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68話、いざ、実食!

「私、メリーさん。今、私が作った『サッポロ皆伝、味噌味』を食べようとしているの」


 本当なら、ハルに直接言いたかったのだけれども。相変わらず出てくれなかったので、三回目の電話も留守電サービスセンターに託してっと。


「ああ~、何度も見てもおいしそうだわぁ~」


 自分で作った事もあり、とんでもなくおいしそうに見える。それに、なんだか愛着まで湧いてきているのよね。食べるのがだんだん勿体なくなってきちゃった。

 しかし、このまま眺めていても麺が伸びてしまうから、早く食べてあげないと。


「いただきます!」


 いつもより声が張った挨拶を言い、右手に箸を持ち、まだバターが溶け込んでいない部分の麺をすくう。この麺、『サッポロ皆伝、醤油味』と形が違うわね。

 醬油味の方は、四角い形をしていたのに対し。味噌味の方は、滑らかな楕円の形をしている。複雑に描いたウェーブもそう。こっちの方が、気持ち強めに描いているかも。


「う~ん、これぞ味噌って味だわっ」


 味噌の香り豊かな湯気を浴びつつ、麺をすすってみれば。赤味噌寄りのコク深い風味をダイレクトに感じ、瞬く間に口を満たしていった。

 キリッとしたスパイスも利いているから、食欲も爆発的に増進されていく。麺の食感は、コシがあるけどもっちりしているわね。このもっちり具合が、絡め取ったスープと良く合う。


「それじゃあ、バターが溶けた部分のスープをっと」


 やや黄色がかった透明な油が浮いた部分を、レンゲでかき混ぜて、スープと馴染ませてっと。


「あっ、すごい。バターと味噌、ものすごく合うわね」


 バターが馴染んだ事により、スープのコクと旨味が格段に上がった。それに、全体がより丸みを帯びた事によって、味噌自体の風味がまろやかになっている。

 そして、お味噌汁よりもご飯に合いそうな欲深い味に昇華しているわ。やはり、私の予想は当たっていたわね。昨日ハルにお願いして、おにぎりを作ってもらっておいて正解だった。


「ハルったら、大きく作り過ぎよ。最高じゃない」


 片や、お米の水分を吸い切って、海苔がのっぺりとしているおにぎり。

 片や、ラップを一枚挟んでいるお陰で、パリパリが健在な海苔のおにぎり。海苔とおにぎりを別々に分けるって、頭が良いわね。

 どちらのおにぎりも、私が握った拳よりひと回り大きい。ラーメンより食べ応えがありそう。スープの配分を考えながら食べないと、足りなくなっちゃいそうだ。


「んっふ~っ! おにぎりと味噌ラーメンのスープ、ものすごく合うっ!」


 時間が経ち、おにぎりに浸透し切って塩味が薄くなったおにぎりと、バターや味噌の異なる二つの塩味がプラスされたスープが、本当に合う!

 スープ自体の味が濃いから、スープ一口でおにぎりを二口イケる。……まずい。先に麺を完食して、スープの中におにぎりを入れたくなってきた。

 ああ、駄目だ。醬油ラーメンの時に食べ損ねたから、もうこの欲求には抗えそうにない。

 よし、決めた。二つ目のおにぎりでやってしまおう。パリパリの海苔は、スープに浮かべてしまえばいい───。


「あっ。このおにぎり、梅干しが入って……、んんっ!? すっぱぁ~い……!」


 思わず口をすぼめたくなるような、全ての風味を吹き飛ばす、強烈に尖った酸味と塩味よ。けど、なかなかどうして悪くない。甘いご飯が酸味と塩味を気持ち和らげてくれるので、噛めば噛むほどご飯と合う味になっていく。

 おまけに、食欲の天井まで底上げしてくれたから、梅干しだけでおにぎりをペロリと食べられてしまいそうだ。

 いや、間違いなく食べられる。更に、おにぎり二つだけでは、足らないと感じてしまうかもしれない。

 それ程までに、梅干しとおにぎりが合うのよ。これは、もはや一種の完成された料理だわ。その料理を、スープの中に入れるのは、少し違う気がするわね。


「……ふう、仕方ない。スープにご飯を入れるのは、またの機会しておこう」


 そう、また次がある。私はもう、一人でインスタントラーメンを作れるんだ。なので、いつでも試す事が出来る。だから今は、あるがままの味を楽しんでいこう。


「そうだ。すっかり忘れてたけど、もやしとコーンも食べてみないと」


 もやしは、薄っすらとスープの色が移っているけども。三分しか茹でていないので、もやし本来のシャキシャキ感がちゃんと残っている。これよこれ、これがやりたかったのよ。

 歯応えを感じるという事は、火を通し過ぎていない証になる。だから、もし野菜炒めを作る時は、三分前後を目安にして炒めればいいかも?

 けれども、キャベツの芯辺りやピーマンって、火が通りにくかったはず。これは、インターネットで調べる必要がありそうだ。


 コーンは、外側の薄皮は固く、中は柔らかい。この二つの食感が上手く嚙み合うと、シャキッとした気持ちのいい歯応えになる。

 一粒一粒が小さいっていうのに、すごく甘い。特に味付けされた様子もないし、これ、コーンだけの甘さだっていうの? 味噌の風味にだって負けていないわよ?

 少し多めに盛り付けたら、トマト、レタス、きゅうりやニンジンを押しのけて、主役にだってなれそうね。そう思えてしまうほど、甘さが強くて濃厚だ。


「……ぷはぁっ! ふぅ~っ、おいひかったぁ」


 お味噌汁感覚で飲めてしまうから、スープまで飲み干しちゃった。もう一度、長くて温かいため息を吐いて、天井を仰ぐ。

 この、どこまでも落ちていきそうな深い余韻。なんとなく、お風呂に入っている時に似ているかも。満足度が高くて、とても心地が良くて、ずっと味わっていたい最高の余韻だ。

 このまま寝てしまったら、ぐっすり眠れてしまいそう。けど、寝ちゃダメよ。この後、食器類の片付けと洗い物が待っているのだから。


「……まあ、少しぐらいゆっくりしてても、いいわよね?」


 初めて作った料理は、文句無しの大成功。花丸を三つぐらい付けてあげたい。……私も、料理を作れるようになれたんだ。嬉しいなぁ。

 この調子でいけば、お味噌汁を完璧に作れる日は、そう遠くないかもしれない。そうだ! ハルに、食べ終わった事を報告しておかないと。

 本人が出て欲しいと願いながら、携帯電話を取り出して、耳に当てる。が、その願いは叶わず。待っていたのは、四度目の留守電サービスセンターだった。仕方ない。ハルが帰って来たら、思う存分語ろう。


「私、メリーさん。今、私が作った最高においしい『サッポロ皆伝、味噌味』を食べ終わったの」

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