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20話、出前を頼もう

「私、メリーさん。今、お腹がすいているの」


「八杯分あった味噌汁を、全部飲み干した人が言うセリフ? それ。しかも私、メリーさんの目の前に居るんだけど。なんで、わざわざ電話なんかを?」


「一日に何回かやっておかないと、なんだか落ち着かないのよ」


「な、なるほど。メリーさんが故の、性みたいなもんなんだね」


 というよりも、定位置に座っていると、なんだか電話をしたくて疼いてくるのよ。最早、癖になりつつあるのかもしれない。

 しかも、このタイミングでしておかなければ、私が電話をする機会なんて皆無になってしまう。なんだか人間を狩っていた時期が、懐かしい思い出みたいに蘇ってくるわ。


「それじゃあ、そろそろピザの出前を頼みますかい?」


「そうね。ハル、私にもメニュー表を見せてちょうだい」


「はいはーい」


 ハルが本題を切り出すと、耳に当てていたスマホをいじり出し、少ししてからテーブルの中央に置いた。


「今日出前を頼むのは、『ピザハート』っていうピザ屋だよ。今から頼めば、三、四十分ぐらいで来てくれるみたいだね」


「あら、結構早いのね。ちなみに、どういうピザを頼むつもりなの?」


「四種類のピザを組み合わせる事が可能な、『クワトロ』にしようと思ってるんだ。そうすれば、私とメリーさんで、二種類ずつのピザが選べるようになるよ」


「クワトロっ」


 そういえばピザの種類って、『ハーフ』、『トリプル』、『クワトロ』を選べるんだっけ。ハルの部屋へ来る前に、ちょっと本を読んできたのだけど、ようやくこの意味が分かったのよね。

 『ハーフ』は、二種類のピザを。『トリプル』は、三種類のピザを。『クワトロ』は、なんと四種類のピザを合体させる事が出来るらしい。

 四種類にもなると、組み合わせは正に無限大。まるで夢のようなピザになる訳だ。だったら、ハルと種類が被るのだけは避けたい。ここは、慎重に選んで情報を共有していかないと。


「あれ? ちょっと待って、ハル。サイドメニューもあるわよ」


「うわぁ~、美味しそうな骨付きチキンがあるじゃないの。ナゲットやポテトフライもあるし……。おっ、グラタンもあるや」


「他にもサラダに、デザートまであるわね。飲み物は……、コーラ?」


 この中身が黒味がかった『コーラ』っていう飲み物、CMでよく見る飲み物だ。シュワシュワとした炭酸が、ウリと言っていたはず。


「ふっふっふっ。見つけてしまいましたか、メリーさん」


「ん?」


 思わせ振りな発言をしたせいで、ふと視界をハルの方へ持っていっちゃったけど。

 なに、あいつ? なんだか、凄みを宿したオーラみたいな物を纏っていて、怪しい眼光で私を見つめてきている。


「その、コーラという飲み物。ピザとめちゃくちゃ合うんスよぉ」


「これが?」


「そう。喉を刺すような強烈な炭酸と、油との相性が抜群の甘味がね~。もうっ、さいっこうなんだ! メリーさんも、病みつきになっちゃうよ?」


「そ、そんなに?」


 あのハルが、あそこまで豪語しているのなら、間違いなく合うのだろうけど。まだ両方とも口にしていないから、味の想像がつかないわね。


「そこまで言うなら、私も一本飲んでみようかしら」


「了解! コーラ三本入りまーす!」


 嬉々と高らかに宣言したハルが、コーラを選択してカゴという物に入れた。


「で、肝心のピザはどうする?」


「そうね~……。ラーメン同様、目移りしちゃうや」


 昨日、流し見でメニュー表を確認したけれども。やっぱり、膨大な種類がある。そして、どれも未経験の物ばかりだから、何がおいしいのかまったく分からない。

 なんとか分かるのは、ガーリックやトマト。ポテトと表記されているけど、これはじゃがいもね。肉類も、なんとなく味が分かるかも。けど、それだけだ。その四種類程度しか分からない。


「ハルは、どのピザを頼むの?」


「私はね、もう一個決めてるんだ」


「へえ。ちなみにどれ?」


「この、エビが沢山乗ったシュリンプピザさ。プリプリしてそうな身が、美味しそうだと思わない?」


 ハルが指を差したのは、三日月のような形をしたエビが、これでもかっていうぐらいに敷き詰められているピザ。エビは、まだ食べた事がない食材だ。ちょっと気になるかも。


「確かに、おいしそうね」


「でしょ? メリーさんは、もう決めた?」


「う~ん、そうね……。とにかくチーズを食べてみたいから、一つは四種のチーズピザにしようかしら?」


「おお、いいね。ねえ、メリーさん。メリーさんが選んだピザ、私にもちょうだいよ」


「いいけど、ハルが選んだピザもちょうだいね」


「いいよ、喜んであげるさ」


 よしよし。これで、ハルが選んだピザも食べられるようになった。ならば私は、エビのピザを選ばないようにしないと。


「ガーリックトマト、バーベキュー、プルコギにビーフカルビ。うう~、悩むわねぇ~……」


 なるべくなら、お肉系のピザを選びたい所なのに。絵を見る限り、どれもおいしそうに見えてくる。一番肉肉しそうなのは、ビーフカルビかしら?

