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81話、お寝ぼけさんが招いた大惨事

「わたひぃ、メリーしゃん……。今ぁ、ウニぃ……」


「ははっ、夢の中でウニを食べてるや」


 メリーさんたら、だらしない寝顔をしちゃって。口元は完全に緩み切っているし、なんならヨダレまで垂らしている。口がモゴモゴし出したから、たぶん生ウニを頬張ったな。


「しっかし。まさかメリーさんが、私の為におでんを買ってきてくれるとはなぁ」


 しかも、コツコツ貯めた大切なお駄賃で。あれ、事前に計画を立てていたのかな? それとも、外が肌寒かったらしいから、買い物中に思い付いたとか?

 どちらにせよ、私を想ってくれていなければ、辿り着かない発想だ。私利私欲の目的で、購入した線もあるけど。これは完全な邪推だし、予想するのはやめておこう。

 購入してきたおでんは、大根、はんぺん、たまご、牛すじ。この組み合わせと量が、三時のおやつとして食べるには、最高に丁度よかった。

 決して軽くもなく、はたまた重くもなく。全員主役級だっていうのに、裏ボスとも言える牛すじがあったお陰で、満足度が非常に高かった。百点満点中百点の組み合わせだったね。


「あのおでん、確か商店街で売ってるおでんだったかな?」


 各おでんの値段は、うろ覚えなので正確な合計金額は出せないけども。五百円を渡したとして、それなりのおつりが返ってくるはず。

 だけど、メリーさんにとっては、五百円でも大金だ。単純計算で、買い物へ行った際に渡すお駄賃五回分。

 でも今は、部屋と浴槽の掃除、洗濯物干しまでしてくれているから、その都度、百円玉を渡している。

 ならば、二、三日もあれば稼げる額か。いや。それらを踏まえた上でも、やはり五百円は大金だな。そんな大金を出してまで、メリーさんは私におでんを買ってきてくれた。


 これって、多少なりとも私に好意を寄せていないと、普通は一緒に食べようって誘ってくれないよね?

 ましてや、わざわざ肌寒い日を選び、その日に合うおでんをチョイスしてくれた訳だし……。


「関係は、私が思ってるより良好なのかも?」


 しかし、そう簡単に結論付けられる内容じゃない。一歩間違えれば、取り返しがつかない事態にまで発展してしまう。鉄橋を削岩機で掘削する勢いで、慎重に渡らねば。

 よし。私とメリーさんの関係について考えるのは、一旦止めにしておこう。本人に聞かない限り、答えが分からないからね。

 あとは、そうだな。メリーさんにお礼をしておかないと。お返しは何がいいかな? 食べ物を貰った事だし、私も食べ物で返すべきか。


「食べ物、ねぇ」


 メリーさんの一番好きな料理は、私が作った味噌汁。時点で唐揚げ。唐揚げは週一に出しているので、除外するとしてだ。当然、味噌汁も然り。

 どうせなら、私も外で何かを買ってくるか? いや、それじゃ味気ないな。ここは、メリーさんと一緒に出掛けるなんてどうだろう。

 明日も雨が降っているけど、店内で食べてしまえばいい。問題は、どこで何を食べるかだ。久々に外食をするのであれば、色んな物を沢山食べたいな。

 梅雨の時期でも雨に打たれず、かつ色んな物を沢山食べられる場所っていったら……。


「あそこしかないよな」


 あそこなら、ここから徒歩で二十分弱圏内。電車とバスでの移動も無し。更に、一日で巡り切れるか怪しい量の店舗がある。

 決めた! 明日は、スーパー食べ歩きデーにしてしまおう。色んな物をめちゃくちゃ沢山食べたいから、仕掛けるなら朝からだ。

 所持金が無くなっても、ATMでお金を下ろしてしまえばいい。ヤバい、超楽しみになってきた。そろそろ寝ないといけないのに、テンションが上がって目が冴え───。


「う~ん……」


 おっと、メリーさんが起きたっぽいな。寝たふりしないと。急いで目を閉じ、出来立ての闇を見ている中。『ガサゴソ』と、布団を動かしているような音が、鳴り出したかと思えば。

 小さな足音が頭上を通過して、遠ざかっていく。何かを開閉した音が聞こえてきた後、水を注いでいるような音もした。たぶん冷蔵庫を開けて、飲み物を取り出し、コップに注いだな。


「ぷはぁっ」


 メリーさんが何かを飲み干し、今度は水が流れる音がしてきたから、台所でコップを洗っているのかな? 偉いじゃん。


「ふあぁ~っ……」


 で、あくび混ざりの足音が近づいてきて、ものすごく近くで止まり。私の掛け布団を捲り───。


「……え?」


 掛け布団は、ちゃんと元の位置に戻ったものの。右半身から、何かに抱きしめられたような感触がしたんだけど?

 もしかして、メリーさん。私の布団の中に、潜り込んできたご様子で?

 嘘でしょ? 一体、何が目的で私の布団に? んでもって、なんで私の体を抱きしめているの? まさか、とうとう私を殺るおつもり……。


「わたひぃ、メリーしゃん……。今ぁ、カニぃ……」


 今のふぬけ切った声は、寝言? この状況で寝言を言ったって事は、つまり……。


「……マジっスか? 普通に爆睡してんじゃん」


 恐る恐る目を開き、ゆっくり掛け布団を捲ってみれば。なんともおだやかな寝顔をしていて、その顔を私の体にうずめながら寝ているメリーさんが居た。

 寝ぼけていたせいで、入る布団を間違えたのかな? それしてもだよ? なんで、私の体をガッチリ抱きしめているのさ? 動くどころか、寝返りすら打てないんですけど?


「め、メリーさん? 入る布団、間違えてまっせ?」


 メリーさんを起こすべく、体を軽く揺すってみるも。肝心のご本人は、ゆるゆるなニヤケ面になっていくばかり。


「へへっ。このずわぃガニのぽぉしょん……、ずいぶん活きがいいわねぇ……。カニのぽぉしょんの踊り食いにゃんて、わたひ初めてぇ……」


「ま、まったく起きてくれないじゃん……」


「はりゅ……。このカニのぽぉしょん、鍋より大きいからぁ、お風呂でしゃぶしゃぶひまひょ……」


「汚いから、やめた方がいいですぜ? それ……」


 起きる気配を見せてくれないメリーさんは、夢の中で絶賛カニしゃぶ中。更には、私の体を不用心に頬ずりまでする始末。

 どうする? この未曾有を極めた状況。起こせば起こしたで、また面倒臭い事態になりそうだし。私も、このまま寝てしまうか?


「果たして、寝れるのだろうか……」


 諦めが付いたのか、心は妙に落ち着いている。体はメリーさんが抱きしめているので、めっちゃ温かい。ていうか、メリーさんって体温があるんだ。初めて知った。

 そういえば、メリーさんに触れるのって、これが初めてなるな。ちゃんと体温がある事も分かってしまったし、マジで人間にしか見えないや。


「まあ、いいや。メリーさんが先に起きてくれる事を願って、おやすみー」


 ちょっと恥ずかしい状況だけど。普通に寝ているのであれば、私に害は及ばないでしょう。楽しみだな、メリーさんが起きた時の反応がね。

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