、みかんの缶詰に入っているシロップに砂糖を少々加えた、ちょっと甘めのみかんゼリーだ。

 ネットのレシピを参考にして、初めて作ってみたけど、なかなか良い感じに作れたようだね。さて、肝心の味は……。


「うーん。炭酸のシュワシュワ感が残ってるし、甘さもちょうど良い。二、三百円でかなりの量が作れるし、しばらく常備してみようかな」


 程よく弾ける炭酸の刺激。砂糖を加えたので、甘くなり過ぎると思っていたけれども。シロップの甘さが控えめだったから、入れて正解だったようだ。

 そして、そのシロップに浸されていたみかんよ。皮が取り除かれているから、プチプチ感が増していて食感が楽しいや。みかん元々の濃い甘さも、炭酸ゼリーと非常に合う。


「明日、メリーさんにも食べさせてみようっと」


 流石に、食後のデザートはゲーム対象外でしょう。みかんを様々なフルーツに変えて、ちょくちょく出してみるか。


「そういえば。リクエストの内容が、だんだん具体的になってきたな」


 昨日は『肉をふんだんに使った料理』。今日は『味が染みた大根』。まさか、食材や味付けまで指定してくれるとは。

 ゲームを提案した時は、毎回必死になって料理を考えていかなければならないと思っていたのに。メリーさんから食べたい物を分かりやすく教えてくれるのは、すごくありがたい。

 リクエストを出すという事は、その料理を食べたいという欲が含まれているはずだ。

 その証拠に、リクエスト通りの料理を出すと、今の所メリーさんは、決まって『おいしい』と言ってくれている。


「けど、唐揚げほどじゃなかったな」


 味噌汁の時もそうだったけど。唐揚げの時は、特に美味しがっていた気がする。

 本当に美味しい物を食べた時の笑顔だった。やはり、初めて食べた料理だったからかな?


「……確か、メリーさん。唐揚げを出せば、無条件で私の勝ちにしてくれるとか言ってたっけ」


 もしや、唐揚げを相当気に入っているのでは? でなければ、わざわざあんな事を言う必要も無いし。たぶん、この考えは合っているだろう。

 ならば、定期的に出すのもありだな。ご機嫌を損ねている時とか、何を作るか迷っている時とかね。───だとすれば!


「もしかすると……。明後日に開店する、私が目を付けてたラーメン屋に行けるのでは?」


 確実ではないが、可能性は十分ある。唐揚げを出す条件として、料理の画像を見せつつ、その料理の魅力や美味しさを説きまくり、メリーさんをその気にさせれば行けるかもしれない。


「よし、希望が見えてきたぞ!」


 希望が見えてきてしまったからには、もうこの欲は抑え切れない。現状、生き残り続ける事よりも、いかにしてラーメンを食べるかが大事だ。ラーメンを食べる為には、この命、天秤に掛けても構わない!

 こうしちゃいられない。可能性を確実に変えるべく、準備をせねば。待っていろよ、ラーメン屋。メリーさんと一緒に、必ず行ってやるからな!

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