 けど、バーベキューも捨て難い。ああでも、プルコギもおいしそう。……これ、クワトロでも少なく感じるわね。八種類ぐらい選べるようになって欲しいわ。


「私は~、やっぱガーリックかなぁ?」


「出た。昨日の餃子もそうだけど、ハルってニンニクが好きなの?」


「無類のね。メリーさんだって、そこそこハマってるんじゃない?」


「……まあ、多少わね」


 多少じゃない。私の好きな物ランキング、第三位まで上り詰めてきている。一位は、もちろんお味噌汁。二位は、唐揚げ。

 唐揚げで思い出したけど、なんで唐揚げピザがないんだろう? もしあれば、速攻で決めていたのに。唐揚げとチーズって、合うのかしら? ものすごく気になる。


「よし、決めた。もう一つはジェノベーゼにして、トッピングにガーリックを足しちゃおっと」


「え? トッピング?」


「うん。ピザを選んだ後に、トッピングも選べるんだ」


「あ、本当だ……」


 新たに出てきたトッピングも、なかなかの量がある。もしかしたら唐揚げも! ……あれ、無いじゃない。なんだ、期待して損しちゃった。


「ええ~、また選択肢の幅が広がっちゃったじゃない。どうしよう~……」


「悩んでる悩んでる。ちなみに、どれまで絞ったの?」


「えっと、バーベキュー、プルコギ、ビーフカルビの三種類よ」


「なるほど、肉系で攻めてるんだね。確かに、こりゃ悩むなぁ」


 私の悩みを聞いてくれたハルが、画面に顔を近づけていく。


「この中だと、プルコギしか食べた事がないや。ビーフカルビとか、こんなの絶対美味しいに決まってるじゃん。バーベキューも、見た目が食欲をそそってくるね。……まずい。このまま見てると、食欲が浮気しちゃいそうだ」


 欲が揺らぎ出してきたハルが、画面に近づけた顔を遠ざけ、諦め気味に腕を組んだ。


「私が言うのもなんだけど。もう一つは直感で決めちゃってさ、残りは次の機会に取っておくのもアリだよ」


「次の機会?」


「そう。なにも、ピザを頼むのは今日だけじゃないんだ。今一番食べたい物をパッと選び、メニューを見るのをサッとやめるんだ。そうすれば、すぐ決められると思うよ」


「パッと選び、サッとやめる……」


 そうか。いつまでも見比べているから、食欲が移り変わって決められないんだ。しかし、ハルの決め方は、やっぱりこれにしておけばよかったっていう後悔が残るかもしれないし……。

 いや、違う。その後悔は、どんな選び方をしても結局はしてしまう。だったら、難しく考える必要は無い。

 今これが食べたいっていうピザを決めて、清々しく後悔すればいい。うん、そうしよう。


「じゃあ、ビーフカルビにするわ。トッピングは無しでお願いね」


「オッケー! それじゃあ復唱するよ。メリーさんが頼むのは、四種のチーズピザに、ビーフカルビで間違いないね?」


「ええ、大丈夫よ」


「よし! それで私が、シュリンプピザにジェノベーゼ。あとは、コーラ三本っと。うっし、注文完了! お疲れ様でしたー」


 どうやってやったのかは分からないけど、注文を終えたであろうハルが、幸せそうな顔をしながらテーブルに突っ伏していった。


「それで、これからどうするの?」


「ピザが来るまで暇だし、テレビでも観てる?」


「なら、ハル。私に、スマホの使い方を教えてくれないかしら?」


「へ? スマホの使い方?」


 ハルにとって、まさかの質問だったのか。突っ伏していた顔が、私の方へ向いてきた。


「なに、調べたい物でもあるの?」


「まあ、ちょっとね」


「ふ~ん、そう……」


 やや言葉を濁らせたハルの目線が、チラリと右へ逸れていく。黙ったままでいるけど、何かを考えていそうね。

 しかし、逃げた目線はすぐに戻ってきて、ふわりとほくそ笑んでから、持っていたスマホをテーブルに置いた。


「いいよ、手取り足取り教えてあげる」


「あら、いいのね。なら、よろしく頼むわ」


 仕草からして断られるのかと思ったけど、案外すんなり快諾してくれたわね。まあ、いいか。これで、まだ見ぬ料理と沢山出会えるようになるわ。

 スマホは私に、どんな料理を教えてくれるのかしら? 今から楽しみでしょうがないわ。

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