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7話、ガツンと来る衝撃

「私、メリーさん。今、……ほぉっ」


『どう、出来立ての味噌汁は? 美味しい?』


「まあ、妥協点って所ね」


 これよ、これ。春茜はるあかねが作った、このお味噌汁! 昨日飲めなかったから、余計においしく感じるわ。

 シャキシャキ感が残った長ネギ。プルプルとしていて柔らかく、お味噌汁と合う甘さがたまらない豆腐。

 そして、私の心身を優しい暖かさで満たしてくれる、和風出汁香る最高のお味噌汁。

 これを飲んで初めて、私に夕方六時が来た事を教えてくれる。もう、このお味噌汁無しの生活なんて、絶対にありえない。朝昼晩、毎日飲みたいなぁ。


「はぁ~っ、さいっこう〜……。で、今日の夕食は、からあげかしら?」


『なに? 唐揚げが食べたいの?』


「そこまでじゃないけど。もしからあげを出したら、無条件であんたの勝ちにしてあげるわよ」


『マジかっ。約束された勝利の唐揚げって、もはやチートじゃん』


 よしよし。何の違和感も与えずに、私がからあげを食べたい事を伝えられた。本当であれば、からあげも毎日食べたいのよね。

 パリパリとした食感の皮に、歯を押し返すほどの弾力がある鶏肉。思いっ切り齧ると、ジューシーな油が弾けるように湧き出してくる。そして何よりも好きなのが、ご飯にとても合う絶妙な味付け。

 思い出しただけで、頬が勝手に緩んでくる。今度は、いつ出るんだろう? 待ち遠しいったら、ありゃしないわ。


「お待たせー」


 いつの間にか電話を切っていた春茜が、両手に四角いお盆を携えながら部屋に入ってきた。

 その『カチャカチャ』と音を立たせているお盆を、私の前に置いたので、背筋を伸ばして覗いてみる。

 どうやら音を出していた正体は、ナイフとフォークのようね。山盛りのご飯に、お味噌汁のおかわり。一際大きなお皿にある、赤いソースがかかった、焦げ目がおいしそうな大判の丸いお肉。


「へぇ、ハンバーグじゃない」


「肉をふんだんに使った料理っていう、リクエストを貰ったからね。とにかく大きめに作ってみたんだ」


 酸味の利いた香りがするけど、これはケチャップの匂いかしら? ケチャップ自体は、まだ食べた事がないけれども。確か料理本には、トマトの酸味を活かした物だと書いてあったはず。

 しかし、本当に大きいわね、このハンバーグ。どの料理本に載っていた物よりも、ずっと大きい。これは、食べ応えがありそうだ。

 ハンバーグのそばには、マヨネーズがかかった千切りのキャベツが大量にある。油の味がしつこくなってきたら、箸休めとして食べていこう。


「それじゃあ、ゲーム開始といきましょうか」


「おお、なんだかそれっぽいね。んじゃ、いただきますっと」


 春茜が何かを言っている間に、左手にフォーク、右手にナイフを持つ。人間の恐怖を煽る時に、包丁を何度か持った事があるものの。料理に対して使うのは、これが初めてになる。

 使い方は、切りたい物に刃の部分を当てて、上下に引いていく……、だったわよね? 春茜に質問すると、また恥を晒しかねないので、聞くのはやめておこう。

 ハンバーグの上部分にナイフを当てて、ゆっくり上下に引いていく。すると、使い方は合っていたようで、すんなりと切れていった。かなり分厚いのに、すごく柔らかい。


 切り終えると、ハンバーグの粗い断面から透明な液体が滲み出てきた。これは肉汁ってやつね。中でギュウギュウ詰めになっていたのか、まだ止まらない。

 肉汁が止まるまで見ていると、せっかくのハンバーグが冷めてしまうかもしれないので。切った部分を更に一口大に切り、フォークで刺してっと。


「んんっ」


 想像していたよりも、ケチャップの酸味が強い。ちょっと身震いしてしまうような酸味だけど、薄っすらとトマトの甘みを感じてきた。これも、ご飯に合いそうだ。

 肝心なハンバーグの方は、かなり分厚いのに、とにかく柔らかい! あんなに肉汁が出てきていたというのに、噛む度にまだ溢れてくる。

 更に何よりもすごいのが、ガツンと来る肉肉しい味の衝撃。食欲を直に殴ってくる濃厚なジューシーさが、口の中を瞬く間に満たしていく。

 ちょっとこってりしてきたけど、先に感じたケチャップが肉汁と程よく絡み合っていき、重い口当たりが和らいでいった。


「どう、ハンバーグの味は?」


「一口目だというのに、満足度がかなり高いわ。おいしい」


「よしよし。リクエストには、ちゃんと応えられたようだね。私も嬉しいよ」


 緩い笑みを浮かべた春茜が、大きめのハンバーグを頬張り、「う~ん、美味い!」と唸った。もう一切れを口に入れてから、ご飯を食べてみたけど。うん、ちゃんと合う。

 キャベツやお味噌汁も、そう。ケチャップだけでは誤魔化し切れなかったこってり感を、綺麗サッパリに消してくれた。良い組み合わせね、これ。


「……あら? 肉汁に浸ったキャベツが、しんなりしちゃってる」


「それ! 肉汁や味が染みたキャベツが、またたまらないんだよねー」


「ふーん、そう」


 何も掛かっていないキャベツは、フォークで持ち上げても固いままなのに対し。肉汁に浸っていたキャベツは半透明になっていて、フォークで持ち上げると紙のようにしなってしまった。

 味は、肉汁をたっぷり吸っているから、ほとんどその味しかしない。シャキシャキした食感も失っている。とても柔らかくなっていて、少しの力で噛み切れるわね。


「へえ、味や食感がここまで変わっちゃうんだ。面白いわね。あ、このキャベツもご飯と合う」


「そうそう。味が染みたキャベツやレタスが食べたくて、あえて最後の方まで残しておいちゃうんだよね」


 味が染みたキャベツやレタス、か。そういえば、そんな料理がいくつかあったわね。不意に思い出したせいで、だんだん食べたくなってきちゃった。

 これも色んな料理があったけど、ちょっと気になっている食材がある。『おでん』や、私の大好きな『お味噌汁』にも使われている食材だ。


「春茜。次のリクエストをいいかしら?」


「おっ、またしてくれるんだ。全然構わないよ」


「味が染みた“大根”を食べてみたいわ」


 リクエストを出した途端、春茜が「大根っ」と驚いた様子の声を漏らした。目をまん丸にさせているけど、何? その意外っていう反応は?


「味付けは、どれがいいとかある?」


「そうね。和風がいいわ」


「和風ね。他に具材が入ってても大丈夫?」


「ええ、いいわよ」


 わざわざ味付けを聞いてきたって事は、色んな味付けがあるのかしら? 確か、料理の種類は、和食、洋食、中華以外にも、まだまだ沢山あったはず。

 けど、洋食と中華自体、ほとんど覚えていないのよね。なら明日は、そこら辺を重点的に学んでいこう。

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